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第三王子エルメル  作者: せい
ウエストヴェルン家編
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3-3 迷子と料理

 


 一体どこなんだよ、ここは!


 とりあえず歩けばなんとかなると思った俺が馬鹿だった。こんなの家じゃない。立ち止まっていても仕方ないので、勘だけを頼りに前に進む。


 まだ早朝とも言えない早い時間。もちろん太陽なんて登っていない。昨日早く寝たせいで俺は誰も起きていないだろう時間に目を覚まし、思ったことはただ一つ。

「 おなかすいた 」

 小声で嘆いてみても、道を教えてくれる人もいないし、返事は返ってこない。

 人、返事…… そこまで考えて、もしかしたらという期待が生まれた。


「 清爛 」

 小さく嘆き、周りの水分を凍結させ、姿を表す小さな龍。

「 清爛、お前頑張れば話せるんじゃないか? 」

 そう問いかけても、清爛は何も言わずこちらを見ているだけだ。


 しばらく続く無言。つぶらな瞳でこちらを見つめてくる。

「 ……ちょっと待ってろ 」

 俺は目をつぶり、久々に魔法を使う感覚を甦らせる。


「 ねぇ 」

 その途中、頭に高い声が響いた。誰かやって来たらしい。いつものくせで慌てて清爛を消し、道を尋ねようと人を探す。


「 あれ? 」

 ぐるりと当たりを見渡しても誰もいない。

「 エル! 」

「 うわぁ 」

 消したはずの清爛がさっきと同じところにいる。

「 な…… なんで!? 」

「 エルの魔力使ってるから 」

「 なんで……?」


「 だからっ!魔力を 」

 声を荒げる清燗。

「 なんで、おじいさんじゃないんだよ…… 」

 そう言って俺は項垂れた。

「 は? 」

 イラついたように清爛の鼻がヒクヒクと動く。でもしょうがない。魔法を使う前にこいつが喋れるようになったとかそんなこと気にしてはいられない。

「 龍と言えば、ダンディなおじいさんだろ。なんとかじゃとか言ってさ、俺に助言をくれるんだ。それなのに…… どういうことだ 」

「 ばーか! ばかやろー! 」

 暴言を吐かれながらため息をつく。もういい。これも全部俺の魔法が未熟だったせいに違いない。また練習しよう。それにしても性格は似ていないと信じたいが、ボキャブラリーが貧困なところは俺に似ているらしい。


 

 そんな中、静かな廊下で俺のお腹の音がなった。さっきまで空腹を感じていたためにこのような状況に陥っていたことを思い出した。

「 あのさ、食べ物の匂いとかわかる? 」

「 …… 」

 俺の言葉は清爛に無視された。

「 頼むよ 」

 さっきまでの会話は都合良く忘れることにして、両手を合わせ頼みこむ。

「 ボクは犬じゃないっ! 」

そんなの見ればわかる。大体龍の形にしたのは俺だ。

「 そんな犬みたいな真似はできないと言っているんだ 」

 どうも龍からすると犬と龍はずいぶんと違うらしい。今の清爛は小さくて、チワワぐらいのサイズにしかないのにな。さて、どうすればいいだろうか。

「 わかった 」

「 わかればいいんだ。謝れば許してや…… 」

「 今から犬にしてやるから 」

 そしたら問題ないよな、という意味を込めて清爛に笑いかける。出来るだけ多くの魔力を練りはじめた。最初から犬にすれば良かったかもしれない。一度龍として固定してしまったからか、少ない魔力では形を変えられそうにないのだ。魔力は対価だ。大きな魔法を使うためにはそれ相応の力を使う。


 しかし清爛は焦ったようにふわふわと飛んで逃げていき、曲がり角で俺を振り返って叫んだ。

「 ちょっと待って! こっち、こっち、こっちだから! 」

 どうしたんだろう。今回は魔力を大量に出すからあんまり動かれると外しそうで怖い。だから動いて欲しくないのに。

「 あと少しだから 」

「 やだ! 犬はやだ! 」

 その言葉を聞いて、俺の両手に集めた魔力がみるみるうちに減っていく。

「 そうなのか…… 」

 その高い声は絶対小型犬だと思ったんだけどな、と心の中で嘆いて、何かに追われるように進んで行く清爛を見失わないように追いかけた。



  ♢♢♢♢♢


「 おい、そっちの準備は終わってんのか! 」

「 こっちの担当は誰だ 」

 清爛を追ってようやくたどり着いたついたキッチン、そこは絶えず叫び声が飛び交う戦場だった。


「 あの…… 誰か…… 」

「 こっちの皿洗ってないぞ、見習い! 」

 精一杯出した声も、たくさんの声に遮られ誰の耳にも届いてないようだ。そもそもコックさん達の背が大きく誰からも存在を認識されてないような気がする。

 話を聞いてくれそうな人を探すため、歩き回る人の邪魔にならないよう中に入っていく。

 清爛は俺を案内すると、ちょっと遊んでくると言い残してどこかへ行ってしまった。どうも話すだけじゃなく、勝手に消えたり現れたりする能力まで身に付けたらしい。


 人をかわして歩いていると自然と人の少ない端に来てしまった。みんな忙しそうで声をかけられない。あきらめて戻って朝ご飯の時間まで待とうか…… と考えてはじめていたときだった。少し離れたところになにか作業をしている若い男の人がいるのを見つけた。他の人とは違って話しかけやすそうだ。そう思ってその人に近づいていく。見習いの人かもしれない。包丁を持つ手つきが危なっかしかった。

「 遅いぞ!さっさとそれ終わらして、皿も洗っとけよ 」

 突然叫ばれたその男の人はびっくりして、手に持っていた野菜を落としてしまう。それをまた近くのコックさんが見つけ、怒鳴りはじめた。

「 きちんと働けねぇ奴が食う飯はねぇぞ! 」

「 すいませんっ! 」

 思わず前に踏み出しかけていた俺の足が止まる。


 それは俺のことじゃないか……?

 そうだ。働いてないのは俺の方だ。怒られた見習いの人は必死に謝って、また包丁と悪戦苦闘している。

 食べ物を貰おうとここまできた自分が恥ずかしくなった。働かざる者食うべからず。


 働こう。

 なにができるか? 料理は作れない。キッチンの外れにいる俺の右手に広がる大量の洗い物。

 思わず自分の服を見る。きっとお金持ちのおうちの服だから高いんだろう。汚れないように、俺は山積みになっていた清潔そうな白い布をくるくると巻き付ける。

 洗い物。これだけは家庭科の実習と家でのお手伝いでやったことがある。

 よく考えたら喫茶店ではちょっとした食べ物か何かを出すからな。匠の技は見て習え、そのためにはまずこれからだ。一石二鳥だ。

 自分でもすばらしいとしか言えないアイディアに心が躍る。


 結局、窓から日が差し込む寸前まで空腹の事は忘れ、俺は洗い物に夢中になることになるのだった。

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