表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

第1章 第5話  赤い髪の二人

夜明けを無事に迎えた俺は、いつものように穴奥で横になり眠りにつく。

気が付いたときには、初めて聞く他人の声と足音は窪みのすぐ近くまで来ていた。


やっちまった。


俺は心の中でぼやいた。

収納庫から弓を取り出し矢を番え構える。

この窪みは、東から接近すると非常に見つけにくいのだが、足音は東の方から聞こえてきた。


それほど長くない影が窪みの入り口付近で止まった。

窪みと野営跡に気が付いたのだろう。

相手の緊張感がこちらにも伝わってきた。


覗き込まれた瞬間に矢を放とうと思っていたのだが、その気持ちは消えた。


「ダラスか?」


と声を掛けられたからだ。俺はどう返答するか迷いに迷った。迷った末、


「違います」


普通。

あまりにも普通な返答。

なんだよ違いますって、間違い電話かよ。

俺は自分自身に心からうんざりした。


「出て来てもらえるか?」


洞窟の外から声を掛けられる。

若い男の声だった。

気のせいか少し柔らかい口調に変化した。


「危害を加えないことを約束してもらえれば・・・」


俺の言葉にどれほどの意味があるのか。


「そちらが攻撃してこなければ安全を保障しよう。ただし、剣だけは抜かせておいてもらうことを了承してほしい」


俺は弓を収納し、(置いて行かずに収納したのはいざというときのためだ)両手を上げながら窪みを出た。


外にいた二人を描写する。


一人は男性。赤い短髪で片手剣と円盾を構えている。

ブレストプレートが鈍く光を反射している。

剣を握る右手の籠手と、脛当も印象的だ。黒に近い緑のショートマントが良く似合っている。

いや、とりあえず、そのいで立ちよりも真っ先に目についたのが、顔。


とにかく美形だ。


もう一人は女性、

赤い髪をサイドから後ろに編み込んでいる。

こちらは白い法衣、だろうか。

その上に胸の形に湾曲したブレストプレートを着用し、赤黒い戦槌と円盾で武装している。


そしてまた、美人だ。

とにかく美人だ。


俺は二人のうち、より近い男性の方に集中することにした。


男性は俺の姿を見た瞬間、僅かに目を細めたような気がした。


「きみ、ひとりだけか?」


俺は頷いた。


「ここで何をしている?」


至極もっともな質問だった。

が、今の俺は適切な答えを持ち合わせていなかった。

返答に困りながらも、何かしら言うべきだと思った。

「・・・とりあえず・・・生きるために生きています」


馬鹿にしていると思われかねない返答だが、俺の身なりから察して欲しいとの期待を込めた。

それは、伝わったようだった。


「いつから?」


「気が付いたのは、4、5日前です」


これも察してくれ。


「・・・気が付いた?」


よし。


「その点については、話せば長くなりそうなので・・・機会があったら、ということにできませんか?」


「・・・了承した。・・・俺たちは人を探すためにここに来た。ちょうどその4,5日前にこの付近で仲間から逸れた冒険者いたんだ。ダラスというのだが心当たりはないか?」


あぁ、やっぱりそういうことか。

俺は彼の質問に頷きで答え、彼らの後方を指さした。

指したのだが、二人ともそちらを見ようとしない。

あ、逃走や奇襲されるからか。・・・かっこいいな。


後方の女性は、男性が視線を外さないことを確認した上で振り返る。


「・・・弔われている様ね」


こちらに向き直った表情には哀愁がにじみ出ている。

知人をなくしたのだからしょうがない。

その言葉を聞いた男の方も振り返る。


墓標―と言ってもただの木の棒に例のタグと、装備していた革鎧を掛けただけのものだ―を確認した彼もまた、女性と同じ表情になった。


―この時の俺は、二人がなぜこの表情になったかを読み違えていた。


「・・・きみが?」


短い問だ。

はい、と答えそうになって思いとどまった。

きみが、殺したのかの意味だったら冤罪を被る。


「そこの断崖に座るように亡くなっていました。右の大腿・・・太腿がとても腫れていたのと、折れた弓が近くに落ちていたので・・・おそらく、上から落ちたのではないかと。もう消えてしまいましたが、地面に這ったような跡もありました。なので、僕が埋葬しました」


端的に述べることができたと思う。

付け加えるように言葉を続ける。


「それから・・・故人の物を拝借しています。ロープとかナイフとか」


俺は頭を下げた。


その様子を見たからか、男は納刀した。


「俺たちの受けた依頼は『冒険者ダラス・ゼムの捜索・救助・遺体の回収』だった。これだけ丁寧に弔ってもらって申し訳ない限りだが、俺たちは彼を掘り起こさなければならない。理解してもらえるか?」


本当に申し訳なさそうに彼は告げた。


「もちろんです。こんな誰もいないところで眠るより、帰る場所があるならそのほうが…。ただ、直接土葬してしまったので……腐敗が…」


「承知している。きみが善意で行ってくれたことには感謝しかない」


後ろで女性も頷いている。


男は早速で申し訳ないが、と言い、どこからか取り出したシャベルで墓の土を掘り起こし始めた。

女性もそれに倣う


「お手伝いできること、ありますか?」


突然、居場所がなくなってしまったような気になって思わず声を掛けた。


「大丈夫よ。それに、子どものやることではないわ」


美しい女性が優しい表情で言ってくれた。

俺はその作業をただただ見つめるだけだった。

暫くするとシャベルを置き、少しずつ手で土を取り除き始めた。

改めてみると、結構深く掘ったな。


「これは……驚くほど穢れがないわ…」


遺体に行き着いたとき、女性が驚愕の表情を露にした。

一度俺の方を見た後、改めてダラスさんの身体を調べる。


「あの子の言った通りね。ここがぽっきりいってるわ。あと、骨盤も損傷しているわね。その他に目立った外傷はなさそうだけど…」


彼女はもう一度俺を見る。…なんだろう。


「これほどの痛み、孤独という不安の中で死が近づいてくる恐怖。それなのに魂に穢れが微塵もない。おまけに腐敗もほとんど進んでいないなんて、あなた、とても優しくこの人に向き合ってくれたのね」


女性は泣き笑いのような顔をした。

この表情にどんな意味があるのか、この時は分からなかった。


二人は大きくて綺麗な白い布を広げ、ダラスさんを包んだ。

その後、今度はお世辞にも綺麗とは言えない袋を取り出すと、ダラスさんの遺体をその中にしまい込んだ。

明らかに袋の方が小さいにも関わらず、ダラスさんの遺体は完全に収納された。


…なんだっけ、何とかバック?


その後二つのシャベルもその袋の中に納まった。

ああ、ここから出したのね。


一仕事終えた二人は、汗を拭きながら傍観者だった俺の方へやってくる。


「改めてお礼を言うわ。死者に丁寧に向き合ってくれてありがとう」


小さく頭を下げると、今度は明るい表情で続ける。


「これならほぼ、蘇生が可能だわ」


・・・!!蘇生!?


「レイズデ…いや、リザレクション?蘇生手段があるんだ…」


「よく知ってるわね?魔法の知識が?」


思わず口をついた言葉をしっかり聞かれたらしい。

感心したように言われた。


「いえ、聞きかじり程度です」


名称が俺の知識と共通しているのか?とにかく俺は言葉を濁した。

それに特別不服があった様子もなく、今度は男が口を開いた。


「遅ればせながら自己紹介をしよう。俺はヴァリスという。見ての通りのファイターだ」


「私はシア。見ての通りクレリックよ。ちなみにそこのヴァリスとは姉弟なの」


「やっぱり!そうじゃないかと思ったんです。二人とも綺麗な赤髪と赤い瞳!やっぱり兄妹だったんですね」


女性は少し驚いた表情で


「あら、ありがとう。あなたの銀色の髪もとても素敵よ。月のようだわ」


やっぱり月、あるんだ、なんて思いつつも少し照れ臭くなった俺は咳ばらいを一つして…


「名前は、宗一…と言います。それ以外のことは…よくわかりません」


これが最も正直な自己紹介だと思う。

俺の言葉を聞いたヴァリスは隣のシアさんに一瞥をくれると、シアさんは頷き、俺の1.5m手前で膝をつく。


「こちらへ来てくれるかな?簡単な健康チェックをしたいの」


あ、この距離、俺が道端の猫に声を掛ける時の距離だ。

逃げるかどうか相手の反応を見る時の距離。

俺は思わず苦笑してしまったが、すぐに彼女に向って歩きはじめる。


頭、耳、首、肩、上から順にぺたぺたと触診?している。

その手が太腿に至ったとき…


「あ」俺。


「え?」シアさん。


俺と2人、短い声が出た。

彼女の手が、俺の真ん中の脚に触れたのだ。次の瞬間、彼女はためらいなく俺の袋服の裾を上げ、直接目視で触れたものの正体を確認した。


「おい!」


その様子を見たヴァリスが目をそらしつつ非難の声をあげる。

…なぜそっぽを向く?


「……ついているわ」


「何が?…って、え!?」


彼女の言葉の意味を察したヴァリスもこちらを向く。そして確認する。


「男なのか?」


今日一、表情に変化が現れた。


「‥‥見ての通り男ですが…女に見えたんですか?二人とも?…すみません。僕自分の容姿を知らないので」


俺がそう言うと、ヴァリスはピカピカに磨いた金属の板を渡してきた。


「記憶、ないのか?」


「それについても話す機会があれば…」


俺は金属板を見た。

銀髪の美少女、いや超美少女が映っていた。

これがわたし?状態だ。


「これでは女の子に間違われてもしょうがないですね」


俺は初めて見る自分の姿にどう対応したらいいかわからず、つまらないことしか言えなかった。

いや、もう一つ言えた。


「あの・・・いつまで見ているんですか」


いまだに、裾をめくり凝視を続ける美女がそこにいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ