第二話 入れ替わり
「タバコのお兄ちゃん」
「………」
翌日、同じ場所、同じ時間に、まつなと出会った。
「おい、また家出か?」
「……うん」
「そうか、昨日は遊んでくれてありがとな、じゃぁ頑張れよ」
そしてまた傍から抜けて階段を上ろうとした所でズボンを掴まれた。
「タバコのお兄ちゃんの名前おしえて」
「……いいけど、ママとかパパに言いふらしたりしない?よくよく考えてみたら、昨日小学生家に連れ込んでる感じになってるじゃん。万が一があるじゃん?」
「……何言ってるか分からない、いいから、教えて」
「……斎賀裕也だ。お前はどこ産の小松菜だ?」
「小松菜じゃなくて、まつな。折本まつな」
自己紹介が終わった所で、ふとまつなが手に持っている物が目に入った。
「その小汚い袋はなんだ?」
「汚くないよ、おばあちゃんがくれたお守りだよ」
すると、手に持っていたお守りを俺の向けて差し出す。
「……くれるのか? 小汚いから別にいらないんだけど」
「あげない、見せてあげるだけ、汚くない」
そのお守りを触ると、くしゃくしゃと音がした。
「中には何が入ってるんだ?」
「お手紙と、丸い石が入ってる」
「へぇ、見ていいか」
「いいよ」
中にはくしゃくしゃになった手紙と、紫色の丸い宝石が入っていた。
「おばあちゃんね、優しかった。よく公園に連れて行ってくれて遊んでくれた。……でも、去年死んじゃった」
「……そうか」
こいつ、若いくせにだいぶ苦労してるな。
俺なんかよりも、ずっと。
「パパはたんしんふにん? で日本にいなくて、家だとママと2人きりなの。だから、家はやだ」
「……そっか。大変だな」
なんとかしてやりたい。助けてあげたいとは思う。
だけど、こいつは境遇が、すでに手遅れだ。根本から解決することは、俺にはできない。
変わってやれるなら変わってやりたい。心の底からそう思った。
「……いつでも俺の家に来い、俺がお前の居場所になってやる。………え?」
あれ、まつなはどこだ?
急に視界から消えた。
っていうか。景気ごと変わったような。
「ゆうや、どこ……?」
俺の声が聞こえてきた。
……なんで俺の声が聞こえてくるんだ?
「おい、小松菜……?」
さっきまで俺が座っていた場所に、俺がいた。
俺が俺を見つけた……。
「……わたしがいる」
「俺も……いるな」
じゃぁ、2人いるし問題ないか。
「……んなわけねぇだろぉ!!」
俺の家にあがり、2人して正座で向き合う。
「おい、小松菜」
「まつなだよ、タバコのお兄ちゃん」
「俺の声でお兄ちゃんとか言うんじゃねぇよ、気持ち悪いわ!」
「お兄ちゃんも言葉遣い気をつけてよ、男みたいだよ」
「俺は正真正銘男だ!」
「うっ……」
悲しそうな表情を浮かべ後ずさる俺。いや、俺ではないんだけども。
俺とまつな入れ替わっている。信じられないが、実際に体験している以上認めざるおえない。
「……怒鳴って悪かった。気が動転してたんだ。……っていうか、まつなは冷静なんだな」
ふふんと、得意げな表情を浮かべるまつな。
「だって、これでママと合わなくていいもん」
「ほう。…………あれ?もしかして俺がママに合わないといけないのか? すげぇ嫌なんだけど」
話を聞く限り、間違いなく毒親だよな、まつなのママって……。
「まぁ、とりあえず落ち着くか。焦ってちゃ分かることもわからないよな。クッキー食べるか?」
「食べる!」
ぐっ、と顔を寄せてくるまつな。
いや、寄せてくるなよ俺の顔、怖いわ。
ピンポーン
インターホンが鳴った。
「はいはーい。って、俺が出ちゃまずいのか」
「いまいきまーす」
「行くなバカ!……いや、出ていいのか。流石まつなだぜ。足元気をつけろよ」
「はーい」
ドタドタと音を立てながら玄関に向かうまつな。
まぁ大丈夫だろう、どうせ郵便局だろうし。知り合いでもない限りは……。
『……ゆうや? 今子供の声しなかった?』
…………。
「カムバック! まつな!」
「はーい」
とことこと戻ってくるまつな。
「……まずいことになった」
「……?」
考えろ俺、なんとか切り抜ける方法を考えるんだ俺!
大丈夫だ、三股してたのがばれて、包丁片手に彼女が家に乗り込んできた時も、無事生還できたじゃないか。あの状況を切り抜けられた俺なら、この程度の試練乗り越えられるはずだ!
「……まつな、今から作戦を話すから、ちゃんと聞いててくれ」




