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第三王子エルメル  作者: せい
ウエストヴェルン家編
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3-6 本音と家族

 

 バカ、馬鹿

「 ばかか…… 」


 レオニートが走って出て行ってしまってからしばらく経ったが、頭の中ではまだ馬鹿という言葉がぐるぐる回っていた。

 簡単を出された問題とは言え、レオニートに対抗して結構本気のスピードで解いた。


「 ……勉強しなきゃ 」

 元気のない声がため息と共に漏れる。頭が良くなるために何をすれば良いか? それは勉強だ。

 自信のあった算数、いや数学がダメなら他の科目はどうなんだろうか? まずそうなのは歴史だな。 一応本は読んだが、あれだけでいいんだろうか。

 そんなことを考えつつ部屋にある数学の本を漁り、適当なものを見繕ってとき始める。



 意外と難しい。 こんなとこで躓いてたらレオニートに笑われてしまう。

「 そうか! 」

 ちゃんとした解答を書き始めてから気がついた。今まで覚えた定理の名前は全部違うんだ。多分あれは発見した人の名前をつけてるんだよな?

  しょうがないので、取り敢えず一から証明して番号をふって書いていく。


 何問か解き終わった頃には机の上や周りの床にたくさんの紙が散らばっていた。


「 できなくなってるなぁ 」

 何年間も勉強してなかったから当然だな。

 足がつかない椅子から降り、床に落ちた紙を拾おうと手を伸ばすと、さっと誰かに掠め取られてしまった。


「 まぁ! 上手にかけてるわ! 」

 うわぁあ! 部屋にいたのはルクシェルさんだった。足音が聞こえなかったので全然気づかなかった俺はびっくりして尻餅をついてしまった。


「 これ、もらっていいかしら? 」

 そうはいいつつもすでにルクシェルさんは数枚の紙を手に持っている。

 どうせ解きおわったものだ。捨ててくれるんなら有難いし、俺の走り書きを保存しても……しょうがないだろうとは思うが。

 別に断る理由はないので頷くと、ルクシェルさんは嬉しそうに笑った。


「 お勉強が終わったのなら、このお洋服を着てみて欲しいのだけれど 」

「 洋服? 」


「 失礼します 」

 ルクシェルさんが何処からか持ち出してきた服をお手伝いさんが丁寧に受け取っているのを見ていると、他のお手伝いさんが二人がかりで俺の服を脱がせてきた。


「 えっ…… 」

 生まれ変わってから着替えを手伝ってもらうのには慣れたけど、こんなに大勢の前で脱がされるのはいやだと思い、お手伝いさんの魔の手から逃れようとする。


  「 動かないでください 」

 俺の力が弱すぎるのかあっちが強いのかはわからないが、あっという間に新しい服を着せられてしまった。


「 お似合いです 」

「 可愛いわ! 」

 お手伝いさんもルクシェルさんも口々に着替え終わった俺を見て褒めてくれる。

 あれ? 今たくさんの声が聞こえた気がする。

 後ろを振り返ると、ズラッとハンガーに掛けられた大量の服とそれを持った何人かのお手伝いさんが立っていた。お手伝いさんはあの部屋で見た人たちと同じメンバーだ。



 それにしてもものすごい数の服だ。これが全部俺の……?

 もう一度ちゃんと自分の服を見てみる。高そうな布に裾もぴったりで、いわゆるオーダーメイド。 高いってことは俺にだってわかる。

 いくらお金持ちだからと言っても、こんなによくしてもらったら申し訳ない。

「 もしかして気に入らなかったのかしら? それならこっちのーーー 」

「 う…… 受け取れません! 」

 今言わなくては。 ちょっと変だけど、とてもいい人だからマティアスもルクシェルさんもきっと色々と俺の世話を焼いてくれるに違いない。それこそ食器洗いだけじゃ返せそうにないくらいの。


「 どうして? お洋服が嫌い? 」

 ルクシェルさんの顔を見れず、顔をあげずにパタンと閉じられた扇を見つめて話す。


「 そうじゃなくてっ…… 」

 そうだ。話しながら思い出してしまった。外の世界を見たとき、出向かれたときに感じた孤独。この人たちは俺が異世界からきた人間だと知らないのだ。


「 そうじゃなくて、本当の子供じゃないのに…… こんなたくさんの服…… 僕なんかに…… 」

 よく考えたら親がいないのにご飯と住むところをもらえてるだけで十分なんだ。 そして忘れちゃいけない。俺は、俺が人とは違うってこと。


「 それは…… 」

 ルクシェルさんの扇を持った右手が揺れてミシミシと巨大な木が折れるような音が響いた。


「 それは誰が、言ったのかしら? 一体誰が? 」


  ルクシェルさんが言葉を発する度に部屋の温度がどんどん上がっていく。


「 えっ…… あの 」

「 僕なんか…… 」

 俺が否定しようと声をあげても小さくブツブツとつぶやいているだけで、聞こえてないようだ。


「 エルちゃん? 私は、あなたのことを本当の子供だと思っている、し、そんなこと、言ってはいけないわ! 」

 その言葉と同時にルクシェルさんの扇が真っ赤な火を吹いた。


 熱い。

 炎は蛇のようにうねりながらだんだんと部屋中に広がって行く。同時に俺の体も火照っていく。


「 だから、あなたも私の子供、なのよ 」


 興奮しているのか言葉が切れ切れになって聞こえる。


 俺の本音。漏らしてしまったのは生まれて初めて会った“お母さん”だからだろうか。

 真剣に答えてくれた。ちょっと熱くて、ちょっと強引だけど。

 居場所はここにあったのか。




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