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パルル

[ 海の民 ]の一族についての、ちょっと詳しいお話。


『…だっ…誰ーーーーーーー?!』


 ベットで目覚めたら。

目元を大きな手で覆われ

誰かに背後から抱きしめられている事に気付いた。


 ガバッと飛び起きて振り返ると……

長い長い水色の髪の男が寝ていた。


 ドッドッドッ……心臓が早い!

『状況把握!状況把握ーー!!落ち着け私!!!』

かろうじて叫ばなかったが…パニックだ!

かつて、こんなにパニックになった事は無い!!


「………ん…」

男がピクリと動いた。


『起きたーーー?!』


慌ててベットから飛び降りて、壁に張り付く。


『誰だ?誰だ?誰だ?誰だ?…なんで真っ裸で隣に寝てんの?! うあぁぁぁ!なんで裸なのよー???』


男が目を擦りながらムクッと起き上がった。


「…ん〜〜〜〜〜〜……」

伸びをした男の体から千切れた布がパサリと落ちる。


『パルルが着てた服と同じ色……いや、まさか…状況把握!…水色の髪…青い瞳……特徴の一致……』

少し冷静になってきた…周りをキョロキョロ見てパルルを探す…見当たらない…


男はこっちに気付き、ニッコリ笑って

()()()()♪ おはよ〜♪」


 「!!!…パルル?!!!」

思わず叫んだ!


「うん♪そう……わぁ……声が低い……」

笑顔で右手を自分の喉に、左手をマジマジと見る男…


「大人になったんだよ〜♪」

頬を赤らめ蕩けた笑顔でそう言った。


「いや!パルルは子供でしょ?女の子でしょー?!」


「違うよ?」


「「………………………」」


「説明してーーーー!!!」

私は頭を掻きむしりながら叫んだ。




****************


 昔を懐かしむパルル…

10歳の頃、性別の決まったエメットが言った

「パルルは女になれよ♪ んで、俺と結婚しよう♡」

 割と早くに性別の決まったエメットは、親元から離れた子供達が暮らすクラムで、一番仲良しの友達だ。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


[ 海の民 ]の一族の特徴…

涙が真珠になる。水色の髪。

 そして、無性別…性別の無い状態で産まれ、思春期頃に性別が決まる。

 性別が決まると魔法が使えるようになる。

と、言うのが[ 海の民 ]の()()()()()と言う事だ。

 この身体の変化には、滅多に居ないが…例外と特例がある。

 例外……性別が決まらない、無性別のまま大人の体格に育つ。

 このタイプは、見た目が大人になっても、身を守る魔法が使えないので、大体が街から出ない。

 特例…性別が決まらず、成長も止まる。

子供の姿のまま寿命を迎えるタイプと、ある日突然性別が決まり、急成長するタイプがいる。


「つまり、パルルは()()って事?」

お姉さんが頭を抱えたまま、必死に理解しようとしてる。


「そう。死ぬまで子供のままかなぁ…って思ってたけど、いきなり性別が決まったね♪」


お姉さんが顔を真っ赤にして、ブツブツ言ってる。

「だ…だって…女の子だったじゃない…お風呂で見たわよ?! ()()()()じゃない!…アッ…ア、アレが!…」


「無性別の時はパッと見、女の子なんだよ〜」

『真っ赤な顔で口をパクパクしてる♪可愛い♡』


「…で、でも!なんで男なのよ?! あんなに可愛くして!女の子してたじゃない!! 大人になるなら女性でしょ?!」


「私も女の人になると思ってたぁ〜♪」

()()()かは、分かってるけどね♪』


「あっ!()は変だね!直さなきゃ!…僕?…俺?…」

ブツブツ言う()にお姉さんは拍子抜けしたみたい…



「………はぁ〜……まぁ…仕様がない!理解したわ。」

お姉さんは事態を飲み込んだ。


「しかし…いきなりそんなに大きくなるとはね……」


「うん。ビックリだね!まぁ…年相応になるのかな?僕、本当は二十二歳だし♪」

『それとも()()()()()()()成長するのかな?』

顎に手を当ててニコッと笑っておいた。


「は?…え?二十二?…年上?」


  『マジで?!』

「そーなの?お姉さんはいくつ?」

キョトンと首を傾げて聞く。


「…十八」

一体何が不満なのか?口を尖らせている。

  『可愛い〜〜〜♡』


「じゃぁ、()()()()はおかしいね♪ 何て呼ぼうか?イグニス?」

 そう言って、ベットを降りようとした僕に

「わっ!!!わー!わー!ダメダメダメ!!ベットから出ないで!降りないでー!!」

 両掌をこっちに向けて一生懸命制してる。


「どーして?」

分かってるケド聞く♪


「だって裸でしょ!!!…って!私も何て格好だ!」

そう。イグニスは下着にタンクトップで寝てた。


 大人しくベットに座ってクスクス笑いながら。

「いまさら〜?♪一緒にお風呂にも入ったじゃない♡」


「あの時は子供だったでしょ!! 女の子だって思ってたし!!!!」

ギャーギャー言いながら慌てて服を着てる。


『ヤバイ…本当に可愛い♡』

性別が決まるとこんなに意識が変わるんだ…




****************

 

 急成長したパルルにパニクッて、自分が下着姿だと言う事を忘れてた…

『死ぬほど恥ずかしい…』

慌てて服を着て、少し冷静を取り戻す…


 ベットの上には裸の超絶イケメンになったパルル。……服が必要だ。

『昨日買った服…返品か買い取ってもらうか…』

思案して

「とりあえず…服を買ってくるから、シーツ巻いてそこに立ってくれる?身長と体格を見たいから…」


 パルルは言われた通りに腰にシーツを巻き、立ち上がる。

「デカ!!ブランさんと同じくらいあるじゃない!」

ブランは私の頭一つ分高い、185センチ位だ。

立ち上がると水色の髪は腰より長かった…

 

急成長したんだから、鍛えてるわけじゃないのに…しっかりと筋肉が付いてて。どーゆー仕組みで、こんな彫像みたいな身体になるのか…さっぱり解らない!

『中身はパルル!中身はパルル!!…』

色気が凄い……目のやり場に困る……


「直ぐに服を買ってくるから!大人しく待っててね!!」

子供サイズの服を袋に突っ込んで、逃げるように部屋を出た。





****************


 イグニスが部屋を出て。

パルルはベットに乗り、枕を退かした…その下には沢山の真珠がある。

「……………………」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『魘されてる…』

パルルは、夜中…イグニスの魘される声で目を覚ました。


『これから一緒に旅をする間も、うなされる事があると思うけど…夢を見てるだけだから。心配しないで、大丈夫だから♪』


 『平気そうに言ってたけど……』


額に汗を滲ませて、くぐもった声を出してて

大丈夫な訳ないと思った…


 『私には何も出来ない…』

無力な自分が悔しくて、唇を噛む。

せめて汗だけでも拭たくて…洗面所からタオルを取ってきた。


お姉さんの額にタオルをそっと当てる…

『嫌な夢を消してあげたい…』

そう思った時、お姉さんの額にタオルを当ててた手がジンワリと光り出した。


「えっ?!……魔法?」

瞬間……お姉さんの夢が私の頭に流れ込んで来る。



 窓の無い部屋……硬そうなベット……鎖で繋がれた二人の子供……

『???…一人はお姉さん?…もぉ一人は?』


 ……鉄の杭と金槌……

『!?…うそ……まさか……』


 小さなお姉さんが押さえつけられて、背中に杭を打たれる…

ガキイィン!

『!!!!!!!やめてーーーー!!!!!!!』

私は叫んだ!

  でもこれは、お姉さんの夢だから…誰にも届かない…


「痛い!!やめて!痛い!痛いぃ!!助けて!嫌だー!!」

お姉さんの口に布が押し込まれた…

『こんなの酷い!お願い!やめて!!』

恐ろしい光景に涙が溢れる…


ガキイィーンッ!!

『!!キャーーーーーー!!!』



 グッタリした小さな男の子を抱きしめて、泣いているお姉さん……周りには沢山の赤い石……

 『お姉さん…お姉さん…お姉さん…』

助けてあげたいのに、これはお姉さんの過去の事……私は泣く事しか出来ない……


 「父さん…母さん…」

「とっくに殺されるわよ〜あんた達を攫った時にね。ざんね〜ん♪」

  女がケラケラ笑ってる…


『酷いっ!!!酷い!酷い!酷い!!!!あぁ…どーして…こんな……』


「セリージャ!」

「……お…ねえちゃん…」


二人が抱き合って泣いてる

 『…弟…?…お姉さんには弟がいるんだ…』


 何度も…何度も……血を流させる為の恐ろしい行為が続く……

 お姉さんは強い…子供でも強かったんだ…相手が一人だったら勝てた筈だ……

 何人もで押さえつけて……こんな酷い…


 お姉さんの目から恐怖は消え、奴らへの怒りと憎しみに染まっていく……


……セリージャは……恐怖で怯えて……泣き叫ぶ。

『あぁ…ダメ……あの子は…セリージャは耐えられない……』


 

「本当にうるせえなぁ!血が宝石にならなかったら価値の無いゴミ虫なんだから、せめて静かにしろよ!!」

酷い言葉を吐き、セリージャの口に布を押し込む男。


『!!!!!!!ゴミ虫はあんた達じゃない!!』


「ウグゥ!!ウゥ!!」

口を塞がれて、唸りながら暴れるお姉さんが金槌で頭を殴られた。


『!!!!!イヤあぁーー!!!!』


 悲惨なセリージャの姿と沢山の赤い石……お姉さんの髪の中からも赤い石が落ちる。

ルビーだ……

 『『どーしよう…』』

セリージャの傷の治りが遅くなっている…

弱っていくセリージャを抱きしめるお姉さん…

『『誰か…誰か助けて…』』



「おい、ギルドの冒険者から探りがあったらしいぞ。」


『助けが来るの?…あぁ…早く!…早く二人を助けて…』

 私は泣きながら必死に祈った。



扉の向こうから話し声が聞こえる…

「移動するってよぉ」

「んじゃ、子供を縛らないとねぇ〜」

「ガーネットは弱ってるから、()()()()ってさ。」

「ルビーの方は力が強いから、何人か呼んでこい。」

『やめて!やめて!やめて!やめて!イヤ!!やめて!!!お願い!神様!!』

 これはお姉さんの悪夢……誰に何を祈っても届かない!!!


 勢いよく扉が開く!男が大勢入ってきた!!

お姉さんからセリージャが引き剥がされる!!


『!!!!やめてーーーーーーっっっ!!!!!』


 泣きながらお姉さんに手を伸ばすセリージャ…

 男に掴み掛かろうとしたお姉さんが、金槌で頭を殴られた……


 静かになった………赤黒い色の空間が広がる……


 コトン   コトン コトン


『…何の音……!!!!!!!!!!!!!』

音のする方に目を凝らすと

  [ 絶望 ]があった…


ヒュッ…っと…喉が鳴る…

…息ができない……


手足を縛られた子供のお姉さん…

赤い石の山……

コトンコトンと落ちる赤い石……


 その上には…逆さ吊りの頭の無い小さな体…


『こんなの……人間のする事じゃない………』

震えが止まらない…


お姉さんの体がピクリと動いた…


『!!ダメ!駄目!!目を開けないで!!!』

無駄だと分かっていても、叫ばずにいられない…

コワレテシマウ


目を開けて……見上げたお姉さんの顔が[ 絶望 ]に濡れる……


私は膝から崩れて泣いた…


   コトン  

コトン


お姉さんは…息を浅く吐きながら、ズリズリと腹這いで赤い石の山に近づく…


  お姉さんの手足を縛った奴が憎い……

  お姉さんを殴った奴が憎い……

  セリージャを殺した奴が憎い!!!


 お姉さんはガラガラとガーネットを掻き分ける…もぉ表情が無い……

 『セリージャを探してる……』


「……セリージャ……ここに居たんだね…」

悲しい笑顔でそう言った……

セリージャの頭を拾おうとするのに…縛られてて出来ない……


『許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!許せない!』


「!!!!う嗚呼ああああああ!!あぁ!!!あ!!!!!」

お姉さんが悲鳴の様な叫び声を上げて、ロープを捩じ切る。


  コワレテシマウ…コワレテシマウ…


 ふらりと立ち上がり

「セリージャ…ちょっと待ってて……」

 金槌を持って、部屋を出ていった。


私は走って追いかける…


 お姉さんが奴らを殺し始めた…

『あぁ……駄目…お姉さん…ダメ…()()()()()()()!』

 

怒りと絶望で覚醒したんだ…

お姉さんは簡単に奴らを潰していく


『こんな事させたくない!!!私が奴らを片付けるから!()()()は全部私が潰すからー!』

 ()()私なら出来る。()()()って判る!

でも、これは夢…過去の事…過ぎた事…

叫んでも意味はない…解ってるんだ…


どーして私はここに居ない!!!!

 

 お姉さんは感情の無い顔でゴミ虫を殺していく…もぉ金槌も要らない…


「来ないで!!イヤあぁ!化け物ー!」


 『お前らがお姉さんを化け物にした……』


お姉さんはポツリと言う

「……潰さなければ……」


『お姉さんが…壊れる……』



 動くものが無くなって…

赤い石の山の所へ戻ったお姉さん…

「…セリージャ…待たせてごめんね…セリージャ………セリージャ…お家に帰ろう…父さんと母さんが待ってる……セリージャ…」


 これは夢…過去の夢……

『…お姉さんは一度壊れちゃったんだね……』


泣きながら小さな頭を抱きしめ…蹲る小さなお姉さん……


大人になって…治った心はヒビだらけで、隙間から漏れた悪夢が追いかけて来る…


 自分の手をジッと見る

記憶を閉じ込める結界魔法があると聞いたことがある…


「セリージャ………辛い…忘れたくない…でも…思い出すのは辛い……忘れたくない…忘れちゃいけない……でも悲しい…君が居ないのが悲しい……思い出したくない……君が居ないのだと思い出したくない……」



『………うん。分かった。…』


手を伸ばして、お姉さんの両目を覆う

『小さくしよう。勝手に出て来ないように包んでおこう。決して忘れないように大切に仕舞っておこう。』


「………誰?」


『忘れないでいいよ。思い出さなくていいよ。見えるように置いておこう。見えないように仕舞っておこう。』


「……見たくないの……忘れたくないの……」


『うん。私がちゃんと仕舞っておくよ。だから泣かないで……私がずっと側に居るから…もぉ泣かないで。』


お姉さんの涙を止める為ならなんでもする。

代わりに化け物にもなるよ。


『ずっと側に居る。』



 意識が戻ると、目の前のお姉さんは穏やかな寝息を立てていた。

目元に涙が………液体のままの涙……

その涙を拭おうと手を伸ばしたら、知ってる自分の手じゃなかった…

視界に入る長い水色の髪……

『あぁ……大人になった……』

身体には、破れた服がまとわりついている。


涙を拭って…頬をなでる。

   『ずっと側に居るよ……』




ふと、目線を落とすと…

『…男?…………あ〜〜…男かぁ……なるほどねぇ〜』

納得した。と思いながら

お姉さんと私の間にある大量の真珠に気付く…


『………取り敢えず…』

全部、枕の下に押し込んだ!


「……んんっ……」

お姉さんが身じろぎして、私に背を向ける様に寝返りをうった…


覗き込むと、また眉間に皺が寄っている…


『ふむ…初めてだから上手に封印出来ないな…』


 お姉さんの横に寝転がり、背後から抱きしめるように抱え込む。

片手でお姉さんの目元を覆い、少し魔力を流す。

再び穏やかに寝入るお姉さん。

『……これなら寝てても出来る…』


自分の顔より目下にある、赤い髪に顔を埋めて

スゥッとお姉さんの香りを吸い込む…

『小さい……』


これが庇護欲か……


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


枕カバーを外して、真珠を全部入れる。

『どーしようかなぁ、コレ…』


 入れ口を縛ってテーブルの上に置き、体にシーツを巻いたまま洗面所に行く。


鏡に映る自分をマジマジと見る……初めて大きくなった自分を見た。


『長い髪……イグニスは長い髪好きかなぁ?短髪の方が好きかなぁ?』


体をペタペタ触ってみる……

『筋肉だ…硬い……エメットみたいだ…………ハァ…イグニスは柔らかかったなぁ♡』

考える事の全てがイグニスに繋がる♡


下半身に熱が集まるのを感じた。

『おっと!…()()が………いきなり成長したから、感情と身体のコントロールが難しいなぁ。』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 エメットが十六歳の頃、見た目十歳のパルルは、エメットの二つ年上の姉、アリシャの所に連れて行かれた…


「姉ちゃん!。パルルに閨教育してくれ!!」


ブーーーーーーッッッ

 アリシャは紅茶を吹いた…

「なっ…何言ってんのよ?!!バカエメット!!!こんな子供に!変態か!!」


「変態じゃない!!!パルルは子供じゃない!中身は十六だ!!!」


「……いや…そーだけど…」


「パルルは可愛いし!見た目が十歳だから、街の奴ら男も女も、皆んな子供扱いしちゃうだろ?本当は十六歳だって分かっててもさ!!」


「……ダメなの?」


「ダメじゃない!!!」


「……なんなのよ……」


 パルルは苦笑いして、姉弟のやり取りを見ているしかない…

 アリシャが手招きしたから、トコトコ近づくと、ソファの隣に座らされて。お菓子を勧められる。


「ダメじゃないよ?! パルルは可愛いからさぁ!小さいから子供扱いは仕方ないケド! 十六歳としての知識が無いのはダメだろ!!!! もし今、性別が決まったら、いきなり十六歳の女になるんだろ?! 十歳の知識で!!!」


「!……確かに!!…それは良くない…」


「だろ?!姉ちゃんが王都に行っちゃう前に

ちゃんと教えてやってくれよ!!!」


「……そうね!…私が間違ってたわ!任せといて!!」


 一応、クラムにも学校があって、パルルは勉強は出来る。が、見た目十歳のせいで周りの皆んなが、性教育をスルーしてた。

その事にエメットが気付いて、この騒ぎだ……


 最初は教本を開いて、男女の身体の仕組みとか…子供の出来る仕組みとか…子供が腹の中でどう育つのか…とか、医者にでもなった気分の勉強だったのだが。

 ()となると、経験のないアリシャも

持ってる知識じゃ心許ないようで、

経験豊富そうなお姉様方に助けを求めた。……

 求めてしまった……


「パルルは見た目十歳だけど、中身は十六歳! 十六歳だと思って!大人の知識を授けて下さい!!!」

と、言ってしまった……

 集まって頂いたお姉様方の、盛り上がり方が凄かった!

 閨教育という名のお茶会……ベットの中の事なんて本来は恥じらって、濁しながら話すべき事……それが…

 これは人助け!

だから赤裸々に語って良い♪


「先ずは〜………次に〜………」

手順的な話は最初の5分で終わった。

 直ぐに

あんな事をした♪。こんな事をした♪。

あれは良かった♪。これが良かった♪。

あれがお勧めよ♪。これが凄いのよ♪。


もぉ、パルルに教える為と言うより、性知識の情報交換会だ。

十代は、子供の姿のパルルとアリシャだけ…

 アリシャは過剰な床情報に頭がのぼせた。

 パルルは知識として聞いているので、全然平気だった。

特に覚えてるのは、男性に対する愚痴……

 どんな事をすると嫌がられるのか…

 どんな事をしないと不満に思うのか…

『なるほど…こーゆー奴は()()()()に分類される。と…』

その頃のパルルには知識でしかなかった。


 アリシャが王都に行ってからも

このお茶会(閨教育)は定期的に行われた。

噂が噂を呼び、未経験や経験の少ない若い女性の不安解消の場となり。大勢の若い子を救う事になった。


 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『ありがとう!お姉様方!!!』

僕は鏡の前でグッと拳をにぎった!



 取り敢えず、()()ってのをやってみようか…



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 女性側の知識は理解したので。

男性側の知識が欲しくなった。

エメットの部屋を訪ねて。

「お姉様方に色々教えて貰って、女の人の事はよく分かったよ♪ 今度は男の人はどーなのか教えて♪ 」

と、エメットに頼んだ。


「!……ハァ?!…いや!要らないだろ!パルルは女になるんだし!……結婚した後は俺に…まっ…任せておけば…いいんだし……」

しどろもどろだ……


「でも、男になるかもしれないし?」


「はぁっ?! ならないよ!パルルは女になるって!!!」


「…………分かった…他の男の人に聞く!」

スッと立ち上がったら、ガシッと手を掴まれた。


「………………………俺が教える!」

顔が真っ赤だ。


ビシッと一本指を立てて

「赤裸々にね!!」


「!!!!!!!!うぐぅぅ……」


まぁ、エメットは未経験だから知識量は期待してないけどね♪

色んな

「○○するらしい」って事は聞けた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


 シャワーを浴びて、身体を拭いて。

またシーツを身体に巻く。


()()()のやり方もちゃんと出来た♪ 恥ずかしがりながらも、ちゃんと教えてくれたエメットに感謝だな♪ (さすがに()()()はくれなかったけど)』


コンコンコンッ…

  ガチャ…


 部屋の扉の開く音が聞こえた…

『イグニスが帰ってきたかな?』


ヒョコッと洗面所から顔を出す。


「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

息を切らして汗だくのイグニスがいた…


「…どーしたの………そんなに汗かいて…」


「ハァッ…ハァ…ふっ…服屋…ハァッ…まだっ…開いてなかった!っハァッから!…ギルドの…宿屋までっ…ハァ…ハァ…ハァ〜〜…走って、行って来た……はい!これ。」


「えっ?! [ 接木の門 ]のところの?。あんな遠く?………早。」


「全力疾走したわよ!…私もシャワー浴びてくるから……パルルは着替えてね。」


「……分かった。」

  『優しい〜〜〜〜♡』


 僕に服の入った袋を押し付けて、イグニスが洗面所に向かう。

その背中を見つめて想う…

 『「で、でも!なんで男なのよ?!」』



君を好きになったから……

()()()()と思ったから……




****************



シャアアアアアアアアアアァァァァ………


『何あれ!何あれ!何あれー!! 何であんなに男前なのよ?! イケメンが過ぎるのよ!!!』


『ブランさんもイケメンだし!ザハブさんもイケオジだし!!レコルドだって、そこそこイケメンよ!! 今まで結構イケメンには出会って来たじゃない!!!』


 今まで…男性の容姿が気になる事なんて無かった……

 イグニスにとって人は

[ 良い人 ]・[ 悪くない人(人間) ]・[ 悪党 ]・[ ゴミ虫 ]

善悪での分類が全てで、見た目はどーでも良かった。

もちろん、器量不器量の違いは判る。判るケド、器量不器量が善悪の判断に影響する事はなかったし、ましてや()()を感じる事は無かった。

 相手の()姿()で感情が動くなんて事は無かった。


シャアアアアアアアアアアァァァァ………

  頭から冷たいシャワーを浴びながら、小声で

「あれはパルル!中身は十歳のパルル!! 自分が女の人になると思ってた十歳の子供!!」

頭の中でしっかりと()()()()()()()()()を植え付ける様に呟く!


自分が勘違いをしている事には気付かない。

パルルは出会った最初っから()()()()なのだ。



 シャワーを止めて、気付いた……

『……服、持ってくるの忘れた……』

せっかくシャワーを浴びたのに、また汗だくの服を着るバカはいない。

 『う〜〜〜〜〜〜〜っ』


「仕方ない!」

身体を拭いた後、バスタオルを身体に巻いて。

 扉を開けて、ギリギリの隙間から

部屋に居るパルルに声を掛ける。

「……パルルー。服、忘れちゃったの。カバン取ってー。」

努めて平静を装って言う!


 服を着て、ソファに座ってるパルルが見えた…


「………ん…。。。うん♪ 待ってて〜」


 立ち上がって、ベット脇に置いてあるカバンを取りに行くパルルを伺う……

『……あっ…やっぱり服、ちょっと小さかったな…アレしかサイズ無かったから仕方ないケド……』


 カバンを持って近付いてくるパルル。

「はい♪」

 「………ありがとう。」


カバンを受け取って扉を閉める。

『……シャツの胸元が……うぅ…筋肉見え過ぎ………うーーわーーっ……もぉ〜〜〜…………!!まずは服を買いに行かなくちゃ!』


「あれはパルル!あれはパルル!あれはパルル!」

小声で、()()()()呪文を唱える。




****************


 渡された服を着てみる。

『少しキツいな…お店が開いたら買いに行くだろうなぁ……本当は朝から門に向けて出発するはずだったのに……予定がズレちゃったけど大丈夫かな……』

 そんな事を考えながら、ソファに座る。

「……………あははっ…ソファが狭い〜♪」


 服やソファなど、ちょっとした事で自分が大きくなったんだと実感する……気分が良い♪


『別に…いつまでも子供だったのを、気にした事なかったんだけどなぁ…………あぁ…あの時…初めて思ったか…』

昨日お風呂に入った後、イグニスが僕の着る服を探しに部屋を出た時だ………


『「………大人になりたい」』

  確かにそう思った。

『……いったい何処?まさか最初っから?一目惚れ?! 』

頬が熱くなる……


  その時、洗面所の扉が、カチャ…と開いた。

「……パルルー。服、忘れちゃったの。カバン取ってー。」


心臓が跳ねた!


「………ん…。。。うん♪ 待ってて〜」

平静を装って答える。


 ソファから立ち上がり、ベット脇に置いてあるカバンを取りに行く。


『落ち着け落ち着け!()()幼いままのパルルでいなきゃ……きっとイグニスの中で、僕の中身は()()()()()だろう……いきなり()全開で行ったら引かれる…お姉様方も「こちらに気が無いのに、グイグイ来る男性はイヤよねぇ」って言ってたし!』


 カバンを持って洗面所の扉に近づく…

ギリギリの隙間から、チラリと見えるイグニス

「はい♪」

 カバンを受け取る為に扉が開かれる。

濡れた赤い髪……見上げる赤い瞳……薄い肩とバスタオルに隠された胸元……

 細い指がカバンを受け取る…


 「………ありがとう。」


 パタンと閉まった扉に額を押し当てる。

顔に熱が上がる……


『お姉様方……襲い掛からなかった僕って偉いよね!』



****************


 洗面所から出ると、パルルは再びソファに座っていた。


「………やっぱり服、キツそうだね…靴も、踵踏まなきゃだし……今は我慢してね、お店が開いたら買いに行こう。」


「うん♪ …あっ!そうだ。…これ。何処かでお金に出来ないかな…?」

パルルがジャラッと音がする袋を渡して来た。


「…真珠?……何?パルル…こんなに泣いたの?……」


「ああ〜…うん♪ 嬉しくて♪ 大人になれたから♪感激しちゃって♪ 嬉し涙?寿命で死ぬまで子供のままかなって思ってたから〜♪これで魔法も使えて身を守れるしね!!まだ上手く使えないけど♪」

 捲し立てる様に言うパルル。


「……そっか…」

『………そんなに……そーだよね…「自分だけ人と違う」って思ってたのかな……辛かったよね…魔法も使えなくて…きっと「身を守る術が無い」って不安だったんだ……全然分からなかった……ただ涙が真珠になるだけで、普通の子供だと思ってたから……「大人になれてれば」って何度も思った筈……」

 ズッシリと重い沢山の真珠に、パルルの過去の辛さと未来への喜びを感じた。

 

「……イグニス?」

黙り込んだ私の顔を覗き込むパルル


『ハッ!考え込んでしまった!』

「ああ!…ごめん!考え事…換金出来る所…ね♪」


「当てがあるから、買い物に行くついでに寄ろう。 んで、そのお金はパルルの所持金にしたら良いよ♪」


「いいの?」と小首を傾げるパルル。


「パルルの涙なんだもん。当然よ!」


「まぁ…でも、王都に送り届けるまでの費用は()()()()()ってのは変わらないから。」

 と言って、通信用の魔道具をカバンから取り出す。


「一旦。この事を報告しないとね…パルルが大人になったって事は、王都で待ってる[ 海の民 ]の方々にも知らせなきゃいけないだろうし…」


魔道具をテーブルに置いて起動させた。


「皆んなびっくりするだろうなぁ〜」

パルルは笑いながら言った。


《《ーーー》》

 

 「あっ!繋がった♪ もしもし!おはようございます。ザハブさん。聞こえますか?報告です。」


《《ーおぉ…おはよう。こんな朝早くから報告なんて、どーした?何かあったか?》》

 

 「あぁ…本当だ!まだ七時でしたね…早くにすいません。そーなんです。ちょっと…想定してなかった事がおきまして……ザハブさんは、[ 海の民 ]の()()って知ってますか?」


《《ー()()? ん〜…ん!ああ!性別と成長過程の話か!知ってるが…それがどーかしたか?》》


 「あぁ!知ってるなら話しが早い♪ 実はパルルは、その()()だったんです。そして今朝、急成長しました。」


《《ーん?…えっ?…そーなのか!パルルが特例…パルルは成長が止まってたのか……では、今は大人になってるんだな?》》


 「はい。二十二歳・男性になってます。」


《《ーはあ!!!? ………………冗談か?》》


 「本当です。」「本当ですよー♪」


《《んっ?!今のがパルルか?!確かに男の声だな》》


 「はい。本人は女性になると思ってたそうです。」


《《ー………そうか……事態は了解した。報告ご苦労さん。……それで………大丈夫か?》》


 「はい。問題ありません。大人でも子供でも、送り届ける事に変わりありません。」


《《ー…いや……あ〜〜…あぁ…まぁ、いや…分かった……では、王都の方にはパルルの現在の状態を知らせておく。》》


 「はい。よろしくお願いします。」


《《ーパルル。》》


 「!。はい!!」


《《ー…抑えろよ。》》


 「!…勿論♪……丁寧に落とします。」

「……?」


《《ー…ハァ……まぁ…頑張れ。では、また何かあれば連絡をくれ。…じゃあな。》》

プツッ


「?……なあに?…最後の…ちょっとよく分からなかった…」

小首を傾げてパルルに尋ねた。


「何だろうねぇ〜」

パルルはニコニコ笑っている。




****************



 本部長室の棚に置いてある魔道具が鳴っている。通信を受け付けていると言う事だ…

 こんな朝早くからから誰だ?と思いながら、表示を見ると…

「イグニス?昨日出発したばかりじゃないか…」

 そーして告げられた内容は、パルルが男に成長した。と言う事だった……


 『パルルが[ 海の民 ]の()()だったとは…』


 [ 海の民 ]の一族の成長過程は特殊だ…

 涙が真珠に変わる特徴の出た者は、性別の無い状態で産まれる。

 実際は()()のではなく、雌雄同体である。男でもあり、女でもある。性別が魔力と一緒に()()()()()状態なのだ…

 そして、思春期の頃に()()()()()性別と一緒に魔力が現れる。

 

何故、思春期の頃なのか…おそらく感情の昂りなのだろう…

 結界・防御魔法を得意とする一族なので、他者を守りたい。と言う気持ちの強い者が多い…その庇護対象に合わせて()()()()()()()()と言うのが、一番有力な説だ。

 好きになった相手と反対の性別になる、と言う単純なことでは無い…

 母性や父性も加味されてくるので明確なキッカケの判別は難しい。


そうした、性別や成長に特殊な特徴がある為。

[ 海の民 ]の一族の特徴が出た赤子は、

一族の街[ オリゾンテ ]に集められる。


 そして一族の中には稀に、()()()()と呼ばれる特徴の者が産まれる。


 本当に性別の無い状態の者。それが()()と呼ばれる。魔力の無い者だ。

 性別が現れることなく大人の体格になる。実は一族の中で一番、庇護しなければならない存在。

 ()()の流す()()()()には魔力が含まれる、それもかなりの強さの魔力がだ。

 ()()()()()()()()なんて、自然界では魔獣の海に生息する貝から極稀にしか採取できない代物だ。それを泣く事で生み出せるという貴重な存在。

 当然、あらゆる所から狙われる。なので一族の街と国が、徹底して庇護している。


 そして()()……性別が現れず、成長が止まる者。このタイプに性別が現れると膨大な魔力が発現する。


しかし何故性別が現れないのか?

 [ 海の民 ]の一族の根幹は()()だ。

結界・防御魔法を得意とする事が関係するのだろう…

 おそらく、強い魔力が感情にも壁を作ってしまっていると…

特例の者は、成長する前は()()()()()の傾向が。と記録にはある。

 そーなると、魔法の壁を壊す程の感情の揺さぶりが無ければ成長出来ない。


 

『パルルはイグニスに感情を揺さぶられたのか…』

 

 しかし…そうして感情の壁を壊すほどの強い()()で体が急成長する()()は、想いが()()…らしい。

 記録には、愛情過多・執着過多・過保護の傾向あり。と書いてあった…


 ここまで詳しく知っているのは、ザハブがギルド長であり。

ブランしか知らない事だが、ザハブは実は()()だからである。

 かつて王宮に住み、機密の資料・情報、知られる事のない埋もれた歴史等を知れる、地位・場所にいたからだった。




『…………しかし、イグニスには良かったかもな…』


 ザハブはブランと一緒に、ずっとイグニスを見て来た…

『イグニスは感情表現が豊かだ…だが、心には壁がある。それは勿論()()()()だと思う…あんな酷い経験をしたのだから……むしろ回復した事の方が奇跡………治りきらない心を壁で囲って守っているのだろう。』


「イグニス(の心)を()()には()()位でちょうど良いのかもな…」




****************


「さて! 先ずは朝ご飯を食べよう。」

そう言ってイグニスは、ソファから立ち上がった。


 この宿の一階が食堂だ。


「うん♪ お腹ペコペコ……そうだ!イグニス。僕の髪、縛ってくれない?長すぎて…」

 と、お願いした。


「そーだね!待ってて…」

イグニスはカバンからリボンを二本取り出して、一本で僕の髪を縛る。


「さすがに長すぎるね…食事が済んだら、切りに行こ。それから服を買って…。換金所に行って…。」

そう話しながら、自分の髪を緩く三つ編みし始めた。


「僕、短髪と長髪どっちが似合うかな? イグニスはどっちが好き?」


「ん?…ん〜?…私は髪型に好みは無いけど……パルルの水色の髪は綺麗で好きだから♪ ちょっと長い位が良いかなぁ〜」

 『うーあーー♡!!抱きしめたい!!!』

 イグニスに、少し頬を赤らめて可愛い事を言われ。衝動を必死に抑える!


「じゃあ。背中の半分位の長さにしようかな♪」

そうして、一階に下りて食事をした。

 イグニスに出会ってから、今までより食事が美味しく感じる……


 「こちら、サービスです〜♡」

女性店員が野菜のフリットを持って来た。

「あぁ♪ ありがとうございます。」

  「こちらにはお仕事でいらっしゃったんですか〜?」

女性店員は帰らないで、頬を染めてニコニコと話しかけて来る……

 『…ふむ…コレが色目ってやつか?…』

ニッコリ笑顔で

「いいえ♪ 新婚旅行ですよ♪」

「!!!?ぐっ!」 「えっ?!」

イグニスがむせた。店員は固まった。

 

 「ゴホッゴホッゴホッゴホッ…」

「あぁ!イグニス、大丈夫かい?」

 向かい合って座っていた席から立ち上がり、イグニスの隣の席に移動して、背中を摩る。

「すいません…お水をお願いします。」

「あっ!は…はい!」

女性店員は慌てて水を取りに行った。


「ゴホッゴホッ…パルル!何を!ゴホッ新婚旅行って!」

  『あ〜背中が華奢で可愛い♡』

「ん〜?手っ取り早く、諦めてもらう為だよ♪♪ 」

「……諦めて…?」

「そう♪ あっ。店員さん戻って来たよ。」


「お待たせしました…」

店員は困惑した顔で、水を持って来た。

『服装から冒険者感、出てるもんなぁ…夫婦には見えないか……』


「ありがとう。」

笑顔で受け取って、イグニスに渡す。

「ところで、この辺りにお勧めの服飾店はありますか?」

  「はい?」

「実は昨日、馬車移動の時、荷台からカバンが落ちて中身をぶち撒けてしまって……新婚の妻にこんな格好をさせてしまってるんです。」

 「?????????」

イグニスの表情が固まっている。


「あっ…そ…れは大変でしたね…でしたら……」

店員は頬を引き攣らせながら、笑顔で幾つかお店を教えてくれ、ガックリと肩を落として戻って行った。


目を丸く口を半開きにして、こっちを見ているイグニスの耳に、顔を近づけて小声で話す。

「子供の姿の時、よくお茶会に招かれてね。色々聞いたんだよ♪((必要以上に男性に話しかける給仕って、大体下心があるのよね))って♪」

イグニスがビックリして僕の顔を見た。

ヒソヒソ声で

「もしかして、僕ってカッコいい?」


コクコク頷くイグニスの顔が、段々と赤くなる。

「じゃあガードの為に、僕達は新婚って事で行こうね♡」

ニッコリ笑ってイグニスの手を握る♡


「…………はい?」




****************



 食事を終えて、そのまま外に出る。


「次は散髪だね♪ イグニス、手を繋ごう♡」

と、言いながらパルルが手を差し出した。


「!ええっ!?」

  『何?なんで?なんでそんな!とんでもない事を?』


「だって…僕達の今の服装じゃ手ぐらい繋がないと、恋人同士に見えないよぉ。どー見ても、休憩中の冒険者の仕事仲間。」

 困った様な顔で見て来るパルル…


「昨日も繋いだじゃない♪ 同じだよ♪」


「うぅ〜」

観念して…手を繋いで歩き出した。


昨日繋いだパルルの手は小さかった……

 今は凄く大きい…


昨日は見上げて来たパルルの青い瞳が……

 今、私を見下ろして微笑んでくる…


『なんで…』


パルルは…

見た目が成長しただけで、中身は昨日と同じパルルの筈だ……

()()()()()王都まで連れて行く。


なのに……なんでこんなに…

()()()()()()って感じるんだろう?


そんな事を考えてたら、散髪屋に着いた。


パルルは言った通り、髪を背中の半分位の長さに切って、前髪も作った。

 『クソッ!めちゃめちゃカッコいい!パルルのカッコ良さに上限は無いのか?』


切った髪は良い値で売れた。


 服飾店も開く時間になり。勿論、手を繋いで行く。

「イグニスも可愛い服を買おうね♡」


  またもやパルルのとんでも発言!

「えっ?なんで!いいよぉー!」


「だって、さっきの店員の中で僕達は新婚♡妻に新しい服を買う夫って事になってるんだよ♪ その服のままのイグニスを見られたら…疑われて、また迫られちゃう。」

 

 また困った表情で言って来た!

『クッ!その顔は狡い!!!』


「〜〜〜で…でも…」

「イグニスなら可愛い格好してても僕を守れるでしょう?」


負けた……

「分かった…」

『これは……もしや 手玉に取られてるのでは?』




****************



『めちゃめちゃ楽しかった♡』

 僕は、馬車に揺られながら

さっきの買い物中のイグニスを、思い出していた。


『イグニスは冒険者の格好のイメージが強かったから…

まさかあんなに、()()()()()()()()が似合うなんて!

 つい、何着も試着させてしまった♡

叶うなら!店の服全部買いたい位!!何を着せても良く似合ってたな〜♡』


残念ながら旅の荷物を増やさないよう、お互い二着ずつにして…少し大きいカバンも買った。


 その後、換金所に行き。真珠をお金に換えた。

イグニスの交渉は凄かった!カッコよかった♡


そうして宿を引き払い。

今は、次の街[ フィーツ ]に行く為、馬車で[ 接木の門 ]に向かっている……

 門があるのは、[ドチャルヘ ]から馬車で一時間程かかる場所らしい。


 新婚らしく揃いの服を選んだので♪

今はお互い緑系の服を着ている。

 僕は、黒のスラックスに黒いシャツ、濃い紫のジャケットベストを羽織った。


 イグニスは、濃い紫のロングワンピースに青い生地に水色で蔦のようなライン刺繍の入ったショート丈ベストを羽織った。


『うん♪ どこから見ても新婚さん♡』


 髪型をシニヨンに纏めたイグニスは最高に可愛い♡


その可愛いイグニスの頭が、今、僕の肩に乗っている。うたた寝しちゃってる♡


 そして、眉間に皺を寄せ始めた……

『……………昼間のうたた寝程度でも()()のか……』


イグニスの目元にそっと魔力を流す…

『誰かに相談して、技術を身に付けないと…』





****************



 [ 接木の門 ]に着いた。

馬車から降りる時、パルルがエスコートしてくれた。

私の顔はきっと赤くなっていたんだろう……

「良いねぇ♪新婚さんかい?」

門を管理しているギルド職員に揶揄われた!

「はい♪ 」

パルルが即答するから、益々顔に熱が昇った……


 出発は半日遅れたが、結果は良い方に転んだ。

 パルルが魔法を使えるようになったからだ。

しかもかなりの量の魔力持ち。


 前段階では、[ フィーツ ]に着いたら、私の魔力の回復を待つ為に一泊する必要があったが…

パルルが大人になったお陰で、もぉ一つ門を潜ってその次の街[ ヴィラスピエート ]まで行ける。

幸い、[ フィーツ ]の街中に門があるので、時間的にも余裕だ。


「門の開錠、僕からやっても良い♪?」

[ 接木の門 ]の前でパルルが無邪気に言った。


「ん? いいわよ♪」

大人になって…なんだか…男らしくて。頼もしくて。ドギマギしちゃうんだけど…時折り見せる無邪気な感じが、子供のパルルのままで♪つい、クスクスと笑ってしまった。


ヴヴヴヴヴゥン……ガチャリっ


「「へっ?!」」


管理人とシンクロして間抜けな声が出てしまった…


「…………早い……」

『どんだけ膨大な魔力なの?』


初めてパルルに()()を感じた…












今の王様には弟が三人います。その二番目の弟がザハブさんです。

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