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ピンク髪なら特別課税  作者: さいべり屋


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8/10

潜入

閲覧いただきありがとうございます。

閉店後、わたしたちは皆と同じように店を出て、宵闇に紛れて再潜入を試みることにした。


わたしたちが店を出ると、路地で寝ていた男がふらりと立ち上がり、千鳥足でわたしたちに近づいてきた。


ヴォルフは小声で男と何かを言い交わすと、彼の持った帽子に帳簿と等級通知をねじ込んだ。


「――ありがとうごぜえます」


男は、歯の抜けた顔で笑うと、酔ったような足取りでどこかへ消えていった。


「……あとで、すべて話す」


物問いたげなわたしの視線に気づいたヴォルフは、意外なほど真摯な目で見つめ返してきた。


「……約束」


わたしたちは、どちらからともなく手を取り合った。




閉店後の店内は、見つかる危険も、見つかった後の危険も桁違い。


ただ闇雲に家探しするのは、悪手だ。


わたしたちは油断なく再潜入の期を伺いながら『牧場』の所在について話し合った。


「牧場っていうぐらいだから、ある程度広い場所が必要だな」


「建物の中に広い場所を確保できるところは、ある程度限定できるわね。屋上。階と階の隙間。それから地下」


ヴォルフが屋根に小石を投げ、防犯装置がないのを確かめる。


「広い場所を作るなら……地下、か? まずは一階に抜け道になりそうなところがないか、重点的に探そう」


ありえない身軽さで壁を登っていくヴォルフ。時々振り向いては手を差し伸べられ、わたしも何とかよじ登る。


「……デセールの、スプーン」


応接室に誰もいないのを確かめ、鍵の開いている窓を開けようとしたヴォルフを、わたしは押しとどめた。


「落ちて、鳴った、音。からっぽのスープ缶、みたい、に、響いた。……ぼくじょ、う、は……」


魔法のにおいが、喉をせり上がってくる。燃えるように熱くて痛い。


でも怯まない。触れてはいけないところに、近づいている証拠だから。


ふたたび頬を嚙み切る寸前、長い指が唇の隙間から差し込まれて、続く言葉を引き取った。


「……牧場は、厨房だ」




誰もいない厨房は、先ほどまでの喧騒が嘘のように静かだ。


わたしたちは滑るように足音を殺して歩く。


営業中の厨房であれば、ちょっとぐらい物音が反響しても──ひょっとして、家畜が鳴いたりしても──誰も気づかないに違いない。


いま物音を立てたらどんな音が響くんだろう。ちょっと試す気にはなれないが。


窓のない厨房の空気は少し濁っていて、昼間煮込んでいたスープの残り香がまだ居座っていた。


──くう。


「こんな時でも腹が鳴るのか。大物だな」


「う、うるさい! 早く探して!」


わたしは羞恥で身悶えしながらも、目を皿のようにして床板をひとつひとつ観察していく。不自然な箇所は──見つけた。


普段はだれも触れないような作業台の下の床板が、手垢でもついたように不自然に艶めいている。ヴォルフが継ぎ目に見慣れない工具を突き立ててる。


床板が、外れた。


真っ暗な奈落から漂う、黴臭いにおい。そこに入り混じる、獣のような生臭いにおい。そして、かすかな、衣擦れの音。


「行くぞ」


床板の下に続くタラップに足を乗せると、慎重に床板を基に戻す。途端に、鼻をつままれてもわからないような暗闇に包まれ、恐怖で叫びだしそうになる。


「ルナ」


「……ヴォルフ」


頭上からヴォルフの声が聞こえて、心に小さな灯が点った。喘ぐように名を呼び返す。どうして、こんな小さな言葉ひとつで、この人は明かりを灯せるのか。


次いで、シュ、という音とともに魔法灯が現れた。手元が見える。わたしたちはそれを頼りに、一段一段タラップを下り始めた。



地獄へと至る道を。


最後まで読んでいただいてありがとうございました!

次回「閃光」は、明日21時投稿予定です。

あと少しなので、一緒にお付き合いいただければ幸いです。

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