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第三王子エルメル  作者: せい
暗殺編
13/49

2-2 謁見と落涙

な…… なさけない……

「 アロイスはこのまま俺について来い!それ以外は解散! 」


 小隊長のその声で訓練はお開きになった。

 ヘトヘトになっているところに上司の呼び出し。しかもその理由がさっぱりわからない。

 兵士として王宮勤めとなりまだ日も浅いアロイスは心当たりがなかった。

 友人や先輩たちが「頑張れよ」「骨は拾ってやる」などと言いながら肩を叩いて去って行く。特に親しくない友人から同情の目で見られるのはわかるが、仲のいい奴らぐらいもっとやさしい言葉をかけてくれてもいいと思う。

 なんて薄情なんだ。


 小隊長について訓練場から王宮内に入るが、連れていかれると思っていた彼の部屋を通り過ぎてしまった。

 どこにいくんだろう……?


 まだあまり王宮内の構造を把握できていないが、こっちはもっとお偉い方々のお部屋だったはずだ。

 そうこう考えているうちに小隊長は大きな扉の前で立ち止まった。


「 失礼します。アロイスを連れてまいりました 」

 小隊長が声をかけると部屋の中から声が聞こえ、入室の許しが出る。


 なにが起こっているのかわからないアロイスは肩に置かれた手に気づき、手の持ち主である小隊長を見る。

 この目は……


 一緒に部屋に入ると思っていた小隊長は口パクで“がんばれよ”と言って、ものすごい早足で立ち去って行く。

 小さくなっていく後ろ姿を見ながら思った。

 あの目はさっきの友人たちの目と一緒だ!


 小隊長にまで見捨てられたアロイスは呆然と扉の前に立ち尽くしていたが、ようやく我に返った。

 もう一度ノックをし、部屋に足を踏み入れる。

「 しっしっ……失礼しますっ!」

 アロイスはすぐに深々と頭を下げる。急に目の前の現れた床には汚しただけで一生分の給料が飛びそうな絨毯が敷かれていた。

 これは…… やばいかもしれない。

 そうとう高貴な方のお部屋だと思った。緊張して震えている自分の足を見て止まれ…止まれと念じる。

 気のせいだ。きっと絨毯に目がない方の部屋ってだけだ。しっかりしろ!自分!


「 顔をあげて 」

 声に従っておそるおそる顔をあげた。


 目の前には、濃紺の髪をもつお方。


 …… おわった。

 直接は拝見したことはないが、すぐにわかった。この髪色、年齢、顔立ち。第一王子のリクハルド様に間違いない。


 心の中で家族にお別れを言う。

 父さん、ごめん。

 母さん、姉さん… その根性鍛えなおしてこいって問答無用で僕を兵士にしたよね。おかげで僕の寿命は予定よりも早く終わりそうだよ。恨んでるから。必ず化けて出るから。


「 君がアロイスか? 」

 リクハルド様のものではない声がした。声の主を確認するためギギギッと壊れた機械のように首を左に回すアロイス。


 … もうだめだ。

 四色家のフェルナンド様がいる。本物だ。

 こんな偉い人の前に連れてこられて、きっと僕はめったんめったんのぎったんぎったんにされるんだ。


「 君に特別任務を与える。ある馬車の護衛だ。お忍びなので、このことは絶対誰にも言ってはいけない。一ヶ月はかかるだろう。近衛の方には里帰りをしなければならなくなったと伝えておけ。その許可はこちらで出すから、心配いらない。また、君には旅の間は御者をしてもらうことになる。わかったか? 」

 フェルナンド様の言葉を聞いて、とりあえず今すぐ殺されるわけではということがアロイスにはわかった。


「 もう一人護衛につくけど、それは当日行けば分かるよ。後は彼に一任してあるから。あと、このことは例え上司でも言わないでね? 」


 フェルナンドの威圧感とリクハルドの優しそうな笑みで念押しされたアロイスは恐怖で震え上がった。


「 わかりましたっ…… 絶対…… 墓場まで持って行きますから… 」

 だから早く解放してくださいっ……!


「 わかってもらえてよかった。出発は一週間後の朝4時。以上だ 」


「 しつ… グスッ…失礼しました! 」

 頭が床に突き刺すんじゃないかと心配になるスピードで頭を下げると、廊下へ向かって走って行った。



 部屋に残されたリクハルドとフェルナンド。

「 なんで泣く…? 」


「 フェルが怖かったんじゃない?」

「 普通だろ、普通 」

「 少なくとも僕のせいじゃない 」


 二人はあの兵士で大丈夫かと不安になった。

 一人しかつけないのだから、あまりに問題点のある人物でも困る。


「 でもあいつが勧めてきたんだから…… 」

「 あいつってフェルの従兄弟でしょ?逆に不安かも 」

「 そんなことはない。いや…… やっぱり……大丈夫じゃないな 」


「 言ってること矛盾してるよ。でも、一緒に行くのマティだから大丈夫だと思うけど。それに…… 目的が…… あれの旅だし 」

「 そうだな 」



  ♢♢♢♢♢



 現在泣きながら廊下を走り抜けている兵士、アロイス。


 こんな彼だが、別段能力がないというわけでもない。

 むしろ希望最多、最難関の道である、王家に直接忠誠を誓った騎士団の座を勝ち取っているのだから、腕は確かだ。


 近衛志望理由に“怖い母と姉となるべく離れていられるから”と書いて出したのが、軍の上層部に面白がられて採用が決まったことを差し引いたとしてもーー。



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