ピンク髪でも世は事もなし
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本日最終回です。
それから。
ピ課税は廃止され、組織は壊滅。たくさんの人が投獄された。
結局組織からバイト代は出なかったが、殿下から直々に「特別慰労褒賞金」という名の口止め料を賜ったわたしは、それを元手に小さな食堂を開店した。
――カラン。
戸口に<OPEN>の札を下げて程なく、白金の髪の男がドアベルを鳴らして入ってきた。
「……ひさしぶり」
「いらっしゃいませ」
もじもじと立ったままの男にわたしは席を示した。
「どうぞ、好きな席に座ってちょうだい。ご注文は?」
「じゃあ、定食を大盛りで。……悪かったよ。事後処理が落ち着くまで、ろくに家にも帰れなかったんだ。後回しにしていたわけじゃない」
わたしが型どおりの接客で答えると、彼はあっさりと白旗を上げた。
「あらそうなの。はい、おまちどうさま」
煮込みの皿をコトリと置いた。男は大きく切ったひと切れを口に運ぶと頬を緩め、また背筋を伸ばした。
「改めて、俺はヴォルフガング・エーレンベルク。王国査察院の徴税特別監察官で、第一王子リーンハルト殿下の勅命を受けて内偵任務にあたっていた」
「ワオ。お役人様だったのね。そうは見えなかったけど」
ヴォルフは肩を竦めて苦笑いした。先ほどよりも大きなひとくちが口の中に消える。
「急ごしらえの役職だけどな。要は殿下の使い走りだ。どう考えても理不尽な法案が、ろくに反対もされずに議会を通った。不審に思った殿下の命で金の流れを追っていたら、あそこにたどり着いた。で、食い詰めたピンク髪のふりをして働いていたってわけさ」
「ピンク髪を染めてたんじゃなくて、ピンク髪に染めてたってわけね。やられたわ」
サラサラの髪は透き通るような白金で、ピンク色の欠片もない。
「道端で寝ていたあの男も、ああ見えて近衛隊の三番隊長だぞ」
「ええ? あなたたち、役者にでもなった方がいいんじゃないの」
パレードで隊列を組んでいた煌々しい近衛隊の姿を思い出して、わたしは目を剥いた。
「殿下は面白い人材が大好きなんだ。君のことも随分気に入っていたよ。『王国法と良心の定める範囲に於いて』君があの契約書に追記した文言、素晴らしかった。魔法をにおいで感じ取る特技、咄嗟の機転、追記した文字を隠蔽した魔力の練度、何よりその胆力。是非にと配下に加えたがっていた」
「お断りよ。わたしの正義は巨悪を倒すことじゃなくて、美味しいもので人を幸せにすることなの」
「それはそうだ。煮込み、素晴らしかったよ。このパンも」
「パンは買ったやつよ」
下品なわけでもがっついているわけでもないのに、ヴォルフの皿はあっという間に空になっていた。舐めたように綺麗な皿は、何よりの誉め言葉だ。
「でも、あなたがピンチになった時くらいは、助けに行ってあげてもいいわ」
「気持ちだけもらっとく。もう、危険な目には遭わせたくない」
ヴォルフがわたしの手の上に、大きな掌を重ねてきた。
「今回の件で腐敗した議員を排し、殿下の御代は盤石だ。とんでもない外交カードまで手に入れた。きっと、この国もよくなっていく。俺たちが良くしていく」
ヴォルフの真摯な目がわたしを射抜いた後、ふっと視線を外される。
「――君に、もうひとつ求人があるんだが。面接だけでも受けてみないか」
「嫌よ。もう殿下はこりごり」
わたしが眉をひそめると、ヴォルフはますます指を絡めてきた。
「いや、面接官は、俺だ。――そして、君でもある。雰囲気のいい店で、うまい酒で飯でも食いながら、お互いについて質問し合うんだ」
あらあらあら。つまり、それって、要するに。
「悪くないわね。まずは……ピンク髪について、どう思ってる?」
せっかちなわたしからの質問に、ヴォルフは一瞬戸惑って。
「初めて見たときから、美味そうだと思ってた」
「奇遇ね。……わたしもよ」
あるはずのないオオカミの耳が、ピンと立ったように見えた。
甘いデセールが苦手な人なら、これ以上はお勧めしないわ。
それじゃ、またね。
<CLOSED>
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