第三話 いきなりピンチ
「まつな、俺のフリをするんだ」
「フリ? 別に中身が入れ替わったって言えばいいんじゃないの?」
「普通に生活してる人間はそんなこと言われても信じることができないんだよ」
「まつなは信じるれるよ」
「まつなはあれだ、頭がいいからな。ドアの向こうにいるお姉ちゃんは頭が悪いんだ」
「なるほど」
ただのでまかせだが、納得してくれたようだ。存外扱いやすいのかもしれない。
とりあえず、この状況を乗り越える。その後にこれからのことを考える。なんとかなる。 よし完璧だ。
「すごく頭の悪そうな顔してる」
「お前の顔だよ!」
俺はおもむろにたちあがり、ちゃぶ台の上に置いてあるスマホとワイヤレスイヤホンを手に取った。
「まつな、外にいるお姉ちゃんは俺と昔からの幼馴染で、少し頭のネジが飛んでる節があるんだ」
「……ネジ? かつお節?」
「……まぁ、とにかく、入れ替わっているってことがバレないようにすればいい。俺が電話で指示をだすから、俺の言った通りに話してくれればいい」
「わかった」
「よし、俺は押し入れの中に隠れるから頼んだぞ」
「あ、ゆうや、こんばんは」
「こ、こんばんは」
すたすたと近づいてくる音が聞こえてくる。
そして、俺が入っていた押し入れの扉を勢いよくあけた。
「……!」
思わず声が漏れそうになったら、口を押さえてなんとか飲み込む。
「あら、だれもいないのね。女の声が聞こえたような気がしたのだけど」
奥の方に隠れていたおかげで、ギリバレてはなようだ。だけど、あと1センチでも扉を開けば俺の存在が、まつなの存在がバレてしまう。
「………」
「どうしたの? 黙ったままで」
くそっ、近すぎて少しでも音を出せばばれてしまうから、言葉の指示ができない……!
まつな、お前は賢い子だ。アドリブでなんとかしてくれ……!
俺の助けてくと願う視線に気がついたまつなは、ゆっくりと口を開いた。
「こんな時間にどうしたんだ? お手洗いでも借りにきたのか?」
それはお前だろとツッコミそうになったが、なんとか堪える。
まぁ、初めてにしてはなかなか上出来だ。口調を俺に合わせているし。
「違うわよ。こんな時間来たってことは、そんなの決まってるじゃない。もう、言わせる気?」
猫撫で声でそんなことをまつなに向けて言う。
くっ…、小学生に向けてなんてこといいやがる……!
まつなに今の言葉の意味が分かるわけがない。だけど俺は手助けができないから、もう、まつなのアドリブに任せるしかねぇ……!
返答を考えていたのか俯いていたまつなは、ゆっくりと顔を上げた。
「お手洗い?」
それはお前だっつってんだろ!
「もぉ、茶化しちゃって、照れてるの? かわいいんだから、……あっ、包丁落としちゃった」
えっ、包丁?
やべぇ、三股した時のことまだ根に持ってやがったのか……!
だとしても包丁持ってきてるのやばすぎるだろ、怖すぎんだろっ!
「包丁なんて持ってきて、料理でもしにきてくれたのか?」
「そうね、料理をしにきたの、裕也もろともね」
「そうか、悪いけど、今日はもうお腹いっぱいなんだ。さっきデサードを食べたばかりでな」
「デザート? ……それってどういう意味よ!」
「言葉の通りの意味だぜ」
なんかよく分からねぇけど奇跡的に会話が成り立ってる。
ちなみに、本当にそいつデザート食べただけで、それ以外の意味はない。本当に言葉通りの意味なんだよな
「ふん、まぁいいわ、今度浮気したら本当に料理してあげるから覚悟してなさいよ」
「あぁ、楽しみにしてるぜ」
楽しみにしてんじゃねぇよ! 今のほぼ殺害予告だよ!
「なんだか冷めちゃった。お手洗い借りて帰るわね」
そう言うと、トイレに向かって歩き出す。
結局お前もお手洗い借りるんかい!
「ちょっとまちな!」
そしてそれを引き止める俺(inまつな)
「……なによ」
少し不機嫌そうに振り返る女。
なんで引き留めたんだ? 引き止める理由なんてないはずだけど……。
「すぐ近くに草むらがあるぜ」
そこは真似しなくていい!
「このゴミ野郎……! もう帰る!」
ズタズタと大きい足音を立てながら、女は帰って行った。
そして静まり返る家、冷や汗を浮かべる俺
「ゆうや、うまくいった?」
「いってるわけねぇだろ!」
夕闇に、甲高い声が響いた。




