1-6 決意と練習
いつもいつも間違いが多くてすいません。
間違いがない回がないという…
最近、俺はとても困っていた。
なぜか。
本を読んでくれる男、いや青年がよく俺の部屋にくるのだ。
いつ入ってくるかわかったもんじゃないから魔法の練習をしながらドキドキしてる。昔、テスト前に勉強してると言いながらこそこそ部屋で漫画を読んでいたときと同じ気分だ。あーゆうときに読む漫画って異常に面白いんだよな、なんでだろ。
しかも、今回は俺の一生がかかっている。
いや… あのときも生死に関わってたけど。母さん怖かったし…
彼は俺のいる部屋とドアでつながっている部屋にいるらしく( 住んでるのかもしれない )、今まではお手伝いさんが朝ごはんとともに俺を起こしてくれていたが、青年が毎朝起こしてくれるようになった。
夢から覚めたばかりでのほほんとした気分で目を開けたとき、ものすごい整った顔がこちらを覗き込んでいたときの驚き。イケメンすぎるというのも問題だな。こんなとこでバイトしてないで、モデルとかしてた方が絶対いいと思う。すぐに売れっ子になれるだろう。このことはしゃべれる年齢になったら教えてやろうと心にとめている。
「 おはようございます。本日はあいにくの雨でございますが… 」( 長い )
目を覚ますと毎朝俺に話しかけてくれる。
赤ん坊だから返事は期待してないだろうけど、ちゃんと心の中で「 昨日はあんなに晴れてたのにな! 」とか返事してるんだぜ。
ぶっちゃけ外に出ないから天気関係ないけど…ここの家の方針は子供は部屋の中で育てる!なのか俺は一回も外に出たことがない。窓から見える景色も綺麗で好きだし、魔法という未知のものと日々格闘している俺は特に困ってはいないが、俺の体は大丈夫なのだろうか。
昔授業で読んだ英文に、子供はある程度外で遊ばせてケガをした方が病気に強くなるとか書いてあったし。そもそも日に当たってないから、色白の肌がもっと白くなってる気がして心配なんだ。もやしっ子になってしまう。
「 … 本日は私用がございまして、控えていることができません。申し訳ございませんが、なにか御用がございましたら… 」
おっとまだ彼の挨拶は続いていたらしい。再び彼の言葉に耳を傾ける。もうヒアリングは完璧だな。
青年はカーテンを開けて、水差しを近くにある机の上におくと、一礼をして部屋を出て行った。
今日は青年がいない=魔法の練習ができる日だったが、俺はすぐに始めようとはしなかった。
実はやりかけていることがあるのだ。
俺はベッドの上に横たわったそのままの体勢で天井を見つめる。
10458、10459、10460、10461…
それは天井の模様の数を数えること。最近何もしないで横たわっていなきゃいけない時間が長かったので挑戦しているのだ。コツコツと続けていたから、順調に進み、あと少しで終わる。忘れないうちに終わらせようと淡々と数を数えていく。
10768、10769、10770…
ラストスパートだ
…11108、11109、11110、11111
天井左下すみの最後の模様を数える。終わった。
なんだ、ゾロ目だったのか。俺の心が満足感でみたされていく。やっぱり大きなことをやりきったあとは気持ちがいいな。本当に天井の数を最後まで数え切るような奴は滅多にいないだろう。
凝視しすぎてしばしばする目を休ませたあと、俺は起き上がった。
さて、今日も始めるか。時間もあることだし、最近考えていたある実験をしてみようと思っている。
水差しから手のひらに水をたらす。手のわずかな振動に合わせてちゃぷちゃぷと踊る水をしっかりと見つめる。
「 美しき氷の花となりて姿をあらわせ!」
考えておいた呪文と共にパキパキと音を立てて水が中心に集まって行く。やっぱり魔法って何度見てもおもしろい。俺が魔法のない世界の感覚だからかな。ここの人にはこれが当たり前なんだろう。
手のひらにのった氷をコロコロと転がしてみる。
なんだかな…
いまいち美しくない。もっと幻想的な美しさを想像してたのに。だいたい左右対称じゃないしなと思いながら、氷の花を見てると、花にお前の力不足だよと言われているような気がしてきた。
なぜこんなことをしているのか。
もしこの世界が魔法が使えなきゃ生きていけない世界だった場合、生きて行くためには他の技術を磨くしかない。すなわち芸術。
俺が唯一できることは凍らせること。それならば俺は…
喫茶店のマスターになるしかないっ!!
夏の売れ筋はシェイク。落ち着いた店内には静かなクラッシック音楽が流れ、ジュースの中に浮かぶ可愛らしい形の氷が人気。若い女性や子供連れで店内はほどほどに賑わっている。
もう俺の頭の中には完璧なヴィジョンが見えていた。これはそのために必要な第一歩なのだ。
しかし、まだ美しい氷の花を咲かせられるにはまだ時間がかかりそうだ。喫茶店のインテリアとして大きな氷の彫像も作れるようになりたいし、小さいものはきれいな形は当然として、大量に作れるようにならないと商売として成り立たない。
昼ごはんの時間がやってきた。何食わぬ顔で食事を済ませる。今日は蛇さんが休みの日らしい。食事の時間もずっと横にいる青年もいないし、部屋にいたのは俺を含めた3人だけだった。
二人が出て行ったあと、練習を再開しようとすると、ベッドの上に哺乳瓶が置いてるのが目に入った。哺乳瓶がおいてあるのは初めてだ。ようやく赤ん坊の横にコップを置いていてもしょうがないことに気づいたのか。全く!普通の赤ん坊だったら大変なことになっていたぞ。
不透明な哺乳瓶の蓋をあけ、中を覗き込む。白い、ミルクだ。
ミルクか… 食事の時にいつも飲んでいるのと同じだと思うが… なぜいつもと哺乳瓶が違うんだろう。前には割っちゃったのかな?
今日はラッキーだ。部屋で俺一人と牛乳。最高なシチュエーションだ。
哺乳瓶の中身を覗き込み、「 フリーズ 」と唱える。
うまくいったことを確かめるため、牛乳の水面をつつく。水面はふわんふわんと揺れた。
薄めの固まりをつまみ上げ、口の中に放りこむ。口を動かすとシャリシャリと涼しげな音がした。
ミルクアイス完成だ。
ちょっと味が薄いけど。水から固まっちゃうんだよな。全部凍らせて食べても良かったが、この体がお腹を壊したらやだったので哺乳瓶の蓋をしめて脇においやる。
今度こそ練習の続きをやるためだった。さっきの行動からわかるように、直接目で見ている液体じゃないと凍らせられないことはもうわかっている。
何はともあれ、今は毎日魔力をからにして、絶対量を増やそう。俺が水が入ったコップを5メートル離れたところにおく。
最弱でも最高のアイスをつくるために。
「 フリーズ! 」
天井の模様数えてる場合じゃない
8.9 訂正しました。主人公がミルクを凍らせる前に飲んだことについて。理由はすぐにわかると思います。とりあえず、筆者こそ主人公に模様数えさせている場合じゃありませんでした。すいません。