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第三王子エルメル  作者: せい
暗殺編
12/49

2-1 爆発と計画

 

 今日もまた変わらぬ一日が過ぎていく。

 それが苦しかった。無慈悲にもタイムリミットは近づいてくる。


「 あと半年だな 」

「 はい 」

 いまや恒例となった王との謁見。「 特に異常はございません 」だけで終わるはずだった会話は、今日に限って終わらなかった。


「 そのことについて話がある。爆発が半年以内に起こらなかった場合の処置はリクハルドにまかせた。王子と相談して詳細をつめてくれ。わしへの報告はお前がしろ。以上だ 」

 それで謁見は終わった。


 王の執務室から主人の部屋である水翠宮に帰っていつも通りに仕事を終え、深夜、王宮の中心部からやや外れた瑠璃宮へ出向く。

 門番にここの主人に会いたい旨を伝えると、あわてて執事を呼びに行ってしまった。これはいつものことだから気にしない。またいい加減大人なんだから先に伝えてから来いと文句を言われるかもしれないが、あの二人だって同じ事を自分にしてるんだからいいだろう。前に、連絡なしに二人が遊びにきた時の我が家の門番の驚きぶりの方がすごかった。昔からつとめている方の門番なんてぎっくり腰になって数ヶ月暇を与えなきゃいけなくなったのだから。


 執事がやってきて部屋に案内してもらう。いつ見ても瑠璃の名にふさわしい離宮だと思う。まるで深海に潜り込んだような気分になってくる。しかしここの主人にそれを言ったとき、この離宮のデザインは好きでも、もっと狭い方がいいと困ったように笑って言っていた。さみしがりやだからな。


 目的の部屋に案内された。客室でも寝室でもない。小さな部屋。

 なんだ先にいたのか…


 ここはリクハルドが母親と住んでいた時から三人で使っていた部屋だ。学院に入る前にご学友としてフェルが選ばれてから( どうせ学院で一緒になるんだからと、俺も連れていってもらってた )、勉強を抜け出してよくここに逃げ込んでいた。その度に探し回っていたこの執事と自分たちしか知らない。リクの母君が出ていかれてからはここにくることは減っていたから、本当に久しぶりだ。


「 来たか 」

 リクとフェルがなにか書類をはさんで向かい合っている。


「 ああ。王から今日聞かされたんだ 」

 扉の鍵を閉め、フェルの隣に座った。ここにこんな気分でくる日がくるなんて思いもしなかった。


「 始めようか 」

 フェルがその言葉と共に紙を広げた。書類だと思っていたそれは机にいっぱいの大きさをもつ地図だった。

「 これって… 」


「 王の出された条件に当てはまるプランを考える」

「 条件? 」

 マティアスが反応する。

「 王都から離れたところで実行すること、人目につかないように秘密裏に行うこと、できる限り秘匿するが、例えばれたとしても不自然のない建前を用意すること。これが王のご命令だよ 」

 父である王の言葉をいつもよりなげやりに伝えるリクハルド。納得がいっていないというのがありありとわかる態度で続ける。

「 やっぱりこの計画気が進まない…。確かに魔法の使えない弱い王子なんて他国からつけ込まれる格好のウィークポイントになるのはわかるけど、それでも… 」

「 こんなに存在が知られていないんなら、王都から離れたところでひっそりと生かしてやったっていいんじゃないか、だろ? 」

 腕を組んだフェルがリクハルドの言葉を続ける。今度はマティアスが口を開いた。

「 王子の存在を知ってるのはどこまでなんだ? 」

「 王家はみんな知ってる。四色家の上から俺たちの世代までは知ってるはずだ。特に俺たちのような国政に関わっているメンバーだな。貴族と王宮勤めのもの達の一部には王子出生当時に噂が流れたけど、それから一切目撃情報がないことからデマだとみんな思ってる。民衆には情報は全く流れていない 」

「 そうだったのか。すごいな。そこまでしてるのに、なんで… 」

 王子王女の誕生というのは、簡単に秘密にできる話ではない。後宮がいくら閉ざされた場所だと言っても、大量にいる使用人、母親となる女性の貴族の親戚関係からあっという間に広がってしまう。そもそも、そのようなめでたい話を隠すことなんて話聞いたことがない。


「 第三王子の母君のことがあるからかもしれないな… 」

 リクハルドがポツリとつぶやいた。

 同時に、知らなければ… いや、知っていても後宮にいると思えないような方だった女性のことを思い出す。


 それはリクハルドだけではなかった。フェルナンドもそうだったし、マティアスは直接はあったことはなかったが彼女についての話を思い出す。


 第三王子を産んで亡くなった彼女は、最期に何を考えたのだろうか?家族のこと?皇帝のこと?それともまだ見ぬ息子のこと?

 本当に… 彼女はつまらない後宮の中でも楽しいことをどこからか見つけてくる天才だった。ついたあだ名は「 太陽妃 」

 それは混じりっ気のない金髪からついたものなのか、暑苦しいという意味でつけたのか王に何度に問い詰めていたという。


「 父王はおそらく… 太陽妃様が命を落としてまで産んだ子供が泣もしないし魔法も使えないことが受け入れられられないし、王子のことを考えるたび自分が許せなくなる。だから一回きりしか会っていないし、閉じ込めてる。でも、期間をここまで伸ばしたっていうのは迷ってたことじゃないかな。それでも… 」

 爆発は普通3歳までに起こる。4歳で起きるというのも滅多に聞かない話だ。それを6歳まで伸ばしたところに父の迷いを感じた。

父は今回の命令もほとんど弟のことを教えてくれなかった。

知っているのは年、名前、魔力がないことだけ。容姿も知らないのだ。マティアスだって何も言わない。


「 それでも… 今はやるしかない 」

 かたいマティの声。

「 マティ、お前は本当にそれでいいのか。お前がやることになるんだぞ 」

 その問いかけにマティはしばらく押し黙ったあと、ゆっくりと頷いた。

 こうするしかない。他にどうすればいいのだ。


「 わかったよ。じゃあまず… 」


 フェルナンドを中心に話は進む。


「 …ルートはここか? 」

「 いや、それだろ近すぎ… 」

「 こっちは? 」

「 んー… 」


「 護衛はどうする? 」

「 御者ができる兵士だな 」

「 … 何人いる? 」

「 一人でいい 」

「 大丈夫か 」

「 お忍びなんだろ 」


「 ばれた時口止めできる若いやつだな 」


「 馬車と必要なものははこちらで用意する 」


「 服は 」




 一通りの計画ができた。


 フェルナンドはため息をつく。顔をあげるとマティアスが目に入った。


「 …大丈夫か? 」

「 これだけ考えたんだ。大丈夫だろう 」


 ーーそうじゃない、お前が大丈夫かと聞いているんだ


 そうは言えなかった。彼の唇が血が出るほどに噛み締められているのに気がついてしまったから。




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