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2.放課後の活動



「せんぱぁーい、好い加減帰りませんー?」

後ろを振り返ると、廊下を這いつくばっている先輩の姿が見えて、俺は重いため息をついた。

既に窓の向こうは夕焼けに赤く染まっているというのに、何だって俺たちがピアスなんて探さないといけないんだか。

窓の向こうをぼんやり眺めると、運動部もそろそろ引き上げるのかグランドの人は疎らだった。

そして、ふとその中にサッカー部のユニフォーム姿の口にするのも忌々しいヤツの姿を見つけて、思わず顔を顰めた。

気分が一気に落ちて顔が不機嫌に染まるのが自分でもわかる。

「おい、林田なにサボってんだよ」

「あ、すいませんすいません」

すぐ後ろで美人な顔が歪められるのを見て、俺はまた廊下の床へと視線を落として目を凝らした。

あんな奴で不機嫌になっている暇があったら、たとえ暗くなり始めた廊下でピアスを探す羽目になっても、有川先輩といる時間を楽しむほうが重要だ。

「にしても、こんだけ探して見つからないなんて、本当に学校で落としたんですかねぇ?」

「依頼人がそう言ってんだから、そうなんだろ」

依頼人の言うことは絶対だといわんばかりの先輩に、俺は思わず苦笑した。

まぁ、仕方ないからもう少しさがすのに付き合おう。

帰って見ようと思っていたテレビ番組は、仕方ないから今回はがりは諦めることにした。







有川先輩と俺は、大抵放課後はある活動に勤しんでいる。

まぁ、一応名目上は部活動なのだが、やっていることは一言で言えば何でも屋だ。

と言っても別に依頼者からお金を取るわけじゃなく、なけなしのボランティア精神を絞り出して、まぁ人助けのようなことをしているのだ。

まぁやってることといえば、落としたものを探すのを手伝ってあげたり、先生に頼まれて中庭に生えた雑草を抜いたり、運動部のスケットで出たり、とまぁ、色々なんでもごされな感じだ。

もともとこれは有川先輩がやり出したことで、俺は先輩と放課後をすごせるなら、という至って不純極まりない動機で手伝い始めた。

一応部活動なので、他にも部員はいることはいるが、みんな幽霊部員なので殆ど顔は出さない。

「あ」

ブブッと先輩のポケットの携帯が振動して、携帯を開いた先輩はその画面を凝視して固まった。

「……どうしたんですか先輩?まぁ、大体想像つきますケド」

俺は、早々に立ち上がって伸びをしながら聞いてみた。

「ピアス、見つかったて。家にあったらしい…」

俺は声に出さず、やっぱりなと内心思った。

だって、依頼人の彼が言った心当たりの場所は全部徹底的に探したのだ。

それで見つからないなんて、学校にない可能性の方が高い。

「……あんのヤロー! 無駄な手間かけさせやがって‼ 絶対シメる!」

意気込んで言う先輩を見て、自業自得だが、依頼人のヤツを少し哀れに思った。

なんてったって有川先輩の家は柔道の道場なのだ。

その家でみっちり鍛えられた有川先輩の強さは並じゃない。

哀れな依頼人には心の中で合掌しておくとする。

「それじゃ、帰るか林田。付き合わせて悪かったな」

「いえいえ、俺は別に……! むしろ楽しかったんで!」

「はぁ? やっぱ変わってんなお前。ま、いいけど」

笑っている先輩の俺の顔一つ分ほど下にある顔をみおろして、俺は満面の笑みを浮かべた。

ただでさえ綺麗な先輩の顔は、夕焼けに照らされて、壮絶なほどの美しさをほこっていた。

別にこの顔だけに惹かれたわけじゃないけど、やっぱり先輩の顔は綺麗だなぁと俺はしばし見ほれた。

「何だよ、そんなにじっと見んな」

眉をよせる先輩に軽く笑いながら謝って、俺は帰途についた。









「げっ」

次の日、運悪く朝から靴箱で見たくもない顔を見つけて俺は顔を顰めた。

「ひどっ。人の顔見て「げっ」とか言わないでしょ普通」

「お前は俺に普通の対応して欲しいのか? だとしたら悪いが絶対無理だ」

イライラしながら自分の靴箱を開けて俺は嫌味ったらしく言ってやった。

一昨日あの写真を拾われて以来、こいつの俺に対する態度はどこか小馬鹿にしているようなもので、益々腹立たしかった。

からかうような目線を向けてくるヤツの顔が意地悪く微笑むのを見て、俺はきつく睨んでやる。

「なんだよ、まだ何か用かよ?」

不機嫌さを全面に押し出して言ってやると、藤見はククっと笑って「別に〜?」と呟いた。

「でも、俺にそんな態度とっていいわけ? 一応俺は林田ちゃんの弱み、握ってるんだけど?」

「なっ! それはもうあのことでチャラだろ!」

俺が動揺して慌てたようにいうと、藤見はまたも可笑しそうに笑った。

「林田ちゃんって、どっかぬけてるよねー? あの写真はまだ俺が持ってるんだけど?」

「なっ!」

そういえば、そうだ。

俺はなんてうっかりしてるんだと、自分の馬鹿さ加減を呪いたくなった。

俺はがっしりと藤見の腕を掴むと

引きずるようにして廊下の端の壁が死角になっている方に引っ張った。

「痛いって」

藤見は俺に掴まれた手を、顔を顰めながら引き剥がした。

「出せ」

「は?」

「写真。出せって。俺はちゃんと告白しただろ。文句は言わせな…「はい」

俺が言いきる前に、藤見は写真を俺の手に押し付けた。

俺がそれに目を丸くしていると、またあの口だけ歪めた意地の悪い笑みを浮かべた。

「何? 俺が渡さないとでも思った? もういいよ、たいして興味ないし。今は新しい面白いこと見つけたんだよね」

「え、は?」

「あ、もう予鈴なるよ。んじゃあね」

ヒラヒラと手をふるヤツを俺はぼんやり見ながら、あいつに目を付けられた次のヤツを心の底から憐われんだ。







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