ピンク髪なら高額出荷
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ドアの開く空気の動きとともに、男たちが入ってきた。わたしには見えないが、声からして上役と支配人だろう。
「あいつ、張り込みましたね。2等級分とは」
支配人は、やけに上機嫌に上役に話しかけている。
「あの髪色じゃな。いくら男爵でも、満額は納められないだろう。『牧場』送りになるぐらいなら、そりゃあ出すさ」
(また、牧場)
(しっ)
わたしの口をふさぐように、ヴォルフが肩を押し付けてくる。
「金持ちからは賄賂、貧乏人は牧場。どっちに転んでも俺たちは儲かる。完璧な仕組みですね」
「『家畜』の準備はどうなってる」
「バッチリっす。『バニー』はどうしますか」
バニー。その言葉を聞いて、ヴォルフの身体がぴくりとした。
「『バニー』はいいな。高く売れそうだ。すでに複数の入札が入っている。明日の出荷ギリギリまで店頭に出して、できるだけ値をつり上げろ」
「『まだらオオカミ』は?」
「あれは駄目だ。顔はいいが、あの髪じゃ高くは売れまい。屠殺場送りにするしかないな」
今度はわたしがぴくりとする番だ。
引き出しを開ける音。紙の擦れる音。何かを取り出す音。閉める音。おしゃべりに夢中になっているせいで、わたしたちが荒らした後だということには気付かれなかったようだ。
「そんなこと言って、アニキがイケメン嫌いなだけなんじゃないっすか?」
「ハハハ、そうかもな」
ゲラゲラと笑いながら男たちが立ち去った後、さらに10数えてから、わたしたちは隙間から飛び出した。
「やばっ! マジ、死ぬかと思った!」
緊張が一気にとけて、わたしは膝からくずれそうになった。
「ねえ、明日だって。わたしたちもリストに入ってる……ヴォルフ?」
「……網は……ダメだろ……」
「……バカ!」
自分の手を見ながら顔を赤くしているヴォルフの背中を、わたしは拳骨で殴るふりをした。
ヴォルフは応接室の窓の鍵を開けてから部屋を出た。
「時間がない。俺は閉店後、窓から戻って『牧場』を探す。お前は帰れ。明日の朝には、すべて終わっているはずだ」
そ知らぬふりで業務に戻りながら、ヴォルフは宣言した。
「『牧場』が別の場所にある可能性は?」
「ないことはない。だが、移動はすればするだけリスクが上がる。すべて内部で済ませるのが最も効率的だ」
それで、わたしにはお家でいい子にしてろって?──お断りだ。
「わたしも行く」
「危ないんだぞ!」
「お互い様」
わたしは挑戦的に彼を睨みつけた。『まだらオオカミは屠殺場』彼を待つ運命は、わたしのよりも、もっと酷い。
「……君を、危ない目に遭わせたくないんだ」
「……お互い様」
絞り出すような彼の言葉に、わたしも答える。
「あなたを、守りたいの。一緒に戦わせて」
どちらも引かなかった。暫しの沈黙の後、ヴォルフが折れた。
「初めは、別の組織の人間かと思った。誰もが諦めたように下を向くなかで、君だけがギラギラした目で世界に喧嘩を売っていた。挙動をマークしているうちに……目が離せなくなった」
バニーとギャルソンの仮面を被って、お互い視線も合わないままで。
「……絶対に、君を守る」
シャンデリアが煌めくパーティ会場の喧騒の中、わたしたちは一瞬だけ手を触れ合った。
最後まで読んでいただいてありがとうございました!
次回「潜入」は、明日21時投稿予定です。
引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。




