09 他種族との異文化的交流
「俺は、お前の趣向が全く理解できん」
久し振りに俺の様子を見に来た先輩は、俺を見るなりそう言った。
「何言ってんすか。いいもんですよー。ふわふわの、もふもふ。それでいてボンキュッボン!な引き締まった体型……」
今俺は獣人を創っている。
犬とか猫とか様々な顔を持ち、顔から下は毛皮を被った人間みたいな体付き。
「確かにペットとして犬や猫を飼うのは……俺も良いと思うが………なんかその……お前の見方がだな………三日もほぼ徹夜で噛り付いて天地創造というのもな……」
先輩はいつもとは打って変わって目が泳ぎながら、俺に話をしてくる。
うーむ……この可愛さとエロさが分からないとか、俺より神様長くやってるのに。分かってないな。
「精が出て素晴らしいと褒めて下さいよ」
「そうなんだが……休憩も無しと聞くし…………やっぱり最近なんか変だぞ……悩み事とかあれば相談に乗るから……」
よく分からないが、先輩はなにやら神妙な面持ちである。
俺としては楽しくケモノだらけの天地創造をしているのだが。
「大丈夫っすよ。創造しているうちに、生命の新たな美意識に目覚めたんすよ。ほらー、その辺のエロものなんかよりずっと野性的で……ふへへっ」
先程見ていた村に新婚さんが出来ていたのを思い出した。お盛んな寝室を見せてみると、問答無用で消された。
「……何も言わん。何も言わんから、三日くらい寝て来い」
「役得つーんですよ。ケチだなぁ」
強制的に天地創造を中断させられて不満気に言うと「いいから帰って寝ろ」とだけ言って先輩は出て行った。
勿論言う事は聞かずに作業に戻る。
さっきの村をもう一度見ると、子どもが五人?匹?くらいで楽しげに遊んでいるじゃねぇか。狼なんだが、子供は子犬と変わらない様な見た目だ。人間の子どもの様に追いかけっこをしているが、途中からもみ合いになり、甘噛みをしながらじゃれつき野原を転がり合う。
いや〜、ころころしてるのは癒されるなぁ。
俺はホクホク顔で子ども達を眺めていた。
獣人は体を獣から二足歩行になるようにしている。なので運動量や筋力も獣と同じくらいにしっかり付いていて、細身か筋肉質な見た目をしている。
頭より体を動かす事を好むので、基本的に引き締まった体つきだ。毛皮に包まれている為、防具も軽装で急所を重点的に守ったものになる。普段着は布切れを巻きつけている程度で、あまり手先の器用な種族ではないんだけどな。
子どものうちは怪我が少ないように、毛皮でもこもこと覆われている。
食事の時間だと子ども達を呼びに来た年上の子は、毛も減り体つきがすらりとして見える。引き締まった体に布を巻きつけているが、その間から覗く脇腹はくびれがあり、控えめな胸は今後の成長に期待が膨らむいい眺め………ふへっ。
にやにやと笑が止まらなくて、口から声が漏れてしまう。
他の集落も見に行こう。狐、狸、羊、馬、牛……あと他になにが側にあったっけか……まぁ、いい。動物王国万歳だ!
この前まで自分が指導していた後輩だが、なんだかんだ目が離せないやつなんだ。
頭もまぁ良い方だし、能力的には申し分ないはずなんだが。なんというか馬鹿としか言いようが無い。
いや、馬鹿で変態な危ない奴だと思う。
いつもは軽口ばかりで大体愉快そうに過ごしているんだが、ここ最近様子がおかしいと周りから聞いた。
口数が減って、どんよりした顔をしていて、心ここに在らず。みたいに色んな事に手が付いていない。だそうだ。さらに三日程前から徹夜でぶっ通しの天地創造をしてるとな。
実際に会ってみようと、さっき後輩の所に行ってみた。悩み事でもあるなら先輩として相談くらい乗れると思って。
想像以上に酷い有様だった。
目の下には深いクマが出来ており、頬が少しやつれている。なのに目がギラギラと、何かに取り憑かれたかの様に血走っている。
躊躇いながらも声をかけてみた。ここに来た意味を忘れては行けない。
後輩は返事は普通に返せてはいるのだが……目の焦点がどう見ても合っていない。でもどこか一点を見続けているような……。
相談とかの前に早急に休息を取らせねばいけない。そんな気持ちになった。
何が後輩をそうしたか分からないが、前回の天地創造が終わった辺りからこうなってきたらしい。無断でやるのは心苦しいが、原因を把握しておいた方が良い思う。
さっき行った時に後輩に帰れと言っておいた。もう、帰って寝ているだろう。どういう経緯か居ない間に調べておかないと。天地創造が原因なら、三日もあれば具体的にどれか突き止められるだろう。深刻なものなら、こちらから何かした方がいい気もする。
そんな事を考えながら用事を済ませた俺は、後輩の所に戻って来たが……
「くふふふふ……ふへっ………へへへ……」
後輩はまだそこに居た。
にやにやとした笑い声を口から漏らしつつ、異様なオーラをまとった後輩。なんて声をかければいいか固まってしまった。
「あれー?先輩また来たんすか?大丈夫っすよーちゃんとやれてますよー」
俺に気がついた後輩は、顔を向けて先に話しかけるが、その目はなんかぐるぐるしている。絶対マズイよこれ……。
どうしてもここを離れたくないようだし……えっと。あーーー………。
「……っ頑張っているようだから、ひと段落したら呑みに行くぞ!お前の優秀さは周りからよく聞いているんだ!先輩としても嬉しいからな!今日は俺の奢りだ!!」
どうすれば良いのかよく分からないので、こじつけでもいいから連れ出すことにした。
「え!マジっすか?ちょっと待ってて下さいね!」
俺の大根芝居に気付いているのかいないやら、後輩は嬉しそうに天地創造を切り上げた。
その後、呑みながら後輩はケモノの素晴らしさを語っていた。
俺は普段やらないのだが、途中で諦めてガンガン呑ませて喋る隙を与えないようにした。本当は原因を聞き出したかったところなんだが……いくら話しを振っても、後輩は弱音らしいものは一切言わないで、ケモノのエロトークに花を咲かせている。
ケモノの魅力語りに相づちのバリエーションもとうに尽き果て、酔い潰す事に専念しようと決めたのだ。真夜中には泥酔した後輩を引きずり、家に送ってあげた。
酷い二日酔いになった後輩は、翌日天地創造を休んだ。
そしてその次の日には、元に戻っていたのだ。詳細はまた今度調べるとして、とりあえず良かった。
動物資料を見る後輩の目がやっぱりちょっと違う気がするのは、後遺症という事にしよう。
主人公、現実逃避回でした。
次回10話更新は3月7日深夜0時頃を予定しています。




