2-7 帰還と侵入
「 うおぉぉお!飛んでる!飛んでるよ!」
風を切り、真っ暗な空を進んで行く。
嬉しくなってあまり乗り気ではないらしい清燗の身体をバシバシと叩いた。
何でもっと早く思いつかなかったんだろう。夜道を無言で歩き続けて、終わりは見えない。いい加減体力がなくなった時に、よくやく気がついた。
歩いて着かないなら、飛んでいけばいい。
清燗は呼び出すといやそうな様子を見せたが、怪我人がいるんだと説得するとしぶしぶ承諾してくれた。
意識がないマティアスさんは清燗に優しく(ここは念押しした)咥えて運んでもらうことになり、アロイスさんには自分で乗ってくださいと言おうと後ろを振り向くと、マティアスさんの上に倒れていた。
ちょっと目を離した隙に闇討ちでもされたのかと思ってびっくりしたが、どうも寝ているだけらしかったので、今は清燗の体に縛りつけて運んでいる。
俺はしっかり清燗につかまったまま後ろを振り返って、アロイスさんが落下してないことを確認した。
ああ、よっぽど疲れてたんだろうな。
俺もすごく疲れている。きっとアロイスさんと歩いているときは酷い顔をしていただろう。
風が気持ちいい。
そこではたと気がついた。今はあの時アロイスさんに言われた方に飛んでいるが、よく考えたらどこに向かおうとしてたんだろう。やべ。どうしよう。
「 清燗ー、ごめん。どこに行けばいいか聞くの忘れてた 」
声をかけると、清燗はふんっと鼻から息、いや冷気を吐いた。
「 もしかして当てがあるのか? 」
今度は答えるように低く唸った。
「 おい、噛むなよ 」
清爛はマティアスさんがいることを忘れて、吠えたりしそうだ。
今の返事は儂に任しておけってことか?
「あ…… 」
空を飛び始めてしばらくした頃、後ろから自分のものではない声が聞こえた。
アロイスさんが起きたんだ。
「ここは…… 一体、なにが…… 」
小さな声でつぶやいたかと思うと、下を見てすぐにカタリと首を落としてしまった。
にじり寄って大丈夫か聞いても、返事が返ってこない。
きっと二度寝だから問題ないだろう。この感じ学校に行ってたときの朝の俺の様子にそっくりだ。
話し相手もいない俺は仕方なく考え事を始める。
アロイスに言われた言葉についてだ。
なんだ「 姫 」って?
あんまり自然に言われたので、固まってしまった。意味が分からなかったけど、顔が真剣だったから断れなかった。目、血走ってたし。
アロイスさんって変わってる人なのかな。いい人そうなんだけど…… 一応気をつけよう。もし俺は女の子に見えてるんなら、ちゃんと男だって言わないと。
しばらくすると、清燗は真っ暗な地上の中で光が集まっている場所を目指して、高度を下げはじめたようだった。
空気の抵抗強くなり、思わず目をつぶる。
内臓が浮かび上がってしまうかのような浮遊感。ジェットコースターが落ちるときのような、気持ち悪さ。
それに必死に耐えているとふわっと清燗が止まった。
目を開けると、暗いけど、どこか見覚えのある景色。
ここ、どこで見た?ものすごく良く知っている気がする。
部屋から見える庭だ!
そう気づいてからもう一度見渡すと、去年見た花が今年も同じ場所に咲いていた。
清燗から飛び降り、俺が眠っているアロイスさんを下ろしていると、すでにマティアスさんも横たえられていた。顔色はさっきとあまり変わってないようだ。
「 サンキュー、清燗 」
♢♢♢♢♢
「 よいしょ、と 」
二人をベッドに横たえた俺はため息をついた。
鍵がかかっている部屋にどうやって入ったか?
もちろん窓を蹴破ったさ。
蹴破ったけど、ガラスは割れずに足が痛くなっただけだったから、突き刺した氷を消して入った。
怒られるだろーな。
でも、マティアスさんのこともあってはやく入りたかったからしょうがない。
ごめんなさい。すぐに人、呼んでくるから。
そう寝ているマティアスさんに声をかけ、俺は外に出た。
この家、天井高すぎじゃないだろうか。しかもデカい!
広すぎて、人が誰もいない。
そんなことを思いながら、走る。家?の中はところどころに松明があってかなり明るかった。
自分の部屋の廊下を曲がり、さらに長い廊下をがむしゃらに走って、角を曲がろうとした時だった。
「 何奴っ! 」
怒鳴り声と同時に急に首筋に冷んやりとしたものが当てられる。
今の大声が聞こえたのか、何人かの男の人が集まってきた。まだ首筋にあてられたものは離してもらえてない。
「 あの…… 」
「 こいつ!血だらけだぞっ! 」
え?ゆっくりと顔を下げると、確かに俺の服や身体は血だらけだった。
誰の?そうだ。マティアスさんと魔物のか。
結構ぐろい。
必死だから気づかなかったんだろう。
「 違う!僕は…… 」
事情を話すために、振り向こうとする。これはちゃんと否定しないと……
「 逆らうなっ! 」
まてよ!おい!人の話は聞けって習っただろ!
ドンっと首筋に衝撃が走り、視界が奪われた。何が起こったのかわからないまま、何処かへ引き摺られて行く。
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