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ピンク髪なら特別課税  作者: さいべり屋


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4/10

「他言無用」

閲覧いただきありがとうございます。

翌朝。


わたしは疲れた体を引きずって食堂に出勤した。


正直、帰してもらえるとは思わなかったが、詰めが甘くて助かった。休憩時間になったらすぐに騎士団に駆け込もうと心に決めて、わたしは食堂のスウィングドアをくぐった。


「ルナ、おはよう! 昨日あの面接行ったんでしょ? どうだった?」


開口一番、アネッサが無邪気に聞いてくる。好奇心に満ちた眼差しに(はらわた)が煮えくり返る。


(どうだったかって? 強面の男に取り囲まれて奴隷みたいな契約を結ばされて、それから──。)


「……ねえ、ルナ?」


返事をしないわたしに、アネッサが首をかしげる。


(──声が、でない。)


わたしはただ水を求める魚のように、パクパクと口を動かした。


  一つ、契約中・契約終了後にかかわらず、雇用中に知りえたすべてのことを他言しないこと。


契約書の文言が脳裏をよぎる。魔法のにおいがして、喉が焼けるように熱い。


だれの詰めが甘いだって? ちがう。すべてが完璧だ。わたしは(ほぞ)を嚙んだ。


しかしわたしも前世日本の社畜として、コンプラにはこの世界のだれよりも詳しい自負がある。


探せ、抜け道を。思い出せ、刻み込んだあの言葉を。王国法と良心の定める範囲に於いて──。


「……バニーガールだったわ」


わたしの唇がにんまりと弧を描いた。


「こ~んなレオタードを着て、お酒を運ぶの。アネッサは色っぽいけど、未成年だからだめだったのね」


バニーのポーズでお尻を振ってみせる。やった。喋れた。言葉を選ぶ必要はあるようだけど、魔法拘束の網の目をくぐることは可能だ。


「なんといっても、つまみ食いしたローストビーフ! ソースの味わいがめちゃくちゃ複雑だったの。わたしがいつかお店を開いたら絶対に出したいわ。死んでも覚えておかなくちゃ」


おどけてみせると、アネッサが頬を膨らませた。


「いいなあ。そんなお仕事、私もやりたかった。やっぱピンク髪はいい仕事に就けるって、ほんとなんだね」


氷水を、浴びせられたような気持がした。


  ──蒙昧な大衆どもが勝手に『虐げてもいい理由』を作り上げてくれる──


グラナートの言葉が、耳に響いた。






その後、わたしはおかみさんにおつかいを頼まれて、市場まで買い出しに向かっていた。


騎士団に行くのは保留にした。どうやったら事態を伝えることができるか、検討が必要だからだ。


今日のバイトも……正直、行きたくない。でも、ここまで周到な以上、何らかの対策が施されているとみていいだろう。


考えながら野菜を吟味していると、視線の端でピンク色が動いた。


ピンク髪の、少しぽっちゃりした少女が歩いている。わたしはその顔に見覚えがあった。


「こんにちは! あなた、昨夜パーティで会った人よね。ローストビーフありがと。めちゃ美味しかった」


追いついて肩を叩く。彼女もわたしに覚えがあったのか、表情が少し緩んだ、が。


やはり声が出ないのか、恐怖に目を見開き、喉を押さえたままブルブルと震えだした。


わたしは崩れそうになる彼女を咄嗟に抱きしめた。


「大丈夫。落ち着いて、ゆっくり話せば大丈夫だから。ねえ、あなたの名前は?」


震える彼女の背中をさすり、幼子にするみたいに甘く囁いていると、ついに絞り出すような声が応えた。


「……メリー」


「メリーね。わたしはルナ」


「…………ルナ、たす、けて」


「もちろんよ」


即答した。絶対に出口を見つけてやる。わたしたちの人生、あいつらなんかに啜らせてたまるか。


いつも通りの笑顔の裏で、わたしの胸は怒りに燃えていた。




「──で。あんたは、何の用なの」


メリーを宥めて帰らせてから、振り向いた。


さっきから、見られていることには気付いていたのだ。


路地の奥から、ピンクと白金の、斑模様の髪をした男が。


鋭い目で、こちらを見ていた。


最後まで読んでいただいてありがとうございました!

次回「まだらオオカミ」、明日21時投稿予定です。

引き続きお付き合いいただければ嬉しいです。

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