ピンク髪なら特別課税
この作品はピンク髪ラブコメシリーズの一作ではありますが、
制度的不正や犯罪行為を示唆する描写、若干の暴力やお色気表現を含みます。
苦手な方はご注意ください。
「ッッッシャア!! 乙女ゲー転生じゃん!」
目覚めた瞬間、わたしは異世界転生してた。
教会に併設された孤児院の女子部屋。相部屋の子から「ルナうるさい!」と怒られて、わたしはベッドの中でガッツポーズした。
孤児院転生。
毛布の中に見える髪の毛はピンク色で、くるくるのふわふわ。
これはもう、夢にまで見た乙女ゲー転生ではないですか!!
……なんて思っていた時期がわたしにもありました。
この世界は乙女ゲームじゃなかった。
魔法も学園も逆ハーレムもチートもなく、わたしは普通に大人になった。今は町の食堂で働いている。
まぁ、魔法にだけはちょっと自信があるけど。でも学園でちゃんと勉強したわけでもないし、実生活で役に立ったことはほとんどない。
「せっかく異世界転生したっていうのに、人生甘くなさすぎ~。甘くないの通り越してハバネロ超えてデスソースじゃんよ」
休憩時間に、わたしはカウンターの隅で、お客さんが置いていった新聞を片手に賄いを食べていた。
新聞の見出しに踊るのは、『ピンク髪特別課税に累進制度導入』の文字。偉そうな男たちが笑顔で握手している絵姿。
「ピンク髪だからって税金取られるなんて。コツコツ真面目に生きてきただけなのに、わたしが一体なにしたって言うのよ!」
ピンク髪特別課税、通称『ピ課税』。
その第1回納付期限が、10日後に迫っていた。
事の起こりは、政府の打ち出した不況対策だ。
大規模な定額給付金配布が発表されて国民が沸いたのも束の間、政府が新たな財源として目をつけたのは「ピンク髪」。
曰く、統計によればピンク髪は他の髪色に比して平均年収が高い。これは単なる徴収ではなく、国民の不平等を正すための措置、だそうだ。さらに今回発表された『累進ピ課税』では、髪色を等級に分けて税率を傾斜配分するとのこと。そしてわたしの髪色は鮮やかなチェリーピンク……。
「災難だねえ、ピ課税なんて。あんた、ちゃんと納められそうなのかい?」
悶絶するわたしに食堂のおかみさんが声をかけてくる。
「ヤバいです。せめて給付金を配ってから徴収してほしかった……。もらってもないのに取られるなんて鬼畜すぎる」
そう、定額給付金配布はまだ「発表された」だけ。わたしの懐はまだ一瞬たりとも温まっていないのだ。
「でもほら、ピンク髪は所得が高いんだろ? 王族と結婚したとか、巨大インフラ企業の重役だとか、いろいろ噂になってるよ」
「そんならその人から直接取ればいいんですよ! ピンク髪なだけで王子様と結婚できるわけないじゃないですか。絶世の美女だったとか、そもそもお貴族様だったとか、なんか別の理由があるに決まってます。平均値だって、どうせその極一部が押し上げてんでしょ。大多数の貧乏ピンク髪は、絞ったって鼻血も出ませんよ。中央値を出しなさいよ、中央値を」
おかみさんに当たっても詮ないことはわかっているが、どうにもやりきれない。わたしは前世知識を喚きたてながら食堂のカウンターに突っ伏した。
「ルナは、学校にも行ってないのに字も読めるし、難しい言葉をいろいろ知ってるねえ」おかみさんは困惑したような笑みを浮かべていたが、ふと真面目なまなざしに戻ると、わたしの隣の丸椅子に座り、強く肩を抱いてきた。
「うちにもそんなに余裕があるわけじゃないけど、ちょっとぐらいの前借りなら何とかするから……。自棄を起こすんじゃないよ」
いつか自分の食堂を開きたい。そう思ってコツコツ貯めてきたお金と、前借り分を合わせれば、きっと自分の分だけならなんとかなるだろう。でも、孤児院にいる、ピンク髪のあの子たちの分は? 孤児院に余分なお金なんてあるわけがない。兄弟同然に育って来たあの子たちを、見捨てるわけにはいかない。
どんな手を使ってでも、あの子たちの納税分も稼いでやる。おかみさんのふくよかな胸に抱かれながら、私はそう誓っていた。
ご覧いただきありがとうございました!
本日は2話までまとめて投稿、
明日から完結まで毎日投稿します。12/25完結予定。
よろしければまったりお付き合いください。




