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ピンク髪なら特別課税  作者: さいべり屋


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9/10

閃光

閲覧いただきありがとうございます。

永遠にも思える時間が過ぎて。わたしの足は地面と再会した。


それを察したヴォルフも、残りの段を飛び降りる。


足元が確保されたわたしたちは、小さな明かりを頼りに周りを見回した。


地下パントリーを改装したのだろうか、壁際に並ぶのはいくつもの木箱。


――そして、檻。


  女ばかりの檻。


  男ばかりの檻。


  年老いた者や、子供ばかりの檻。


それぞれが「仕分け」されているかのように、狭い檻の中にぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。光ひとつ差さないこの地下で。


「ねえ、だれか話せる人いる? なにがあったのか分かる人は?」


問いかけてみるが、濁った目で見つめ返されるだけだ。


ヴォルフが手近な檻から解錠を試みる。ぱちんと火花が爆ぜて、魔法が跳ね返された。


「……ルナ?」


「メリー!」


見知った顔を見つけて、わたしはその檻に飛びついた。少し前から見かけなくなっていた。羊の角を付けた少女、メリーだ。


「ルナ、ルナ、ルナ、ルナ」


メリーは幼気な顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくっている。わたしは鉄格子ごしに彼女の手を握った。


そうだ。きっと助けるって、わたしはこの子にも約束したんだ。


その時、空が四角く口を開けて。


「おやおや、自ら檻に飛び込んでくるなんて、殊勝な兎ちゃんだ」


ピ課税担当大臣ヴィルヘルム・ド・グラナートが、好々爺然とした顔でこちらを覗き込んでいた。





グラナート、上役、面接の日に見た強面の男たち。


なんらかのトラップに引っかかっていたのか、それとも、出荷前の検品に来たのか? どちらにせよ、ふたりで戦うには分が悪い。つぎつぎと降りてくる悪党たちを見ながら、わたしは大きく舌打ちをした。


「……この子たちを、どうするつもりなの」


わたしはグラナートの前に立ちはだかった。


「なあに、彼らは国が定めた税金が払えないというのでね。仕事を斡旋してあげただけだ。ほんのちょっとの手数料はいただくがね」


「いつから『ほんのちょっと』って『一切合切』って意味になったの? 自由を奪って、家畜呼ばわりして」


「……兎ちゃんはずいぶん、物知りなようだね」


グラナートの笑みが深くなる。


「正当性のない徴税で国民を疲弊させたな。富裕層からは等級を不正に下げることで賄賂を受け取った。根拠のない噂で分断を煽り、バイトと偽り貧困層を集め、人身売買の温床にした」


ヴォルフがわたしを視線からかばうように前に出て行った。


「オオカミだと思っていたが、犬だったとはね。やはり、早めに殺処分しておくべきだった」


上役はよっぽどヴォルフが気に入らないのか、憎々しげに顔を歪めた。


「なあに、今からでも遅くはないさ」


グラナートは鷹揚に頷いた。


「常日頃、下等な賤民のために身を粉にして働いているんだ。少しばかりのご褒美があってもいいだろう? 愚か者どもが勝手にまき散らした噂までは知らないがね。魔力が高く、所得も高い、だったか。……ああ、「上昇婚の傾向がある」だけは、あながち嘘ではないかもしれないぞ。王子様が君を見初めてね。……ペットにしてくれるそうだ」


物音ひとつたてない「家畜」たちの前で、グラナートは上機嫌だ。街頭で演説でもしているように芝居がかって語りかける。


「ずいぶん、ご親切にいろいろと教えてくださるのね、おじさま。そんなにペラペラしゃべっちゃって大丈夫なの?」


「問題ないさ。どうせ守秘義務魔法で何もしゃべれまい。王子様は気の強い女の絶望に歪む顔が殊の外お好みでね。……せいぜい、いい声で啼いておくれ」


気持ち悪くて反吐が出そうだ。怒りで目の前が真っ赤になる。


「うちの王子様たちはそこまで悪趣味じゃないと思いたいがね」


「弊社は輸出事業も好調でね」


ヴォルフの嫌味には、上役が応じる。


「貴様には守秘義務魔法が効いていないようだが、なあに、心配はいらない。昔から言うだろう? 『死人に口なし』ってさ」


後ろに控えていた強面たちが、武器のようなものを構えて一歩前に出る。


「あまり暴れないでくれると嬉しいね。臓器、いや「部品」も売り物なんだ。傷むと値が下がってしまう」



――鼻の奥が、つんとした。


甘いとも苦いともつかない、ぞっとするほど濃い魔法のにおい。


思わず、わたしは小さく鼻を鳴らした。


「……来たか」


呟いたヴォルフがわたしに向き直り、庇うように強く抱きしめられた。


蕩けるほど甘く囁かれる。


「ルナ……。目を、閉じろ」


「えっ?」


その瞬間。



「――そこまでだ!」


視界が爆ぜて、真っ白になった。


暗闇を切り裂く激しい閃光に目が眩み、何も見えない。


たくさんの足音、金属の擦れる音、だれかの悲鳴。


わたしを抱いたままのヴォルフが「遅いですよ、リーンハルト殿下」と言う声を聴きながら、わたしは意識を手放した。


最後まで読んでいただいてありがとうございました!

次回が最終回です。

「ピンク髪でも世は事もなし」

21時にお待ちしていますので、よろしくお願いします。

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