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ファンタジー短編集

『世界は、特に問題なかった。』国王視点

作者: 月見酒
掲載日:2026/01/27

この物語には、

派手な戦闘も、明確な勝者も登場しません。


勇者は剣を抜かず、

魔王は滅ぼされず、

世界は「救われた」と記録されます。


それでもなお、

同じ出来事を見た人々が、

同じ感想を抱くとは限らない。


これは、

何も起きなかった世界を、どう受け取ったか

その差異を描いた二つの記録です。


謁見の報告書に、異常はなかった。


 勇者は剣を抜かず、魔王も玉座から立たなかった。会話は穏やかで、争点は整理され、双方が合意に至ったとある。血は流れず、城壁も崩れず、民の避難指示も不要だった。


 結果として、王国の被害はゼロだ。


 私はその一点だけを確認し、書類に署名した。

 世界は守られた。統計上、これ以上ない成果である。


 勇者が何を語り、魔王が何を望んだかは、記録の付録に回されている。重要ではない。国が存続し、税が集まり、畑が耕されるなら、それで十分だ。


 恐怖も歓喜も、政策には不要である。


 民は今日も起き、働き、眠るだろう。

 剣が抜かれなかったことなど、いずれ忘れる。


 私は窓の外を見た。

 平穏な景色が広がっていた。


 ――世界は、特に問題なかった。


世界が壊れなかったとき、

私たちは本当に安心できるのでしょうか。


英雄の剣も、悪の炎もなかったなら、

救済は「実感」されないまま通り過ぎてしまいます。


この物語は、

戦争が回避されたこと自体よりも、

それをどう観測したかに焦点を当てています。


問題が起きなかった世界は、

本当に「問題がなかった」のか。


その答えは、

読む人の立つ場所によって変わるはずです。

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