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第三王子エルメル  作者: せい
初等部編
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5-1 不思議な転入生


「 あなたなんか、大っ嫌い!」

 女の子の叫び声が響いた。突然ことだった。

 机の上に乗っていたスプーンが跳ね上がり、塵一つない床に転げ落ちる。

 俺を見た瞬間に朝食の席を立ち、睨みつけながら言い捨てた小さな女の子はドアの向こうへ駆けていく。真っ赤な髪のツインテールがひょこひょこと揺れていたが、すぐに姿を消してしまった。


 一瞬場は騒ついたが、すぐに何人かのメイドさんがその女の子を追いかけていく。俺はしばらくその様子を呆然と見ていたようで、気がつけばスプーンはすでに拾われていて、何事もなかったかのように磨き上げられたものが整然と並んでいた。


 我に返った俺は、マティアスをみた。すると、一体どうしたのかと思わず声をかけてしまいたくなるくらい顔面蒼白になっているではないか。


「だ……大丈夫?」

「申し訳ありません!今のは自分の妹のシェンリルです。後でしっかりと謝らせます。エル様にあのような暴言を!」

「ああ……うん。そのことはいいんだけど、何かしちゃったかな?」

 マティアスは何度も何度も申し訳なさそうに謝ってくれたが、一瞬のことで何がなんだか分からない。

 今日はついに学園に転入する日で、いつもと違う時間に朝食を取ることになったのだ。

 食堂に入った途端、女の子に嫌いと言われてしまった。初対面のはずだが、あっちは俺を知っているようだった。


「しかし、なぜシェンリルはあんなことをしたのでしょうか」

 朝ごはんを食べながら、マティアスは首をひねった。結局時間もなかったためそのまま食事をとることとなったのだ。

 それはこっちが知りたいところだ。俺が何かしてしまっただろうか。でも、初めて会ったはずなのだ。


「なんだ? マティアスわかんないのか。あれは嫉妬だろ」

「嫉妬? 一体何に対してだ?」

 何時の間にか現れたレオニートがきっぱりと言いきった。


「マティを取られて怒ってる。シェンリルはお兄ちゃん大好きだからな。お兄ちゃんと言っても、マティアスだけだけど。カシュバルさんのことはこの前、『女装していて、気持ち悪い』って言ってたし」


 ブラコンということか。

 そもそも、いきなり見知らぬやつが現れて勝手に暮らし始めたんだ。マティアスを取られたとか関係なしに嫌だったに違いない。マティアスの妹さんの存在を知らなかったとはいえ、これは俺が悪い。


「悪いことしちゃったな。これから頑張って仲良くなってみるよ 」

 フォークがささった野菜をじっと見つめ、自分に言い聞かせるように言った。

 シェンリルちゃんは学園で俺が入る予定のところより下の学年にいるんだそうだ。同じ家に住んで、同じ学校ならなおさら仲良くしたい。今度会ったときは自分から話しかけてみようと思った。



  ♢♢♢♢♢



「 エル様、何かあったらすぐ言ってくださいね。帰りは自分がお迎えに上がります。道は先日お教えしましたし、職員室に行けばいいようにしてありますから、あとは…… 」

 校門の前でさっきからあたふたと同じことを繰り返しているマティアスを制す。

「そんなに心配しないでも大丈夫だよ。地図持ってるし。いってきます 」


 試験の日と同じように校舎に人が少ない。もう一時間目が始まっているせいだと思う。初日は二時間目から受ければいいと学校からの手紙には書いてあったのだ。


「 少しだけ矮鶏くんの様子を見てから行こう 」

 マティアスに書いてもらった地図を持っているので、もう迷子になることもなく、時間に余裕がある。俺は中庭に向かうことにした。



「 元気か~? 遊びにきたよ 」

 矮鶏くんは最初にあったときと同じように足に鎖を繋がれ、横たわっていた。

 前回よりも頑丈な足枷になっている気がする。そんなに逃げられたくないんだろうかと俺は矮鶏くんに近づきながら不思議に思った。何か事情があるのかもしれないが、言葉で説明すればもう少しマシになりそうなのに。


「 お前は今日もフワフワだなぁ 」

 矮鶏くんは眠そうな目でこちらをじっと見ている。俺は矮鶏くんの白くて柔らかな毛に飛び込んだ。


「この毛毟って、お布団にしたいぐらいだ」

 天然羽毛布団なんて贅沢だ。顔を柔らかい毛が撫ぜてくすぐったい。幸せな気持ちになって、グフフと笑う。

 すると、急に矮鶏くんが体をおこして身を震わせ始めた。


「 今日はもう行かなきゃいけないんだよ。ごめんな 」

 思わず武者震いをしてしまうほど、遊びたかったらしい。俺はさっきまで退屈そうに横になっていた姿を思い出して可哀想になった。

「また遊んでやるから。じゃあな」


 それを聞いて、鎖が伸びる限りの範囲を走り回って暴れ出した矮鶏くんを背に職員室への道を歩き出した。あんなにはしゃいで、よっぽど人と遊ぶのが嬉しいんだろう。




「 君がエルくんか。私はサリルです。早速クラスのみんなに紹介するからついてきてもらえるかな?」

「 よろしくお願いします 」

 職員室で俺を待っていたのは担任になるサリル先生だった。優しそうな男の人で、ホッとしながら挨拶をした。

 長い廊下を歩きながら先生と話をする。


「 みんなには新しい子がくるとだけ言ってあるんだよ。こんなことは滅多にないからね。今ごろクラスは盛り上がっているはずだ 」

「はぁ…… 」

 それはかなり困る。転入生がやってきて盛り上がる気持ちはわかるがそれは男子が可愛い女の子がくるんじゃないかとか、すごい子がくるんじゃないかとか期待しているに違いない。でも、実際やってくるのは俺だ。盛り上がりの中、現れたのがこんな男だったら、俺なら間違いなく暴動を起こす。


「 私は先に教室に入るから、エルくんは外で待っていてもらえるかな? 呼びかけたら前から入ってきて 」

「 分かりました 」

 こういう時ほど時間ははやく過ぎていくらしい。俺をおいてサリル先生はさっさと教室の中に入っていってしまった。


「 今日はみんなにこの前話したように新しいお友達がきてます 」

 扉越しに先生の声が聞こえる。同時に生徒たちの歓声も。


「先生! 女子ですか? かわいいですか?」

 違う。ごめん、違うんだ! 俺はたった一人、声にならない声で叫んだ。

  「いえ、男の子ですが…… 」

 そうだ。先に否定してくれてありがとうございます。できるだけハードルを下げてくれないと、俺は目の前のドアを開けられない。


「とっても可愛くて礼儀正しい子ですよ。さあ、どうぞ。入ってきてください 」

 先生がハードルをあげるのはやめめてください。


 俺は覚悟を決めて、教室のとびらを開けた。左手に座っている生徒たちの顔を見ないように俯きがちに先生の横まで歩く。

「さっそく自己紹介してくれるかな 」


 ここへくる途中に考えた挨拶も自己紹介もすべて頭の中から吹っ飛び、真っ白な頭で唯一言えたのはこれだけだった。

「……エルです」

 ダメだ。反応が怖くてみんなの顔を見ることが出来ない。下を向いたまま俺の耳には誰の声も入ってこない。


 どういうことだ? 勇気出して恐る恐るまっすぐ前を向いた。

 俺を見つめるたくさんの目。全員が呆気に取られたような顔でこちらを見ている。驚きすぎて声をあげることも忘れているという感じだ。覚悟していたとはいえ、流石に自分もショックを隠しきれない。若干涙目になってしまったのは仕方がないだろう。


「後ろの空いてる席に座って 」

「 はい 」

 気まずい空気を感じ取ってくれたのか、先生が助け舟を出してくれた。言われたのは一番後ろの窓側の席だ。緊張でこけないように一歩一歩慎重に席へ歩く。その間も絶え間なく周りの視線が突き刺さる。一種の拷問だ。



 俺は目的の席に辿り着くと、鞄をおろして椅子に座った。鞄も服と同様に自由なので、マティアスは用意してくれた肩掛けのバッグを持ってきている。


 腰をおろして、右に広がる広い校庭を窓越しにみながら、ため息をついた。

 ……マティアス。人間、第一印象が大切っていうけど、俺の第一印象は言葉を失うぐらい最悪だったみたいだよ。できるならもう一度入るところからやり直したいな。



 その後、さっそく二時間目の授業が始まった。教科書も用意してもらっていたので、隣の席の子とシェアするなんてこともなく、俺は教室を観察してみることにした。

 クラスは二十五人程度のようだ。ここは四年三組だけど、四組まであるらしい。男女比は少し男子が多いくらい。俺の前は男の子で、隣の子は女の子だった。


「 エル……だっけ? なんでこんな時期に入ってきたわけ?」

 俺が色々と考えを巡らしている間に学園は休み時間になっていた。授業終了とともに前の席の男の子が椅子に逆向きに座って俺に話しかけてきた。

「 えっと…… 遠くの方で療養してて、最近王都にきたから…… 」

 よかった。誰も話しかけてくれなかったらどうしようかと思っていたのだ。クラス全体が俺たちの会話を興味津々で聞いているのを感じながら、話す。

 ちなみに今言ったのは、マティアスが考えてくれた理由だ。


「ふーん。でも、家名はないから貴族じゃないんだよな 」

「違うよ」

「変なの。田舎でりょーよーするなんて貴族のやることだぜ。しかもお前ってそういうじょーりゅーかいきゅうみたいな感じだし 」

「そうかな……普通だよ。普通普通」

 舌足らずに難しい言葉を使う少年に元上流階級ですからといえるわけもなく、曖昧に頷く。とりあえず普通ということだけはしっかりと強調しておく。


「まぁ、いいや。俺はレント、よろしく」

「うん。こちらこそ」


 白い歯を覗かせて笑うレントという少年とは、なんだかすごく仲良くなれそうな気がした。



 ♢♢♢♢♢


 一方、教室前方では。


「これ、なんだ?」

 生徒が床に落ちていた白いものに気がつき、拾い上げた。


「羽……?」

 それは白くてふわふわとした羽だった。

「転校生から落ちていたの見たよ」


 その後クラスメイトたちの間で、もしかしてあの転入生は天使なのではないか、それなら容姿の説明もつくなどといった憶測がとびかっていたが、初めてできた友達に舞い上がっているエルが気づくはずもなかった。

先ほどは操作をミスして、途中からの投稿になってしまいました。教えていただきありがとうございます。結局データのほとんどが残ってなくて、今急いで書き直したので、誤字が多いかもしれません。


久しぶりの投稿です。活動再開のめどは少しずつたってきました。まだ時間はかかりますが、これからもよろしくお願いします。


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