第1章 第6話 団欒
そんなやり取りをした俺たちは少し打ち解けた…と思う。
俺はアルミラージ(仮称)との遭遇から今日までのことを話した。
そこで(仮称)が取れることが判明した。
「アルミラージは好戦的なうえに、素早い突進から角の頭突きが致命傷になりやすいんだ。一番冒険者を泣かせるのが、こちらが致命傷を与えても…もっと簡単に言うと奴ら、死んでも逃げるんだよ。まさに脱兎のごとく。だから素材は比較的いい値段が付くのさ」
「特に角は工芸品としては良質だし、お肉も割とおいしいの。毛皮も人気ね。…捨てるとこないのよ」
「…食べます?余ってるんですが」
俺は敢えて、二人の眼前で収納庫から取り出した。
「へえ、収納持ちか。便利だよな…って3羽もいるのか?しかも、もちゃんと皮まで剥いで。」
思っていたより軽い反応で助かった。
「記憶はないんですが、知識はあるんですよ。不思議なことに。だからここまでできました。ダラスさんから借りたロープとナイフのおかげでもありますが」
「生きかえったら礼を言えばいいさ」
「それより、ご相伴にあずかりましょう」
俺は薪を組み、収納庫から火のついた薪を取り出し着火する。
ここ数日で収納庫の実験を色々試みた結果、中に入れたものの状態は維持されることが判明したのだ。
だから肉も腐らない。
素晴らしいな、これ。
ただ、ダラスさんはポーチで諸々を運んでいた。
『収納』できていれば、ポーションと思しき薬瓶も割れなかっただろう。
だから俺は、もしかしたら収納魔法(俺命名)は稀少なのではないかと思っていたのだ。
この二人ならば、そんな時でも正直に教えてくれると信頼しての行動だった。
一匹目のアルミラージは3/4余っていた。
というか、3日かけてようやく後ろ脚の一本を食べきれたという、なんとも言えない小食っぷりだ。
「これ、程よく解体してもらっていいですか?」
女性である、シアさんにお願いしてみたところ、「任せて」の言葉通り、素早く綺麗に分解してくれた。
それは前世のスーパーでよく見た形だった。
俺は塩とローズマリーで下味をつけたそれら肉塊を焼き始めた。
「その葉っぱは?」
シアさんが不思議そうに尋ねた。あれ?香草、しらない?
「とても良い香りがする葉っぱです。お肉によく合うので使っています。何度も食べてるんで毒性は心配ありません」
「色々知っているのね」
日は完全に高くなったころ、焼いていた肉も食欲をそそる見た目になった。
驚いたことに一番食べたのはシアさんだった。
巨大な後ろ脚のほとんどを平らげ、スペアリブから肩肉まで、まんべんなく食べていた。
「とても美味しい!この葉っぱ、なかなかいい仕事してるわね!これは持って帰らないと!」
食事が終わったところでヴァリスが改まって話しかけてきた。
「さて、ソーイチ。きみには二つの選択肢がある」
なんだ?またカッコいい言い回しだな。
「ひとつは、俺たちに保護を求め、一緒に街に行くこと。もう一つはこのままここで俺たちと別れること、だ」
「…保護を求めた場合、僕の処遇はどうなるんでしょうか?」
この二人には何の不安もないが、奴隷扱いなんてされようもんなら泣いても泣ききれん。
「街までたどり着ければ、俺たちが保証人になろう。そうすれば入街できる。きみが望むなら、働き口の紹介もいくつかできる」
有難い話だ。
「働き口言うと…例えばどんなのがありますか?」
仕事を選べるような状況でないことは当然理解している。
この質問は文化レベルを知るための質問だ。
「そうだな、食堂、宿屋、雑貨屋の下働き。解体の腕を見込んで肉屋も紹介できそうだな」
「娼館」
恐ろしい言葉がシアさんの口から聞こえた。
…聞き間違えか?聞き間違えであってくれ。
俺と同じ気持ちだったのか、ヴァリスも素っ頓狂な声で「え?」と聞き返してくれた。
「娼館」
聞き間違えではなかったかー。
確かにこの容姿なら…いや、待て、早まるな俺。
「こんな子、エリザベートが放っておかないわ。男でも女でも客が取れそうだもん」
「お前が常連になりそうだな」
うんざり顔のヴァリス。確かに…と真剣に考えているシアさん。
あれ?この人って、残念美人?
「お二人に保護を求めなかった場合は?」
俺はヴァリスと話を続けることを決意した。
「ずっとここにいるのでなければ、自力で町へ行くしかないな。森を抜ければ、歩いて2日以内の場所に町は二つある。もっとも森を抜けるのにも子どもでは1日から2日はかかるだろう。で、街の方角は…」
ここで考え込む美男子。
「あっちとそっちね」
今度はシアさんが指で方向を指し示してくれた。
「この身なりでは、街に入れるかどうかも怪しいですね」
「その通りだ。身元を保証できる物や人がいなければまず街には入れない。それこそきみの場合、良くて娼館一直線だ」
なるほどなるほど…って実質選択肢は一つしかないじゃん。
「お二人に保護を求めた場合、お二人にかかる負担はいかほどですか?」
「ん?いや、全くないわよ。強いて言えば入街税の銀貨1枚くらい?あとは森を抜けるまであなたの身を案じる僅かな手間くらいね」
まるで、そんなことを気にしていたの?と言わんばかりだった。
それを見て二人の厚意に甘んじることを決めた。
「よろしくお願いします」
俺は姿勢を正し、頭を下げた。
「よし。そうと決まれば明朝出発だ。明日の夕方前には森を抜けるだろう。そこで野営。翌朝に街へ向かい昼過ぎにハローディストリクトに着くだろう。ソーイチにはちょっと強行軍かもしれないが、頑張って付いてきてくれ」
とんとん拍子に話が進み、数日後には文明に触れることができそうだ。
そうなるとこのサバイバル生活も愛おしく感じるから不思議だ。
サバイバル、最後の夜が始まる。




