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カラフルタイマー ~グレイトマン、3分経ったら負けちゃいます!~

作者: あぜる
掲載日:2026/08/01

【おふざけ注意】

肩の力を抜いた箸休めです。

気が向いたら読み飛ばしていただけましたら幸いです。

 夢のマイホーム。


 有紀翔は愛する妻と娘と3か月ほど前に完成した新居に住んでいた。

昨年の新政権誕生後に株価が強く上昇、それを機に貴重なNISA資産の大半を売却して家購入に踏み切った。


 今後は金利も上がるかもしれない。

物価高騰の波は避けられない。

ならばちょっと無理してでも今しかない。

30年のローンを組んで都会から少し離れた岡山の閑静な住宅街に有紀翔の新居が完成した。


 有紀翔は満足げに庭先から自慢の新居を眺めていた。

可愛い妻と娘と共にこれから暮らしていく新居。

「充実した人生とはこういうことか」

有紀翔はこの上ない幸せをかみしめていた。


 その瞬間、遠くから轟音、次に爆発音が聞こえた。

遠くには高層ビルと並んで立ちはだかる巨大怪獣。


 足取りは緩やかだがその進行方向には確実に有紀翔の新居が含まれていた。

災害保険には加入しているが、それでも全財産投げうって構えた新居が破壊されることは有紀翔にとって地獄絵図である。


 幸運にも妻と娘は買い物で外出していて無事だ。

「どうか家は壊さないでくれ……」

祈るような気持ちで有紀翔は避難した。


 その頃、怪災対策本部。

「ハヤト、岡山に飛べ。怪獣だ」

隊長の村田は部下の南田隼人に命じた。

「グレイトマンは必ず来る。それまで何としてでも足止めしろ!」


 隠していたが隼人の正体はグレイトマンであった。

「グレイトマンにそれ言うか……まぁ身バレしてないから仕方ないが」

小声で愚痴りながらも隼人は交戦までの段取りを想定した。


 戦闘機で怪獣の足止めするとしてもどこかで戦闘機を降りてグレイトマンに変身しなくてはいけない。

当然ながら厳戒態勢で現地は空港も閉鎖だろう。

ちょっとトイレ貸してください、などと言って緊急着陸しようものなら始末書では済まない。


 変身してから直接現地へ向かうしかない。

高速で飛んで向かうが、それでも岡山までは1分はかかる……

グレイトマンは胸のカラフルタイマーが3分しか持たない。それまでに決着・帰還しなければならない。


「イタタ!持病のギックリです、すみません!」

隼人はわざとらしい声を荒げ身をかがめた。


「またか、このポンコツが!仕方ない、井田、代わりにお前いけ」

「おいおい、いまそういう表現アウトだろうが。コンプラを理解してないのかよ、このパワハラ上司は。おれの正体を明かした暁には土下座させてやるところだが……」

小声でつぶやきながら、偽りの苦悶の表情で隼人は退室して変身を急いだ。


 目立たぬ空き地の一角で、隼人はポケットから取り出したペンライトを天にかざした。

「変ーーーーーーーーーーーーーーー態!」

警察が耳にすれば不審に思うようなセリフと共に、隼人は光に包まれグレイトマンに変身した。


 一刻の猶予もない。

全速力で現地へ急行する。

「3分とか縛り設定キツ過ぎだろ。せめて10分くらいにしろよ。敵がタンクタイプだった時点で詰みだっつーの」

メタ認知しつつも、この巨身を稼働するのに必要なエネルギーの膨大さを考えるとグレイトマンは納得するしかなかった。


 遠くに怪獣が見えてきた、大きい。

寸暇も無駄にできないグレイトマンは移動しながら眼窩のグレイトスカウターで敵戦力を計った。


「戦闘力53万……!こないだ戦った中ボスより強いってどういうことだ?聞いてないぞ!戦闘機1機であんなゴツいやつの足止めしろとか言ってたのかパワハラ上司め!」

「敵の動きやスキルまで吟味している余裕はない、被弾覚悟で開幕から全力攻撃で速攻だ!」


 給料日前で隼人の財布はカツカツであった。

仮に時間ギリギリで勝利しても、岡山で隼人に戻ってしまえば東京までの帰りの新幹線代は持ち合わせていない。


「何としても即勝利ですぐ東京に帰る……殺る!」


 怪獣の前に降り立つや否や、鬼のような形相でグレイトマンは飛び掛かった。

あまりの勢いに怪獣はたじろぐ。


 怪獣の強烈な攻撃は間違いなくグレイトマンにヒットした。

ダメージはあるはずだ、しかし何事もなかったかのように次から次へと必殺技を連発する。

グレイトマンのあまりの凄まじい形相と大暴れに、傍目にはどちらが怪獣かわからなかった。


「怪獣が強いのはわかるがもうちょっと周辺に配慮できないものか」

「あれじゃグレイトマンも怪獣と変わらなくね?」

付近住民からは不安や不満が漏れた。


 そんな心配など関係ない。グレイトマンは必死だった。

「タフだ。これだけ殴ってまだ立ってるとかHPどんだけだ……」

焦りつつも攻撃の手は緩めない。


「1分切った、ダメか……許さんぞこのクソ怪獣!」

怒りに震え、もはやバーサーカーと化したグレイトマンの攻撃はさらに苛烈を極めた。


 激闘の末、グレイトマンは勝利した。

周辺被害を加味すると住民たちはとても諸手で喜べないが、グレイトマンがいなければ地域が壊滅していたのも事実だ。

微妙な拍手と歓声がグレイトマンに送られた。


 カラフルタイマーは弱々しく点滅しており、グレイトマンに残された時間の少なさを告げていた。

「残り20秒、無理か。できればこれだけは使いたくなかったが……」


 グレイトマンは懐からスペアのカラフルタイマーを取り出した。



 数か月前、タイマー工業株式会社。


 同社は生体エネルギー研究の世界最先端技術を誇る会社であった。

地域の平和を守るグレイトマン。

しかし滞在時間3分はやはり厳しい。


 そこで、スペアのカラフルタイマーを提供して、グレイトマンの継戦能力を高めてもらおうと申し出たのが同社であった。


「10個ほど作って通販サイトに置いときます」

研究員の茶羅井は軽いノリで言った。


「そんなんでいいのか?しかも金とるんかーい!まぁ生産は高額だからしょうがないか。基本は使わない方向でやるしかない」


 後日、隼人は通販サイトを目にした。

【カラフルタイマースペア 980万円 在庫2】

「きゅ、980万円!?高けぇ!」


オークションサイトを覗くと

【カラフルタイマースペア実物 2500万円】

「転売すんな、使えるのおれだけだぞ!」


 そんな中で目にしたのは

【中古カラフルタイマー ほぼ新品 698万円 在庫1 お早めに】


「ほぼ、ってのは気になるが、買えるのはこれしかない。万一の保険だ、買っておくか」

隼人はATMへ急いでなんとか購入にこぎつけたのだった。



 苦心して手にしたスペア。

購入してこんな早々に使うことになるとは……

悔しさを滲ませつつも手早くスペアに付け替えるのだった。


 激戦の高揚も冷めやらぬまま地域に手を振り、グレイトマンは離陸した。

「体に力が入らない、目まいもするな。あれだけ激しく戦ったのだ、仕方あるまい」

そう思った束の間、グレイトマンの高度はどんどん下がり、住宅街へ落下した。


「なんてことだ、おしまいだ……」

白を基調としたシックな壁色に景観を害さない太陽光発電設備。

遠目にも倒壊した家屋がマイホームであることがひと目でわかった。

有紀翔はショックという言葉では表現できないほどの悲しみに包まれた。


「そうだ保険会社に連絡しよう」

藁にもすがる思いで有紀翔はスマホを手にした。


「業務に関わりますので当社でも今回の件は一部始終モニターで確認しておりました」

保険会社の説明は続いた。

「残念ながら保険金のお支払いは、グレイトマン戦闘終了までに発生した損害までが対象となります。本件の被害は完全に戦闘終了後に発生していますので。詳細は約款をご確認ください」

 

 有紀翔は絶望した。

「少し厳しいかもしれませんが、原状回復に関しましては

グレイトマンに直接賠償請求していただく等のご対応になるかと存じます」

落ち着いた、しかし冷徹な判決が有紀翔に突き付けられたのだった。


 

 一方、グレイトマンは謎の体調不良に苦しんでいた。

「どういうことだ、気分が悪いだけでなく全身に力が入らない……」

混濁する意識の中でスペアタイマーに小さな文字があることに気づいた。

【made in China】


「偽物かよ……ふざけやがって。終わった」

怒る気力も失って横たわるグレイトマンの目に、1人の人間が近づいてるのが目に入った。


「危ない。そんなに近づくな」

人影は涙を流しながら歩いてくる。

「ありがとう……そう言いに来たんだな」

 

 今日の戦いは無意味ではない。

救われた人間が1人でもいるのなら、そう思える。

グレイトマンは報われた気持ちになった。


 人影は近づいて、横たわるグレイトマンの耳元まで来た。


「バカヤロー!家弁償しろ!」

怒りとも悲しみともとれる有紀翔の叫びだった。


「地球、滅んでいいな」

グレイトマンは思い残すことなく、力尽きた。

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