アキレスと亀について説明せよ。
ゼノン「アキレスと亀」の簡単な説明。
かなりいいかげん。
ざっと知りたいという方向け。
友人とわたしの会話。
「アキレスと亀ってあるじゃん」
「あるな。ゼノンだろ?」
「そうそう。あれよくわからねえのよ。最中教えろよ。わかりやすく、丁寧に、スチュワーデスがファースト・クラスの客に酒とキャビアをサービスするようにな……」
というわけで、
ゼノンの有名な話。「アキレスと亀」
あるところにアキレスというものすごく足の速いオッサンと亀が徒競走をすることになった。足の遅い亀はハンデをもらって、いくらか進んだ地点からスタートすることとなった。
アキレスが亀がスタートした地点に辿り着いたとき、亀はアキレスがそこに達するまでの時間分だけ先に進んでいる。アキレスが次に亀がいた地点に達したときには、亀はまたその時間分だけ先へ進む。同じようにアキレスが次の地点に辿り着いたときには、亀はさらにその先にいることになる。この考えはいくらでも続けることができ、結果、いつまでたってもアキレスは亀に追いつけない。
というような感じの話。
アキレス的には
「俺は今、やつのスタンドをほんのちょっぴりだが体験した。い……いや……、体験したというよりはまったく理解を超えていたのだが……。あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
俺は亀を追い抜いたと思ったら奴は俺の前を進んでいた。いくらたっても追いつけなかった。
な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何をされたのかわからなかった……。頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとか超スピードだとかそんなチャチなもんじゃあ断じてねえ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ……」
というような心理状態に陥ったのかもしれない。ゼノンはスタンド使いだったのか。
冗談はともかく。
この「アキレスと亀」は有名なパラドックスの話だ。
どんなにアキレスが走っても、亀に追いつくことはない。そんな話だ。
ちなみにこのゼノンというのは、エレア派のゼノンのことであって、ストア派のゼノンではない。古代ギリシアの自然哲学者で、南イタリアの小都市エレアの人ということだ。プラトンの対話篇『パルメニデス』にもでてるようだ。すげえな。まあゼノンの説明は今回は関係ないので省略。
さっそく考えてみよう。簡単に丁寧に、チュワーデスがファースト・クラスの客に酒とキャビアをサービスするようにな……。
じゃあまず、アキレスと亀がどういう話なんだろう、というところから。
パラパラ漫画で考えてみる。
二つのA、Bという紙の束にパラパラ漫画を描くとする。
漫画上ではそれぞれコース上をアキレスと亀に分けて描く。
※今回はAコースは亀、Bコースはアキレス。
二人の競争が行われる際にいくつか条件を設ける。
①ハンデとして亀のスタート地点をアキレスよりも前の位置にする。
②ページを経過時間として考える。一枚一秒とか。
③亀よりもアキレスの方が速く、加速については考えない。常に一定の速度とする。
④スタート時、アキレスと亀の距離の差は50センチ
アキレス一ページで五センチ
亀一ページで一センチ
この状態で実験開始。
亀とアキレスの距離の差は五十センチ。追い抜くためには亀のいる位置へ、アキレスを移動させなければならない。
ではまず、Bコースのアキレスを動かすために、Bのページをめくる。一ページにつき五センチ進むのだから、五十センチの地点までは十ページ。
しかし、時間とは亀にとっても経過するのだから亀のページもめくらなければならない。よって亀の漫画も十ページめくる。亀は一ページにつき一センチ進むから十センチ先へ。結果として、アキレスは五十センチ地点。亀は六十センチ地点に至る。
二回目。
アキレスを六十センチ地点へ向かわせるために、二ページめくる。
同じく亀も二ページめくる。
アキレス六十センチ地点。亀六十二センチ地点。
三回目。
アキレスを六十二センチ地点に向かわせるために五分の二ページめくる。
※五分の二ページって何だって話だがそこはご愛嬌。正確には五分の二ページ=五分の二(時間)となる。
五分の二ページ進めた際、アキレスのいる地点は六十二センチ地点となる。
同じように亀も五分の二ページ進めて六十二と五分の二センチ地点。
四回目……
五回目……
ゼノンが言うには
『このような工程を同じように繰り返していってもアキレスが亀に追いつくことはない』
ということらしい。あってるかどうかはわからん。
要するにアキレスが、亀がいた地点に至るまでにかかった時間分、亀も進んでいるということだ。だから亀に追いつくことは出来ない。両者の間には限りなくゼロに近い距離が存在していく。
いやそんなことはねえだろうと。
普通に考えれば追いつくじゃん。
では、ここで同じことを別の視点で観察してみる。
今度着目するのは、距離ではなく時間。
二つのパラパラ漫画を同時に一ページずつめくったらどうなるだろうか。
条件を再確認してみる。
③亀よりもアキレスの方が速く、加速については考えない。常に一定の速度とする。
④スタート時、アキレスと亀の距離の差は50センチ
アキレス一ページで五センチ
亀一ページで一センチ
仮に一ページを一秒と考えよう。もちろん分でも構わないけれど。
ここからは算数の問題になる。懐かしいな算数。小学生か。
小学校の算数の問題風に書き換えるとこうなる。
問い
アキレスさんと亀さんが競争をします。
亀さんは足が遅いのでハンデとしてアキレスさんより五十センチ先の地点でスタートします。アキレスさんは一秒につき五センチ。亀さんは一秒につき一センチ進むとして、アキレスさんが亀さんに追いつくには何秒かかりますか。
といった感じ。
ふふふ。小学生の諸君。諸君の苦手な距離の計算を用意してやったぞ。
とまあ、最近の小学生は塾やらなんやら行ってたりでこれくらいの問題は余裕かな?
脱線したのでさきに進むとして。
では計算をしよう。人に計算工程を見せるのって結構ドキドキだね。恋かな?
アキレスが亀に追いつくまでの時間をX秒とすると
スタートからX秒後のアキレスの移動距離は5Xセンチ。
同じように
スタートからX秒後の亀の移動距離はXセンチ。
ここで、スタート地点のハンデ五十センチを加算して考えると、以下のようになる。
5X=X+50
いやはや簡単な問題ですな。
4X=50
X=12,5
となる。多分あってるはずさ!
つまり、アキレスは亀に追いつくわけで。いやまあこうやって計算する前からわかってるんだけどゼノンが何か言うからさ……。
とまあこのようにアキレスは亀に追いつくということがわかったわけだけども、なぜ最初にやったパラパラ漫画の場合だと永遠に追いつくことができなかったのか。
それは時間という概念の捉え方が原因になっている。
時間と言うのは常に連続している。
勿論こうしている間にも時間は進み続けているし、急に止まることはない。そういう概念だ。
最初のパラパラ漫画の例。このとき、この実験では時間を切り取っている。つまり一瞬を考えているわけだ。
五分の二秒後の世界。この一瞬ではアキレスは亀に追いつくことは出来ない。なぜなら一瞬だから。時計の針は止まっている。
例えばカメラで五分の二秒後の一瞬を撮影したとして。写真の中では、両者ともに停止している。いや、両者だけではなく、写真の中の世界は全てが停止している。
だがしかし。時間は連続しているのだ。
写真の中の世界を見ると、彼らは停止しているように見えるかもしれない。だが実際は違う。彼らは運動をもって移動しているからだ。一瞬では停止しているようにみえるが、連続した時間の中では運動によって確かに移動しているのだ。
――見えない運動が、常に世界を動かしている。
ゼノンはこの「一瞬」の概念を忍び込ませてアキレスと亀の関係を逆転したってわけだ。すげえなゼノン。スタンド使いかよ。
だが「連続した時間」の概念により、アキレスは亀を追い抜くことができるのでゼノンのスタンドも打ち破ることができるのだ。別にゼノンが悪と言うわけでもないけれど。
というわけでどうだろうか。
簡単に説明、ということだったので、内容についてはかなり省略している。ゼノンやそのほかの人物の考えについてはほとんど触れていないので、そこらへんは興味が湧いたら自分で調べてほしい、なんて。
そんなこんなで簡単な説明終わり。