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魔王を倒した勇者(幼馴染み)は結婚の約束を果たさない〜クズに成り下がった勇者を魔王と共に討ちます〜  作者: あいみ


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魔王レヴェル

 祠の中。正確には祠を通じて行ける向こう側は、どんよりとした重たい空気が流れている。


 目の前にそびえ立つは、魔王が住む城。


 貴族の屋敷よりも大きく広い。

 長年、放置されたかのようにあちこちが傷んでいる。


 長きに渡り勇者との決戦の地となる魔王城は崩壊寸前。

 それでも崩れないのは魔王の力が働いているのだ。


 どれだけ封印されようとも、存在そのものが消滅しない限り魔王に関する物は消えたりしない。


 雑草も伸び切っていた。当然か。手入れをする人がいないのだから。


 魔王に仕える従者はいない。

 ずっとずっと昔には人間と異なる種族、魔族が大勢いた。

 初代勇者が生きていた時代。


 今でこそ魔族は一人もいなくなったが、当時はかなり苦労したらしい。

 人を襲うため常に怯えて過ごさなくてはならなかった。


 魔族は闇の中、陽の当たらない場所でしか活動出来ない。火も嫌うため、夜になれば世界中が火を灯し身を守る。


 所詮は一時しのぎ。ずっと守られるわけでない。


 魔族に捕まれば最後、生きたまま食べられる。体を弄ばれる。


 尊厳など簡単に奪われる。今の私のように。


 人々の恐怖や不安を知ったとある青年が立ち上がった。

 寂れた村の平民。のちに勇者と称えられる彼は仲間と共に魔王討伐に命を懸けた。


 何の力も持たない平民の集まり。人々は無駄死にだと嘲笑っていた。


 世界を救う。人々を守る。


 そんな彼らは戦いの中で人ならざる力を手に入れた。


 どんな闇をも切り裂く剣。

 消えかかった命でさえ回復する治癒。

 詠唱することにより自然の力を自在に操る魔法。

 屈強な相手さえも片手で倒してしまう腕力。

 そして……。



 門の奥に進めば不快な空気が肌にまとわりつく。


 勇者を迎え入れるためか、屋敷へと続く扉の鍵は掛けられていない。


 少し手が触れればギィィと耳障りな音を立てて、まるで歓迎するかのように一人手に開いた。


 一歩、足を踏み入れれば蝋燭に火が灯り暗闇を照らす。


 この明かりを辿れば魔王の元に。


 誘われるままに足を進め、辿り着いたのは玉座の間。


 ──魔王も王、だから。


 ここが一番、禍々しいわね。


 壁に掛けられていた肖像画であろう絵は激しい戦闘の末にボロボロ。

 どんな人物が描かれていたのかわからない。


「ふぅ…」


 黒い空気を吸うだけで体内に異物が入り込んだかのような不快さ。


「バカなエントラン」


 古びた洋館には似つかわしくない宝箱。傷どころか汚れすらない。


 蓋を開ければ封印されていた魔王の魂が飛び出し肉体が作られる。


 漆黒の髪。深紅の瞳。尖った耳。空気を一変させる威圧感。


 ギロリと見下す目は凍てつく闇そのもの。


 魔王レヴェルが、再びこの世に復活した。

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