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二人の出会い

 プラナは父親に頼まれてカトルラからルーテクスに手紙を持っていくことになった。父ディックは娘を完全に信頼していたからこそ、一人でちょっとしたお使いに出させたのだった。実際のところ、ディックに連れられてディーター侵入を果たしたことのある少女にとってこの程度の仕事は容易だった。

 本格的な旅に出るときと同じ様に朝早くに家を出たので、足の速い彼女は昼前にはルーテクスの郊外にたどり着いた。あまり機能的とはいえない市街地を通り大学を目指すのだからこれからのほうが大変だ。彼女は茶色い髪を左手で梳いた。

 左のポケットには便箋が一つはいっていて、右のポケットにはおやつが入っている。プラナはおなかがすいたな、と思いそれを食べることにした。一つしか入っていないわけではない。が、あまりにもボリュームが少ないので若干8歳の少女の小腹を膨らますことすら出来ない。彼女は仕事を終えてから家でゆっくりと、両親とともに食べることになるであろう夕食を思い、我慢した。

 父の情報を頼りに道を探し進んでいくと、言っていた通り坂道に差し掛かった。彼女は一息ついてから坂を上り始めた。今は彼女はゆっくりと歩いていた。目的地は近い。急ぐ必要はもうない。

 ルーテクス大学歴史図書館の横を通り過ぎ、第一講堂に入る。ホールは多くの学生で賑わっていた。彼女は彼らの話を小耳に挟みながら奥へ進んでいった。


 手紙を渡し、さあ戻ろう、と思ったところで彼女は誰かを見つけた。彼女の栗色の瞳が大きく見開かれる。ポニーテールになっている髪を縛っている二本のリボンはそんなことにも動じなかった。彼女はとりあえず駆け寄ることにした。


「私に何か用?」

ところが彼女が背から声を掛ける前に、少女の方が答えたのだった。彼女は振り向いてプラナを見つめた。プラナも彼女の瞳を見る。二人はしばらくお互いの瞳を覗きあっていた。

「これ食べる?」

彼女は右ポケットからお菓子を取り出し、少女に渡した。彼女はそれを受け取り、傍にあるテーブルの上に置くと再びプラナの方を向いた。

「食べると話が出来なくなるから後でね」

彼女はそういうと立ち上がって続けた。

「あなたとは何か気が合いそうね。良かったら奥で話さない?」


 緑色の肩までかからない程度の長さの髪の少女は英雄の娘を自分の部屋に案内した。そこは第一学生寮の屋上に特別に作られた部屋だった。第一講堂と第一学生寮をつなぐガラス製の渡り廊下を恐怖しながら渡った二人はそこにたどり着くまでの間特に言葉を交わさなかった。

 彼女は部屋の扉を開けるとプラナを先に中に入れた。そのすぐ後に少女も入る。部屋の中には大人用のベッドが一つと彼女の家にもあるような大きさの本棚が二つ置かれていた。大きな机の上には最大サイズのインク壷が黒、赤、青の三色と、紙束が置かれていた。ライトグリーンの髪の少女は机の横にテーブルに座り、プラナをベッドに座らせた。

「私はルーン」

「え!?あのルーン?」

「そう。そういう反応されるって思ったからここで話すことにしたのよ」

「ルーン=フィン=エルファースか・・・。去年主席でここを卒業した・・・」

プラナは感慨深げに言った。

「大したことないよ。あなたは?」

「あたしはプラナ。プラナ=E=レヴァーディア」

「・・・呆れた。何でレヴァーディアの娘なんかが一人でこんなところに」

「手紙を持ってきたの。それだけよ」

ルーンはふうん、と頷き、机に向かった。プラナは彼女が何をしようとしているのか分からなかったがとにかく時間がかかると思い、ベッドに横になった。


 ルーンにとっては短い時間、プラナにとっては長い時間が過ぎた。ルーンは目を閉じている少女が眠っていないことをすぐに悟り、話しかけた。

「私たちはもしかしたら」

「ん、何?」

「いや、なんでもない。いいなあ、プラナには両親がちゃんといて」

「・・・・・・」

栗色の瞳の少女は答えなかった。

「あ、ゴメン。こんな事言われたら答えに窮するよね」

「出会ったばかりの人を気遣うのは大変よね」

「そうね」

ルーンはそう言いながらプラナの全身を眺めた。かつてどこかで彼女を見たことがあるような気がしてならない。それは何時だったのだろうか。分からない。

「じゃあ次の話題。何か面白い話をして」


 プラナとルーンは順番に自分の実際に体験した話や、伝聞した話、各地に伝わる伝承などを話した。ルーンは特にプラナのカールソラーナの伝承に興味を持った。プラナはルーンがここルーテクスに自分の記念公園が作られるのが嫌だ、という話が印象に残った。

「さてと、それじゃああたしはそろそろ帰るね。遅くなっちゃう」

夕方まではまだ時間があるが昼は明らかに済んだ時間に彼女は言った。

「うん。またね。会えて良かった」

「今日は良い日だったわ。あたし一人で来て正解だったみたい」


 プラナは部屋を出て行った。ルーンは天上のルビーを見つめながら、次の研究のことを考えた。だがどうしても思考は英雄の娘のことのほうに向かってしまう。彼女はディック=C=レヴァーディアの冒険記録でも明日になったら調べよう、と思った。

「プラナか・・・。何か私と似てる・・・」

彼女はそう言い、再び他の人と意見を交わすために講堂のホールに向かった。

第三部第一話です。よろしくお願いします

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