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プロローグ

――運命とは時に残酷で気まぐれな試練を人に与える。


 時の神の気まぐれなお遊びに巻き込まれた者が一匹……いいや、一人、高い塔がそびえる城の一角に据えられた部屋の窓から地上を見下ろしていた。手には簡素なカップを持ち、薄茶色の液体を飲んでいる。この飲み物は、この世界にこの男が生を受けるまでは存在しなかった物だ。そんな代物を懐かしそうに目を細め、大事そうに嗜む男の頭からは長いフサフサの耳が生えている。俗に言うウサ耳というやつだ。そして、その者のお尻からは、お決まりのように丸くてフワフワの尻尾も生えている。


 長いフサフサの耳が微かな物音を聴き取りピクっと動く。


(また、来たか……)


 嫌そうに顔を顰めた男は、窓に視線を戻し、その音に気づかないフリをするらしい。そんな些細な抵抗など無視するかのように、扉が開かれ入ってきたのは、2メートルは超えるかという大男。鮮やかな赤髪を後ろに流し、この国の軍服を華麗に着崩した美丈夫は、大層な色気を振りまき、ウサ耳男に向かい一直線に進む。そして、この大男の頭にも、また獣の耳が生えていた。

 

「ユリアス入るぞ」


「――殿下……また、勝手に入って」


「勝手に入ってなどいないぞ。ノックはした」


「そういう問題ではございません。わたしは、今貴重な休憩時間なのです。殿下の毛繕いのために時間を取られたくはない」


「何を言う。俺の毛繕いも立派な仕事ではないか。医者として、主人の健康管理も大事な仕事だ」


「失礼ですが、殿下の毛繕いは、侍女の仕事です。わたしの仕事は、あくまで医者であって――」


「あぁ、うるさい。うるさい。お小言はいい」


 一瞬の間をおき、大男の姿が大型の獣の姿へと変わる。燃えるような赤毛をもつ大型の狼へと変貌した男の尻尾に巻き取られるようにして地面に腰をおろしたウサ耳男は、小さくため息をこぼし、優しい手つきで赤毛をなでる。それを見届け、狼へと変貌を遂げた男は瞳を閉じる。


 静寂に包まれた室内では、ゆっくりと優しい時間だけが流れて行く。


 ただ、赤毛を撫でる男の心中は誰にもわからない。青灰色の瞳から一筋流れた涙の意味を――

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