(10)
「裏切って、すまないな、一人。だが、これが本当の僕さ。それに」
馬羽は修英のこめかみに銃口を当てながら、ゆっくりと修英の背後に回りこんで行く。
「僕がどう言う人間かを知れば、君は決して僕を許さないだろうね――」
一人は問いたげな目をして馬羽を見上げる。
だが、馬羽は既に感情をその冷たい表情の下に隠してしまっていた。凍るように、白く冷たい頬――。
彼は廊下へと続くドアを後ろ手で開く。
「一緒に来てくれ、修英」
そう言って、修英の車椅子に手を掛ける。
「彼らの目の前で君の頭に風穴を開けるのだけは、止すよ」
「ぎりぎりの所で、そうやって中途半端な仏心を出すのが、お前なのだろうな――」
修英は返す。
「だが、殺ると決めたからには一気にカタをつけるべき所だったな、馬羽」
ドアの影から、白いシャツの手が伸びる。
馬羽の後頭部にヒヤリとした金属が触れた。
「別動――」
耳元で、カチリと安全装置を外す音がした。
「風穴が開くのはあんたの頭だよ」
「月陵――」
馬羽が両手を挙げながら呟く。
「こんな状況で、僕が修英の傍を離れると思っていたのか?」
月陵は嘲笑するように言い放った。
馬羽は、リーナが向ける銃口に視線をやる。二つの銃口が自分を狙っている。どちらが優位なのか、考えるまでも無い。
「殺すな――」
修英が振り向きもせず、言う。
月陵は、銃を振り上げ、馬羽の後頭部を一撃した。




