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真実

――神は残酷な生き物よ。


 幼い頃から不思議な声が聞こえていた。それが、神の声だと気づくのに時間はかからなかった……


 鹿獣人として生を受けたマリアさんは、幼い頃から巫女見習いとして、神殿に住んでいた。神官に仕える生活の中、ある時友に、不思議な声の話をした事があったと。その日から自分の生活が一変したと彼女は言った。


「当時は、本当に恐怖でしかなかったわ。ただの巫女見習いの女の子が、神の花嫁として祭り上げられ、崇拝されるのよ。昨日までは、神官様と敬っていた人物が、何の変哲もない少女を前に、傅くの。その豹変ぶりは、幼い私の心に大きな傷を残した」


 神の声を聞き、その声を伝える存在である『神の花嫁』は、神と同じ扱いを受けた。なぜなら、花嫁のご機嫌を損ねることは、そのまま神の怒りを買うことと等しかったからだ。実際に、花嫁を蔑ろにした者達が悲惨な運命を辿ったという迷信めいた話も伝わっている。


「私は、誰も信じられなくなった。マリアと普通に名前を呼ばれることもない生活よ。友だった者達は離れていき、会うことも出来なくなった。周りにいる大人達は、自分を花嫁としてしか見てくれない。まるで人形のような生活に、感情がどんどん抜け落ちていく。気づいた時には、しゃべらなくなっていた」


 幼い少女にとって、神の花嫁としての生活は苦痛でしかなかっただろう。花嫁としてではなく、ただの『マリア』として接してくれる誰かが、そばにいたら、彼女の心は色を失うこともなかったのかもしれない。


「――まさか……貴方の心を救ったのが、陛下だった?」


「ふふふ、そうよ。あの囚われの世界から私を救ってくれたのが、あの人だった」


 幼い恋物語を語る彼女の瞳がキラキラと輝き、潤む。


 神殿での生活に心を壊した彼女の唯一の拠り所が、神聖な森での水浴びだったと言った。誰もいない泉で、神の名を聞くという名目で行われる沐浴は、たくさんの目に晒され続ける神殿とは違い、唯一ひとりになれる場所だった。そこに、森で訓練をしていた陛下が、偶然にも迷い込んだらしい。そこから、始まった恋物語は、許されることのない禁断の恋だった。


「あの人はね、私を普通の女の子として扱ってくれたの。神の花嫁ではなく、ただのマリアとして接してくれた。それがどんなに嬉しかったか想像できる? あの人の前でだけ女の子でいられたの。だから、ダメだとわかっていても、惹かれていく気持ちを止めることなど出来なかった」


 許されない恋に落ちていく二人。この恋物語の結末が、ハッピーエンドではない事は、彼女の顔を見ればわかる。


「――それを、神は許さなかったのですね」


「えぇ……。本当、残酷な話よね。神の声がいつの間にか聞こえなくなっていたの。これでやっと、解放されると思った。神の花嫁から降ろされ、ただのマリアとして生きていけると。あの人と添い遂げることが出来ると歓喜したわ。残酷な未来が待っているとも知らずにね。神の声が聞こえなくなった花嫁の末路は、どうなると思う?」


 神の花嫁の末路……。そんな話聞いたこともない。


「神の声が聞こえなくなるということは、花嫁が神の怒りをかったとみなされるのよ。つまりは、大きな災厄が降りかかる前兆と神殿では言われてきた。それを回避する唯一の方法は、花嫁を生贄とする事なの。怒りをかった花嫁を神の元へと贈る事で、怒りを収めてもらう。そうやって、大昔から神の怒りを鎮めてきた」


「では、マリアさんは……」


「えぇ、生贄として神へと捧げられるはずだった。しかし、それをあの人が阻止してくれた。当時、すでにアルスター王国の王へとなっていたあの人は、持てる力全てをつかい、私をあの神殿から救い出してくれた」


 マリアさんの話が真実であるなら、陛下が鹿獣人を娶った理由は、死ぬ運命だった彼女を救うため。なのに、彼女はアルフレッド殿下を産み亡くなってしまった。愛する人を救ったつもりで、結局救ったはずの彼女を失う結果となってしまった。死にゆくマリアさんの側にいて、陛下は何を想ったのだろうか……


「マリアさん、どうして貴方は陛下との子を成そうと思ったのですか? 鹿獣人が肉食獣人との間に子を成せば、どういう結末が待っているかは、知っていますよね?」


「貴方なら、その理由がわかるのではなくって?」


「え? 私なら、わかる? 意味がわかりません」


「じゃあ、こう言えばわかるかしら。草食獣人街という檻の中で暮らすことに窮屈さを感じていた貴方ならわかるのではなくって」


 マリアさんが言わんとしていることがやっとわかった。彼女もまた、神殿という名の檻の中で囚われていたも同然だったのだから。


「以前、陛下が私に言っていました。草食獣人と肉食獣人がわかり合える世を造りたいのだと。それが亡き妻との約束だと。マリアさん、これは貴方の夢だったのですね? だからこそ、どうしても陛下との子を成したかった。次代を先導していく者として、草食獣人と肉食獣人とのハイブリッドを――」


「えぇ、鹿獣人だからと巫女へと成ることを強制される世も、神の声が聴こえるからと神の花嫁として祭り上げられる風習も、全てをぶち壊したかった。前世の記憶をもつ貴方なら、私の気持ちわかってくれるのではなくって?」


 なぜ、マリアさんは私が前世の記憶持ちだと知っているのだろうか?


 そんな話、ここに来てから彼女に話した覚えはない。


 まさか、前世の記憶を持ったまま生まれ変わったことに彼女は関与しているのか!?


「マリアさん、どうして貴方は、私が前世の記憶を持っていることを知っているのですか?」


「それはね――。私こそが、貴方に前世の記憶を授けた張本人だからよ」


「それこそあり得ない話です。だって、アルフレッド殿下は、私より歳下です。私が今世の生を受けた時、貴方はまだ生きていたはずです!」


「そうね。確かに、貴方が生を受けた時、私は生きていたわ」


「なら、どうして私の前世の記憶に貴方が介入したなどと言えるのです」


「それはね。私が接触を持っていた神が、時の神だったからよ」

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