3-11 砂場と子供
「 エルちゃん、自由に見ていらっしゃい 」
時間になったら迎えに参りますわと言い残して、ルクシェルさんは女の人と何処かに行ってしまった。
見て回ると言ってもなぁ……
周りを見渡して、適当な方向に歩き始める。
ここが孤児院だということは建物の入り口に書いてあった。一日街の色々なところを回ったけど、今日はここで最後らしいから結構待つことになるかもしれない。
建物の中心に向かって歩いていると人の声が聞こえてきた。声のする方へフラフラと近づき、そっと覗いて見る。
子どもが遊んでいる。地球だったら幼稚園児や小学校低学年くらいの子たちだろう。四人で集まって砂遊びをしていた。
話しかけようか。物陰でどうするべきか考える。
元々子供と遊ぶのは好きだ。だから話しかけたい。しかし、その前に自分の格好を見て不審者だと思われないか確認する。
ルクシェルさんお気に入りの服に靴。髪の毛も乱れてない。大丈夫だ。ただ少し身体中に巻かれた包帯が普通じゃないかもしてないが、問題ないだろう。ピェットさんの横に立っていてついた傷だ。
そんなことをしていると、後ろからポンっと肩を叩かれた。
「 遊びたいのか?」
振り向くと、中学生くらいの子が立って俺を見ていた。
なんと答えるべきか。ただ時間を潰したいだけなんだけど。
「 よし、行こう 」
返事を考えていると、その子が俺の手をとって、砂場の方へ歩いて行く。俺はこけそうになりながら、砂場へ近づいて行く形になった。
「 あー! 兄ちゃーん!」
「 遊んでくれるの? 」
男の子の姿を見た子供たちがわーっと言いながら集まってきた。
「 おう! 遊んでやるぞ!」
男の子がそう言うと、みな一斉に喜ぶ。
「 にいちゃ、その子だれ?」
その中の一人の子が俺に気がついて、指を差して聞いてきた。
「 こいつ、お前たちと遊びたいんだと。だからみんなで一緒に遊ぼう 」
兄ちゃんと呼ばれた子が俺を四人の前に押し出した。
「 いいぞ! 仲間にいれてやるから、こっちこいよ 」
どうしてだろう。精神年齢でも今の年齢でも(こっちは兄ちゃんに負けるにしても)年上の俺が遊んでもらう流れになっているのは。
♢♢♢♢♢
「 そういえば、エルはなんでいたんだ? ここら辺に住んでるわけじゃないよな?」
ザクザクと砂の山を掘りながら、カストが尋ねてきた。カストというのは俺の肩を叩いたお兄ちゃんだ。
「 ルクシェルさんについてきたんだ 」
俺も反対側から掘り進めながら答えた。もうかれこれ二時間ぐらい掘っているが、トンネルを四方から貫通させないと終わらせられないらしくずっと同じ作業を続けている。やる気とセンスがないと子供たちに判断された俺とカストが穴を掘る係りなのだ。他の子供たちは補強をしたりと忙しく動き回っているため、自然と二人で会話が進む。
「 ルクシェル様に? 領主様のところで働いているのか?」
働いてないから使用人ではないと思う。でも改めて聞かれると俺自身よくわからない。
「 預かってもらってる……のかな?」
「 貴族なのか 」
貴族というより元王子のような感じ、とも言えずに黙っていると、カストの穴を掘る手が止まった。
カストの視線が痛い。居心地が悪いのと、気のせいかもしれないが、俺の包帯を見ているような気がして、思わず伸びない袖を引っ張って傷を隠そうとする。魔法もダメなくせに料理も出来ないのかと思われるのが嫌だったのだ。
「 お前……偉いな 」
「 そんなことないよ 」
何が偉いのかわからない。偉いといえば、馬鹿と言われてもめげずに勉強していることぐらいだと思う。普通の子どもだったら不良になっているところだ。
「 そういえばさぁ、エルはウエストヴェルン家に住んでるんだよな?」
「 うん 」
山を三回崩してスコップを取り上げられ、木の棒で穴をつつくカストを見る。
「 マティアス様っているよな?」
「 いるよ 」
マティアスの家なのだから当然住んでいると、頷く。
「 マティアス様の具合がすぐれないっていうのは本当か?」
「 具合?」
「 噂に聞いたんだけど、最近様子が変だって 」
様子が変。一体何が変で何が普通なのかよくわからない。マティアスさんは普通だと思ってた。
「 例えば?」
「 そこまではわからないんだ。エルなら知ってるかなと思ったんだけど……。俺たち昔遊んでもらったことあるから心配で 」
俺は最近印象に残っているマティアスを思い浮かべる。
「 倒れてた 」
そうだ。調理場でルクシェルさんの扇から煙が出ていて……。
「 大丈夫なのか!?」
「 頭が…… 」
物凄く痛そうだったな。自分がやられたらと思うだけで、額が割れそうだ。
顔を歪めていると、カストが切羽詰まった様子で砂山を突ついている。
「 マティアス様に大丈夫か聞いといてくれ!」
「 うん。わかった 」
【マティアスに頭大丈夫?と聞く】カストの伝言は俺の頭にしっかり刻まれた。
砂山から半径一m以内のカスト立ち入り禁止令が出された頃、ルクシェルさんのお供の人が帰る時間だと告げにやってきた。
「 辛くなったらいつでも来ていいんだぞ!」
カストが俺を抱きしめながら行ってくれた。
「 うん 」
今日一日で仲良くなれたのはすごく嬉しい。でも、今生の別れでもないのに涙目でお別れを言うものだろうか。
「 またくるね 」
暑い男、カストと子供たちに別れを言って、孤児院を出た。
「 エルちゃん、楽しかった?」
「 うん 」
今日のこと、なにから話そうか。考えると自然と笑みがこぼれた。
♢♢♢♢♢
「 にいちゃ、にいちゃ 」
日が沈みかけた中庭でスコップを片手に持った女の子が男の子の裾を引っ張る。
「 にいちゃ、どうしたの?」
「 なんでもないよ。ただ、今は保護されたとはいえ、あんな小さい子が虐待にめげずに頑張っているんだから俺も頑張ろうと思っただけだよ。さぁ、行こうか 」
そう呟き、女の子の服の砂を払ってあげてから手を繋ぐ。
砂山には二人分の長い影が伸びていた。




