表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

1.それでよくない

「好きです、先輩」

ドキドキと激しく鳴る自分の心臓の音を聞きながら、俺は言った。

放課後の学校の校舎裏。

告白の定番とも言えるこの場所で、俺はついに1年間温め続けた思いを目の前の思い人に告げることが出来たのだ。

林田(はやしだ)……お前……」

しかし、それはもう蒼白な顔で、だが。

「は……はい……」

ドキドキがバクバクになって、俺は恐怖のあまり先輩を直視出来ない。

そんな俺に、もう勘弁して下さいってぐらいたっぷりタメたあと、先輩は言い放った。

「冗談も大概にしろーー!!」

バコッと鈍い音をたてて殴られ、倒れながら視界いっぱい広がった、憎たらしいぐらいの青空を見て俺は思った。



あぁ、何故こんなことに……。












俺の好きな人は一年先輩で、名を有川(ありかわ) (けい)という男、である。

因みに、一応言っておくがもちろん俺も林田一成(はやしだ いっせい)なんていう名前の立派な男である。

つまり、俺は世間一般でいうゲイ、というヤツなのである。

「おい、林田」

ふと気ずくと誰も居なくなった教室の、俺の席の前に有川先輩が立っていた。

「え……あ、有川先輩? いつからそこに……」

「少なくとも、お前がブツブツ言ってるのはバッチリ聞いた。そんなことより、今日もアレ、手伝ってくれ」

「あ、はい!」

前半の発言が多少気にかかるが、俺はもちろん先輩の申し出を快諾してしまう。

あの告白から一週間。

冗談として片付けられたあの告白は、どうやら既に先輩のなかでは"無かった事"らしかった。

もともと本意では無い告白だったが、だからと言って落ち込まない訳がない。

それでもまだ無視されてないだけましというべきなのか。

「はぁー」

大きな溜息をついて、既に教室から出ている先輩の跡を追おうと席をたった瞬間、先輩がでて行った方とは逆の、前の教室のドアが開いた。

そこからひょこっと顔を覗かせたのは、俺の今、最も見たくない顔であった。

「あ〜れ〜? 林田、まだいたの?」

藤見(ふじみ)……」

おもわず眉間にグッとシワを寄せる。

元を正せば、こいつが全ての諸悪の根源だ。

「お前のせいで……」

「ん〜? 何か言った? あ、そういえば頬の腫れ、大分引いたんじゃね? 」

意気揚々と、反省したそぶりなど微塵も無く、藤見はいっそ清々しいぐらい意地の悪い笑みを浮かべた。

「……のなぁ! 元はと言えば、全部お前のせいだろっ!」

思わず大声で怒鳴りつけると、何事かと先輩が後ろのドアから顔を覗かせた。

うわ、やば…!

これは、この人だけには聞かれてはいけないことだ。

思わず慌ててどもる。

「あ、あの、何でも無いです! ホント!」

「そうか? 揉めてるように聞こえたぞ。」

「あ、あの……!」

そんなことはない、と言いかけたところで、藤見がすっと先輩の前に出た。

「いえ、俺たちちょっとじゃれてただけですから。有川先輩は気にしないで下さい。ね?」

「まぁ、藤見がそう言うなら……」

なんなんだろう、この差は。

コイツが言えば、先輩はあっさり納得してしまった。

「林田、早くしろよ」

納得するや否や、切り替え早く教室を出るように即す。

「あ、はい! すみません、いま行きます!」

慌てて通学バックをひっつかんで、藤見をひと睨みしてから俺は教室をでた。

俺は心の中であいつ、後でシメる! と、出来もしないことを固く決意した。











ことの始まりは、先週の金曜日まで遡る。

「これ、なーんだっ?」

昼休み、トイレから出ると突如視界に入ったのは見覚えのあり過ぎる写真だった。

「なっ! それ!」

写真片手にニンマリ笑っている藤見を、俺は信じられない様に見た。

「これ、林田のでしょ? さっき落としたとこ見たんだよね」

「なっ、ちがっ……!」

その通りである。

藤見の手にあるのは、ある筋から貰い受けた有川先輩の体育の時の着替え写真である。

「林田って嘘つくのヘタだねー。」

やっぱり林田ってそうなんだーって呟きながら、藤見はぴらぴらと写真で自分をあおいだ。

「さーて、どうしよっか?」

「……何が目的だよ。」

「目的? んー……特に考えて無かったけど……そうだな」

「なんだよ、金か?」

ムスッとしたまま藤見に言うと、金なら林田よりは持ってるから、となんとも腹の立つ答えが帰ってきた。

「じゃ、なんなんだよ?」

「んー、俺ってさ、おもしろいこと好きなわけ。だから……この写真のことバラされたく無かったら、先輩に告白してよ」

「はぁ?!」

なんだそりゃ!と内心叫びながら、空いた口が塞がらなかった。

何を言ってるんだこいつ。

「それで、お前になんのメリットがあるんだよ!」

「え? だって、おもしろいっしょ?」

「どこがだ!」

藤見の言うことがまるで理解出来ない。

入学して同じクラスになってもう二学期も終盤だが、俺は藤見とはほぼ接点が無い上に、どちらかと言うとニガテなタイプだった。

知っていることと言えば、女たらしらしく、サッカー部期待の新人という事ぐらいだ。

なのに、そんなコイツに人生最大のヒミツがバレでしまった!

「どっちにする? 告白せず、写真持ってたこと全校生徒に知れ渡って先輩に嫌われるか、正々堂々告白して嫌われるか」

藤見の顔にニヤリと意地の悪い笑みが浮かぶ。

「どっちにしても嫌われてるだろそれ!」

「そりゃね。普通イヤっしょ。男から好かれてるなんて」

「……っ」

何を今さらというふうに藤見は言った。

コイツは俺が最も恐れている現実を、いとも簡単に俺の前に突きつけてしまった。

言われなくても本当はわかってるのだ、そんなことは。

ふと、先輩の顔が頭に浮ぶ。

ズキンと心臓が痛んだような気がした。

裕哉(ゆうや)ー! もう、こんなとこにいたの? 今日一緒にお昼食べる約束でしょ?」

ふと、廊下を小走りできた女生徒に腕を掴まれ、途端に藤見はとろける様にあまい笑みを浮かべた。

「あぁ、愛子。ゴメンゴメン。早く行かないと昼休み終わるね。」

藤見は俺の方はまるで最初から居なかったかのように見向きもしないで、愛子と呼ばれた女を腕に巻きつけたまま食堂の方へ行く。

俺はその飄々とした後ろ姿を、ただ恨めし気に睨んだ。


そして、その放課後俺は見事に玉砕(?)したのであった。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ