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世界で最初にあった物語

 ルーンはフィアグスルーンを掲げた。それは緑色の光を放つ。それに彼女たちは包まれて、次の瞬間には開けた島ではなくて閉じた森の中にいた。プラナはルーンの姿を軽く見つめてから空を見た。今いる場所を確かめるためだ。太陽が見えた。見えるはずのない場所に。

「嘘・・・」

プラナの様子に気づいたキグナスも天を見た。

「おいおい、空間魔法でも使われてるのか?」

「違う・・・」

プラナは呟いた。

「そう。ここは人間たちが循環海流と呼んでいるところの中よ」

「ルーン・・・」

彼女はそう言った瞬間に猛烈な眠気に襲われた。彼女は横になって目を閉じた。


 彼女は翼が空を切るの感じていた。風は彼女に全ての思いを伝えてくれる。彼女は全てを知っている。そう、全ては繋がっているのだ。ニーズライア。全てを調和する炎と全てを繋ぐ空間を司る宝珠。でも彼女は海を越えてはいけない理由がわからなかった。だから彼女は海を越えたいと願った。願いを込めた宝珠を彼女はコーデリアに返した。


「夢・・・。これがそうなの?母さん・・・」

目覚めるともう夜だった。そしてここには何故か月光が照っていて、しかも光は激しかった。

「ルーン、大丈夫?」

「え、私なら平気だけど」

先ほどまでとは全く違う普段の様子そのままのルーンがいた。彼女は少し驚いた。

「キグナスも起こして夜の散歩にでも出かける?」

「月光も何故か照ってるしいいんじゃない?」

彼女はそう応答し、キグナスを杖で軽く叩いて起こした。

 森の中を歩き回るが何故かどこにも出ることがない。確認のために引き返してみても何故か同じ景色には出くわさないのだ。まるで全てが生きているかのように景色そのものが変わっていくのだ。彼女たちはそんな場所を歩きに歩いた。やがて夜が明けた。流石にこんな場所を歩いていては身体が持たない。プラナは休憩を提案した。皆がそれに同意した。


 彼女は海に向かって足を少し進めた。波が足に当たる。だがそれ以上進めない。受け継いできた記憶が邪魔をしているのだ。禁忌を犯すことを。彼女は諦めて天へ舞った。エルファースがそこに待っていた。彼女にレヴィーク-クラウディアはフィアグスルーンを渡した。エルファースは宝珠で翼を撫でると、それを輝かせた。他の妖精たち全員にクラウディアの海を越えたいという願いが伝わった。


 プラナが目覚めた瞬間、風が彼女の身体を包んだ。彼女はまるで風に支えられるかのようにして起き上がった。相変らずの森の中を彼女たちは進む。だが変化は訪れない。彼女たちが海岸線に出ることすらないのだ。そもそも途上大陸以外で月が光っているということ自体が驚きだった。

「そんなに大きな島じゃないはずなのになんで海岸線に出ないんだろう」

プラナはそう口にした。

「レフィア-ローナに向かっているからよ」

またいつものルーンと様子の違う声が聞こえてきた。彼女は心配そうにルーンの顔を見つめた。キグナスはそんな彼女たちの様子をただ見守っていた。


 母が言っていた夢。それは旅の終わりを知らせるもの。その日の夜、ルーンが眠ってから彼女はキグナスに正直に話した。

「ねえキグナス・・・」彼女はそう言いながらキグナスに寄った。

「プラナちゃん、なんだい?」

「旅を終わらせるのが怖いの。ルーンの様子がどんどん変になっていく・・・」

青髪の青年はしばらく沈黙した後こういった。

「だったら旅を終わらせなければいいだろ」と


 ルーンは森を見ながら不意にある言葉が脳裏によぎった。

『現在を生きるは私たちだけ。彼らは既にこの地を去ってしまった』

彼女はこれが今の自分たちを表している気がしてならなかった。風が彼女の身体を優しく撫でた。


 彼女はフィアグスルーンを返してもらうと天からまるでトルンに翼を押されるかのようにして地面に降り立った。トルン-クラウディアはその生命が終わった今でも月となって彼女たちを照らしている。彼女は再び海を越えようとした。そこにコーデリアとエルファースがやってきた。


 昼は彼女たちはただただ歩んだ。歩むにつれて風が強くなっていく。彼女はそれを全身に受けながら進んでいた。彼女は見ている夢が過去の自分の記憶だと段々気づき始めた。そしてルーンもまた同じ状態だと。開けた場所に出た。そこの先に進んではいけない気がする。だがルーンはプラナの制止する声も聞かずに先に進んでしまった。プラナは決心した。彼女はキグナスのほうを向いた。そしていきなりキスした。彼女はレヴァーディアを彼に渡した。

「何でこんなことをするんだ?」

「旅には終りが必要だからよ。あたしが父さんの旅を終わらせる」

「それとこれと何の関係が・・・」

「ごめん、これ以上は説明できないんだ」

あなたまで思い出してしまったら一体誰が旅を終わらせるの、と彼女は心の中で付け加えた。

「プラナちゃんがなんと言おうと俺はプラナちゃんとずっと共にい続けるぞ!」

彼はそう言ったが彼女はそれを無視して後ろに下がり彼から遠ざかった。

「男は・・・女のわがままを・・・聞くものよ・・・」

彼女がそういうとニーズライアが光か輝き彼女の前から男の姿は消えた。彼女は向きを変えるとルーンの後を追った。父の旅を終わらせるために。


 そこは全ての風が集まり全てを純化されて再びどこかに吹きにいく場所だった。フィアグス。空に集まる夢である風。彼女はそれを意識しながらルーンとともに目の前に落ちている白い鳥の翼のようなブローチの前にいた。彼女はそれを手に取るのを躊躇したが、ルーンはそれを彼女に無理やりにでも持たせようとした。フィアグスルーンに選ばれたものの使命。それはクラウディアをこの地に導くこと。

「確かにもうあたしは海を越えられない・・・」

彼女はそう言いながらそのブローチに触れた。


 レフィア-ローナ。彼女の左胸についている羽飾りのブローチの名だ。そして彼女が妖精王クラウディアである証だ。彼女は海を越えようとした。そこに彼女を止めるつもりなのかエルファースとコーデリアがやってきた。彼女たちは心を伝えた。

『海を越えること。それ自体は禁忌。でも時には禁忌を犯すのも必要かもしれない。だから私たちはあなたについて行きます』。彼女たちは手をつなぎ海に向かった。少しずつ陸地が遠くなっていく。月光は消え何の意味もないただの光である日光が彼女たちの翼を照らす。そして更に進んでいくと別の陸地が見えてきた。彼女たちはその地に降り立った。おそらくエルファースとコーデリアが止めてくれなかったらレヴィーク-クラウディアはその地を探検していただろう。彼女たちの焦っている心が伝わってくる。

『クラウディア!羽が腐り落ちてる!』

『多分この土地の瘴気の所為』

彼女は突然疲労感を覚えその場に倒れこんだ。

 長い夢。最初の妖精、最初のクラウディアである虚空王、フィアグス-クラウディアからレヴィーク-クラウディアまでの長い夢。最初は孤独だったこと。だから無力だったこと。そしてやがて魔法そのものが彼女の願いに応えたのか生命を持ち始めたこと。彼女が夢から覚めるとそこはもといた大地だった。彼女を最後まで運んでこれたのはエルファースがフィアグスルーンを操れたからだった。空に集まる夢である風と全ての基盤たる魔力の宝珠を操ることが出来るのはエルファースが誕生するまでは本当の生命を持っているクラウディアだけだった。レヴィーク-クラウディアの代は本当に全てが違うらしかった。コーデリアがシーファーグスで翼を治してくれたらしく再び彼女は宙を舞うことが出来た。しかしそこで彼女は他の妖精の恐ろしい思いを感じてしまった。妖精たち全員の羽が腐り落ち始めたのだ。彼女は地面に降り立った。すぐにコーデリアとエルファースが来てくれた。彼女たちの翼も半分消滅していた。シーファーグスとフィアグスルーンとニーズライアが輝いている。クラウディアは全ての宝珠を手に取ると思いを全ての妖精に伝えた。

『あなたたちの力を貸して。全てを浄化する大樹を生み出す』

 他の妖精たちの思いがどんどん消えていった。本当の生命をもっていないが故に本当に死ぬことは出来ず存在が大地に還元されるだけのものたち。そしてやがて森に大樹が生まれて瘴気は浄化された。だが魔法を使う力は消えてしまった。

『レヴィーク-クラウディア・・・。永遠王という意味ではなくて最終王って意味だったのね』彼女の思いが届くのももう既にエルファースとコーデリアだけだった。彼女の胸からレフィア-ローナが落ちた。彼女はそれを拾おうとしたが拾うことが出来なかった。彼女はそのショックでフィアグスルーンを落としてしまった。エルファースはそれを拾うと宝珠の声を聞いた。そして全てを終わらせる最後の魔法の存在を知った。

『聖域へ。そこでしか使えない最後の魔法を使う」彼女は声に出していた。

エルファースはそう言って最初のクラウディアが降り立った聖域へと飛んだ。レフィア-ローナとともに彼女たちは地面に足をつけた。彼女は宝珠を空中に浮かべて最後の魔法の説明を始めた。

『多分私たちが死んでもこの大地にはまた新しい生命が生まれる。だから私たちもその生命として生まれ変わるの。もしも妖精としての生命を望むのならまた私たちで聖域へ来ればいい」

『その魔法の名は?」

レヴィーク-クラウディアもまた声に出していた。

『リズリア-ファーグス-ラス-クラウディア。終わりの眠り」

『リズリア-ファーグス-ナ-クラウディア」

そう言ってコーデリアは消えた。その後にはシーファーグスが落ちた。

『リズリア-ファーグス-ラス-クラウディア」

レヴィーク-クラウディアが言った。その後にはニーズライアが落ちた。

『リズリア-ファーグス-サート-クラウディア」

妖精族最後の言葉はエルファースが言った。その後にフィアグスルーンが落ちた。


 プラナ=E=レヴァーディアは全てを思い出した。彼女はルーン=フィン=エルファースの方を向いた。

「あるものはありないものはない。理は虚空より来たりて混沌へと帰す。現在を生きるは私たちだけ。彼らは既にこの地を去ってしまった。私は全ての根源を探してたけどまさか私たち自身が根源だったなんてね・・・」

「あたしは・・・」

「妖精としての生命を望むの?」

「あたしは妖精でもあるけど同時に人間でもあるのよ。じゃああたしはいったい」

「あなたはクラウディアよ」

「でもあたしは人間として生きたい」

「それじゃ私の生命は無駄だったの?」

「違う!」

「それに終わりの眠りはあなたにだって!」

「妖精の生命と人間の生命は違いすぎる。終わりの眠りでやり直すことが出来るのは完全な人間ではないあなただけよ」

そう言いながらプラナは背中に力を籠めた。想像通り身体が浮かび上がった。力が戻ったのだ。

「私だけが生き残るの?」

「大丈夫、コーデリアがいる」

「それにあたしの妹も」

プラナは付け加えた。エルファースもまた背に力を籠めた。だが浮かぶことは出来なかった。彼女の翼はまだ不完全だったのだ。プラナは木の枝の上に座り見下ろした。

『私だけ生き残っても意味がない」

『あなただけでも生きていればあたしたち妖精がいたって意味がレヴァーディアに伝わる」

『レヴァーディア?」

『あなたの論文を読んだ。世界の名はレヴァーディアよ。他でもないレヴァーディア」

彼女はそう言って最後に別れの言葉を言った。

『あなたは本当の生命をもっていないからやり直せるの」

彼女はそういって森の奥へと飛び去っていった。ルーンはいままでで最も強く宝珠を握り締めた。


 冬の山の中腹付近にある村に立ち寄る。小さな町だったが酒場があったので彼はそこに向かった。中には金髪の少女がいた。彼女とよく似た雰囲気の幼い女性が。彼は彼女の席に座った。

「あ、何するんです」

「お前、名前は?」

「エコー。エコー=クラウディアです」

「これを読んでくれ」彼はそう言いながら鞄から原稿を取り出した。それを彼女に渡した。彼女はそれを手に取り、何も言わずに読み始めた。

「これに出て来るプラナ=E=レヴァーディアって・・・」

「何だ?」

「実在するの?しないの?」

「するよ・・・」

「あれ?おじちゃん泣いてるの?」

「プラナ・・・。旅は終わったんだ・・・。俺がお前の旅を終わらせたんだ・・・」


 エコーはカトルラの家で久々に足を動かした。というのも執筆作業が終わったからだった。彼女はキグナスから受け取った『最初にあった物語』の原稿に加筆修正分を挿し込むと彼女は立ち上がった。

「キグナスさんの終わり方ではダメよ。お姉ちゃんの旅はあんな終わりかたじゃなかった。わたしにはわかる」

エコーは胸に手を当てながらそう言った。そして窓を開いた。風が入り込んでくる。港町の気持ちのいい潮風だ。彼女はそれに髪を揺らした。

これにて第三部終了です。

第四部はサイト掲載分から大幅に変更しますので

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