学校で噂された【白夜】のリーダー
「なぁなぁ、今日のニュース見た?【白夜】のニュース」
「見た見た。初めて地上波に出たよね!!凄いよねぇ!」
「ナツかっこよかったよね!!」
「ホントめっちゃイケメン!!1度でいいから生ナツ様を見てみたい!!」
「探索者だったら見れるかもしれないけど、レベル5とか6とか行けないよなぁ」
今日も教室内では【白夜】の話題で溢れていた。
【白夜】と同じ高校生ということで、親近感が湧くのかもしれない。
机に突っ伏しながら、僕はクラスメイト達の会話を盗み聞きする。
「シオン!!おはよう」
「ハルトくんおはよう。今日も元気だね」
「そういうシオンは朝から暗いな!もっと熱くなれよ!」
「どこの選手の真似かな?普通朝は眠くならない?」
元気に話しかけてきたのは、高校に入学して初めてできた友人のハルトくんだ。
ハルトくんは誰とでも仲良くすることが出来る、陰キャの僕からすると憧れの人物だ。
入学初日から同じクラスだったことで、僕にも気軽に話しかけてくれるため、話すようになり、仲良くなることが出来た。
「シオンも【白夜】のニュースを見たか?」
「うん。凄いよねぇ」
「ああそうだな。俺は探索者じゃないけど、やっぱり同じ高校生なのに、活躍する4人は凄いよな!!」
「本当だよね」
ハルトくんの意見に同意する。
幼なじみの僕でさえ、テレビで見たナツ達の姿が遠く感じた。
「ただ俺は特にナツの言っていたことが気になったぞ!」
「やっぱりハルトも気になるか!!」
ハルトは普段の話し声でも声が大きいため、周りの耳に入りやすい。
特に【白夜】の話題だったため、周りのクラスメイトもそれぞれの話を中断し、ハルトに話しかけている。
「【白夜】のリーダー!!今までナツがリーダーだと思っていたのに、リーダーが他にいることに驚いた!」
「そうよね!配信でも今までずっと4人しか映ってないから、4人パーティーだって思ってた!!」
「ボロって口が滑ったみたいだったから、照れてたナツくん可愛かったよね!!」
「誰だろう?めっちゃ気になるよね!」
「そういえば、リポーターさんに追求されて、リーダーは俺たちと同じ高校生ってことも言ってたな」
えっ?そんなこと言ってたの?
アホなの?
最後までニュースを見てなかったから、分からなかったんだ……。
「なんなら、身バレ防止のためにSNSを一切やってないらしいから、意識がもう違うよね!流石最強パーティのリーダーって感じ」
「分かる!今までダンジョンに潜ったことが無いって話だし、行かなくても4人で強いからよ!だからリーダーはもっと強いのよきっと!」
「困った時に颯爽と現れるパターンだろ!めっちゃヒーローじゃん!」
おーっと、知らないところで【白夜】のリーダーの株価が爆上がりしてるんだけど……。
ていうか、僕一応TwitterもYouTubeもやってるんだけど??
対して4人は【白夜】という名前でYouTubeアカウントのみ作成してダンジョン配信を行っている。
配信も多様化しており、ダンジョンの攻略する様子を配信する、ダンジョン配信が人気コンテンツとなっている。
中でも【白夜】のダンジョン配信は、高校生にして世界トップクラスの実力があることに加え、各々が別々の個性を発揮しており、それも【白夜】が人気になるためのひとつとなった。
カメラは自動で撮影する高性能のドローンのため、誰かが撮影者となる、ということがないため、4人も自由に行動出来ている。
「そういや、リーダーの名前はシオンだったよなぁ」
僕を見ながらハルトくんは言う。
リーダーの名前も口にしたの???
なにやってんの!?!?
クラスメイトも釣られるように、僕を見た。
が、
「ま、お前は……違うな」
「確かに、シオンくんは、その……」
みんな微笑ましい目で僕を見ている。
そりゃそうだ。
体育の運動音痴ぶりを遺憾無く発揮しているから、みんなが噂してるシオンさんとは違う。
これでも僕は真面目にやってるのに……。
バレーボールはサーブとかでもボールが手に当たらない。
バドミントンでは、スマッシュを打とうとしてラケットを振っても、空振りして羽根が頭に当たったり……。
ドッチボールでは嬉々として的にされる。
あいつらなんなんだ!!
だから、こんなのがリーダーなんて誰も思わないだろう……。
うん、客観視すれば僕もそう思うし。
クラスメイト達の微笑ましい目が、今の僕には辛かった。
なんか今日1日、いつも以上にみんな優しかった気がする……。
実はリーダーなんだよ、なんて言えないし、言うつもりもない。
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放課後、部活なんて入ってない僕は、1人家に帰る。
とあるマンションの最上階の一室だ。
高校生になった時、みんなの強い希望で1人暮らしを始めた。
家賃もみんなが出してくれる。
最初は家事に慣れなかったけど、今は何とかなっている。
荷物を置いてリビングに入ると、机の上に白い箱が置いてあった。
また、みんなからか。
中を開けると、魚や肉や新鮮な野菜が入ってあった。なんなら、もし良かったらって頼んでいた調味料も入ってあった。
保冷ボックスって聞いてるけど、食材それぞれに匂いが移ってないのがこの箱が凄いと思うところだ。
聞いても教えてくれないから、僕ももう気にしなくなった。
『シオンへ。今日も頼んだ!!』
手紙付きだった。
この字はタケルだな。
「りょうかい!」
僕はエプロンを身に纏い、さっそく料理を始めた。
4人が僕に1人暮らしを希望させた理由の1つに、食材の調達をみんなが代わりにやってくれるってことがあった。
高校生の一人暮らしは何かと大変なことが多い。
高校生じゃなくてもそうだ。社会人の皆さんお疲れ様です。
料理や洗濯などの家事は当たり前だけど、自分でやらないといけない。
掃除も行う必要がある。
特に料理に関しては、食材の調達が難しい。
基本はスーパーだけど、食材によっては時期によって高くなったり、需要が多くて、早く無くなったりすることもある。
特に学校帰りなら、仕事帰りの方や、主婦で人も多いため、目当ての食材が買えることも難しくなる時がある。
特に主婦のおばちゃん達、あいつらなんなんだ。
殺気立った目で射抜かれると、僕みたいな小心者は動けなくなる。
そういったことも踏まえて両親が心配していたけど、そこはレオナとユイが説得してくれた。
4人の中の1人、レオナは魔法に長けている。
その実力は、探索者の中でも1番上だろう…と僕は思ってる。
ま、他の探索者の動画や配信を見たことがないからだけど。
僕がそう考える理由のひとつに、転移魔法を使えるという点だ。
白い箱の中の食材は、ユイの家族から「いっぱいあって困るから使って欲しい」とのことで、ご好意で頂くため、レオナが送って……いや、持ってきて置いてくれる。
まるで郵便みたいに、レオナの転移魔法を活用してる。
最初はユイの家族ということもあって、恐れ多いと思ってたけど、みんなが「ユイの家族の強く希望してるから」と言ってるため、有難く使わせていただいてる。
僕がスーパーに買いに行かなくても数日は持つ。
それぐらいいっぱい食材が入ってる。
週に1回のペースで置いていくが、そうじゃない場合にこれが送られてきたので、『ものすごくお腹がすいてるから、作っておいて』という、4人からのメッセージなんだろう。
僕一人でも食べきれないし、みんなも喜んでいっぱい食べてくれるから、僕も作りがいがある。
さあ、始めよう!
僕は料理を始めた。