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俺は勇者だ!!【エントラン】

 違う。こんなのおかしい。


「どうした?勇者エントラン。もう終わりか?」


 俺を見下す魔王レヴェル。


 闇よりも黒い漆黒の髪が風に揺れる。血よりも真っ赤な深紅の瞳は初めて対峙したときよりももっと赤いく感じた。


「ぐあァァ!!」


 立ち上がろうとした足に閃光の刃が突き刺さる。


 魔王は退屈そうに大きな欠伸をしては、体を解すように伸ばす。

 どんよりとした空を見上げてはため息をつく。


 閃光の刃はすぐにでも消え去ったが、深い傷を負い、そこから血が流れる。止まることもなく。


 傷口を手で抑えたところで意味はない。


 唯一のヒーラーでもあるバレンは気を失っている。

 俺と共に死線をくぐり抜けた仲間のキーナとラスエもだ。


 ありえない。俺は勇者だ!世界を!!魔王から救った!!


 そもそもなぜ、封印したはずの魔王がここにいる!?


「ユーフェ!!お前が魔王の手先だったとはな!!」


 魔王の後ろで微笑むユーフェは王族が着るような派手で美しいドレスを身に纏う。

 手入れのされた艶やかなオレンジ色の髪。最後に見たときは背中まであったのに、今ではバッサリ切り短くなっていた。


 ユーフェはもっとみすぼらしく、まさに平民の女だったはずなのに。


 体つきが変わったわけではないが、美しく気品溢れるオーラに目が離せない。


「貴様如きがユーフェを名を軽々しく口にするな」


 手をかざしただけで俺の体は宙に浮く。


 首を絞められる感覚。息が出来ない。


 勇者の剣を手にしていれば魔王の攻撃は無効化されるはずなのに。


 斬撃を飛ばすべくかろうじて振り上げた腕は、気付けばあらぬ方向へと曲がっていた。

 痛みより先に感じた違和感。


 意識すると激痛が走る。

 無理やり曲げられた骨は肉を抜き抜けた。


「レヴェル。可哀想だからやめてあげて」

「フッ。優しいな。“私の”ユーフェは」


 体は地面に落ち背中を強打した。


 禍々しい瞳がユーフェを映すと熱がこもる。まるで恋でもしているかのような。


 多くの人間を殺し、血で汚れた手がユーフェの頬に触れた。

 親指が唇をなぞり、顔を近づけそのまま二人は……。




 どうしてこうなったんだ?




 俺は勇者だぞ。

 千年に一人選ばれる、世界を救うべく存在。


 全ては順調。上手くいっていたはず。


 魔王を封印(たお)し、英雄の称号を手にした。


 国で一番の美女、王女を正妻に迎えて俺と結婚したい数多の女を妻にする。

 世界中の国からお礼と称して金品が俺の元に届く。

 残りの人生、女に囲まれて贅沢を尽くすはずたった。


「さようなら、エントラン。この世界にはもう勇者は必要ないの」


 そう言って背を向けたユーフェ。


 俺の幼馴染みで、かつて……結婚の約束を誓った相手。


 何かがおかしくなったのは、そう……。俺が魔王を倒し、生まれ育った村に帰ってからだ。

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