君の涙を止めたい〜誓い〜
イグニスとパルルの出会いの話し。
〜〜依頼〜〜
違法の商品を扱う商団を調査
場合によって討伐可
〜〜〜〜〜〜
ギルドからの依頼書を懐に
商団の馬車のひとつに潜り込んだイグニス。
長い赤髪を三つ編みにして片側に垂らし
赤い睫毛に縁取られた赤眼はやや吊り目
冒険者の出立ちとは不釣り合いな美女だ。
まだ十八歳と言う若さで、すでに討伐ギルドのランクA
十三歳からギルド入りしてメキメキと実力を上げている。
『ギルドが違法商団の調査なんて珍しぃ』
普段は魔獣討伐やダンジョン探索などを扱うギルドだが、稀に国からの依頼を仲介する事がある。今回のがそれだ
『場合によっては討伐可…か、依頼来る前から真っ黒確定なんだろうなぁ。すぐに保全チームに連絡する事になりそ』
討伐を実行した場合
違法取引対象の商品・希少生物の保護保全が必要で、その場合ギルドから支給された魔道具で連絡を入れれば
その魔道具を目印にギルドから移動魔法で人員を送ってくれる。
魔法陣が刻まれた厚みのあるコースターの様な円盤をジッと見る。
『一番性能の良いやつじゃん…こりゃ確実だ。』
イグニスは腰に下げた小さなポーチに魔道具を仕舞った。
商団は見晴らしの良い草原地帯で野営となった
日を跨ぐ頃…
商団の人間が寝静まり、起きているのは数人の見張り。
『大型の馬車が十…中型が五…か』
目立つ赤髪を黒いフードで隠し、一つ一つ馬車を調べていく
『一応正規の品も運んでるんだね…今のところ、違法の品は〜半分てとこかな、生きてる魔獣はいないけど、卵が数種…』
「うっ……うえぇん…」
『えっ?』
少し離れて停めてある馬車から、押し殺した様な泣き声が聞こえる。
『人の泣き声? 子供?…まさか…』
違法とは言え、正規の品も運ぶ様な商団が
奴隷を扱ってるとは思えない…この商団は奴隷商ではないのだ。
奴隷で儲けるなら一人二人じゃ意味がない。奴隷を運ぶとなると、奴隷の管理に重きを置いて、食料や水も増えるし人員も増える…
違法の商品を運ぶとしたらついででしかない。
『こんなに物品を運んでいるんだ!…奴隷はないだろう』
そーなると…この商団が運ぶ人間とは?
中から泣き声のする馬車に近づく
「うぅ…うっ…ひっく…うぇぇ…」
確かに子供がいる
『泣き声は一人分…』
他に人の居る気配は無い…
静かに馬車の扉を開けると中は魔道ランプで薄ぼんやりと明かりが付いている。
大型馬車なのにポツンと檻が一つだけ
その檻の中に一人、十歳くらいの子供が…
薄桃色のワンピースドレスを着ている。
肩より少し長い、緩くウェーブのかかった水色の髪の少女‥
扉の開く音に気が付いたのか、子供がこっちを見た。
ポロポロと涙をこぼす瞳は澄んだ美しい青だった…
驚きに見開いた瞳からは止まる事なく涙が溢れている。
コツンッ コトンッ
涙にはありえない音を立てて落ちる…
少女の周りには沢山の真珠が…
『海の民だ…』
海の民
海の女神に愛されたと言われる一族。流す涙は真珠に変わると言う話だ。
強力な結界・防御魔法が使えると聞く。その能力は国の防衛にも関わっているとか…
『だから国からの依頼が!?』
一歩、馬車に乗り上がると、ギシリッと揺れ
少女がビクリと肩を竦める。
怯えて両手を握りしめている、その両腕にいくつもの赤いみみず腫れが…
『………折檻して涙を流させたのか………』
怒りで頭が沸騰して行く…
『…あぁ……許さない…』
蘇る過去の記憶
(痛い!!やめて!痛い!痛いぃ!!助けて!嫌だー!!)
何度も激痛の走る自身の体…
『潰しても潰しても湧いてくるゴミ虫が…』
『!…いけない…今は冷静に……この子が怖がる…』
なんとか頭を切り替える。
檻に近づくと震える少女がこちらを伺っている…
『怖いはずなのに、目は外さないんだ…強い子だな。』
檻のそばに跪き、フードを取り顔を見せて
ニコリと笑顔を作る。
少女は真っ直ぐこちらを見るも怯えは取れない。
檻には頑丈な錠前が。
『この檻…壊せなくはないけど、この子に怪我をさせたくないし…』
少女の目を覗き込む様に静かに話しかける
「鍵を探してくるから、ちょっと待っててね」
少女の震えが止まり、、、小さく頷いた。
フード付きの黒いマントを脱いで、檻のそばに置く
「ちゃんと戻って来るから、大丈夫だよ」
そう言って立ち上がり
馬車を降りて静かに扉を閉める。
「…皆殺しにしてやる…」
*****************
「うっ……うえぇん…」
『腕が痛い…』
恐怖と痛みで涙が止まらない…周りは真珠でいっぱいだ
気づいたらここにいた…檻に入れられて…四〜五日は経ったと思う…
ジッと両腕のみみず腫れを見る…
最初は怖くて泣いていたけど、気持ちを落ち着けて涙が出なくなったら、叩かれる様になった…
『ここは何処なんだろう…私…もぉ帰れないのかな…』
海の民…
自分の一族の特性も価値も理解していた
『気を付けていたのに…』
涙が真珠に変わる…つまりは[金のなる木]だ。
しかし、その価値は真珠だけではない。むしろ真の価値は使える魔法にある。
大人になれば、結界・防御魔法が使える様になり、魔力の高い者は魔法省や魔術団に…国の防衛に関わる者もいるそうだ。
なので国からも手厚い保護対象である。
そもそも大人なら身体能力・攻撃力が高いので狙う対象にならない。
しかし子供のうちは普通の人間と変わらず、涙が真珠になると言う価値で、欲深い奴等に狙われる。
『ちゃんと大人と行動していたのに…』
国からの保護もあり一族の守りは厳重で、攫われるなんて起こりえないのに
念入りに仕組まれた罠に嵌った
「うぅ…うっ…ひっく…うぇぇ…」
ギイィ…
『えっ?! 誰か来た!!もぉ夜なのに?!』
攫われて四〜五日経っているが、夜中に人が来た事は無かった。
ゆっくり開く扉の向こうに、黒いフードの人物が…
顔はよく見えないけど小柄な人物。
『怖い…』
その人物が馬車の中に入ってきた…ギシリと揺れる音に
思わず体がビクつく!…恐怖が抑えられない。
『でも、目を逸らしちゃいけない!チャンスがあるかも!常に周りにも注意を払わないと!』
両手をぎゅっと握りしめる。
その人が檻に近づき、跪いてフードを取る…ここでは初めて見る顔だった。
赤い髪に赤い瞳の女の人がニッコリと笑いかけてきた
『…綺麗なお姉さん……あぁ…でも…悪い奴らの仲間なのかも…』
また叩かれるかもしれないと言う恐怖が消えない
お姉さんが覗き込む様に目を合わせきた
「鍵を探してくるから、ちょっと待っててね」
静かに話しかけられた言葉に、体の震えが止まる…
『…優しい声…』
コクリ…………私は自然と頷いていた。
*****************
「ふわあぁあ……」大きなあくびを一つ
あと少しで交代の時間だな…とテントの方に目をやると
ちょうど交代のヤツが出てきたところだった
そいつが挨拶するように手を上げた瞬間
ザシュッ
「うわあああああああぁ!!!!!!!!!!」
そいつは肩からザックリと切られて倒れた
その後ろには赤い髪の女が…‥
「てっ!!敵襲だーーーーー!!」
そう叫びながら俺は逃げ出していた!!!
本当なら剣を抜いて向かって行かなければならない
でも出来なかった…
女の赤い目に射竦められた瞬間
全身に鳥肌が立った!!!
『…殺される…』
俺の叫び声でテントから仲間が出てくる
その人垣を縫う様に逃げる!!!
『早くここから逃げなければ!!!』
背後から叫び声が聞こえるが、振り向く余裕はない!
「ハァッ! ハァッ! ハァッ!」
野営地を抜け草原を全力で走る
『あっちに森がある!そこまで行けば隠れられる!』
その時、ズシンッと背中に衝撃を受けて地面に突っ伏した
「ひいいぃぃぃ!!!」
ジタバタと暴れる俺の頭上から声がする
「はい♪ 一人確保♪」
男の声だった…
『あの女じゃない…』
恐怖から必死に走り、酸欠状態だった俺は
相手があの女じゃない事に安堵して
乗っかってきた相手がどんなヤツかも見れずに気絶した…
「う〜ん…イグニスさん、やっぱり手加減する気…無いみたいですねぇ」
焦茶の髪に黒目の男は頬を掻きながら言った
*****************
遠くで叫び声が聞こえる…
お姉さんが出て行ってから、しばらく立つ…
『さっきのお姉さんはきっと冒険者だ…ギルドからの依頼で来たんだ…きっと助かる…待っててねって言ったもん…すぐ戻るって…大丈夫だよって……』
膝を抱えて疼くまる
『でも…女の人だし…勝てるのかな……あっ…一人じゃないのかも?…きっと仲間がいるんだ…でも、悪い人いっぱいいたし…仲間がいても勝てないかも…』
また震え出した体を抑える様に膝を強く抱える。
バンッ!!!
馬車の扉が強く開かれた!
「チクショー!化け物め!!!」
男の人が入ってきた。
物凄い汗と血走った目…足元が血でドロドロだ……
フーッフーッって肩で息をして、右手に短刀、左手に鍵を持っている。
「出ろ!!! とにかくお前がいれば金には困らない!」
鍵を開けて、私の腕を掴んで引っ張り出した。
「きゃあぁ!」
「おーーい。そんな小さな子を乱暴に扱っちゃダメじゃな〜い」
さっきのお姉さんの声だった
男の人が体勢を変えて扉の方に振り返ると、さっきのお姉さんが扉の向こうに居るのが見えた
『血塗れだ…』
ゆっくり馬車の中に入って来たお姉さんは
体のアチコチに血が飛び散ってて、持っている剣は血塗れだった。
私を怖がらせない為か、笑顔で優しい口調だけど…
目が……赤い目は怪しく光って見える…
『……なんて綺麗なんだろう……』
ドキドキと心臓が速くなる…
血塗れなのに、私は何故か怖くなかった。
夜のネコ科の様な目をして扉の前に立ち塞がっている。
「くっ…来るな!! 剣を捨てろ!!こいつがどーなってもいいのか!!!」
男の人は私を人質に取って剣を向けてきた!
『え?金のなる木なのに?』
私は[金のなる木]だから殺される事だけは無いと思っていた。
「え〜〜〜?大事な資金源なんじゃないの〜?」
『だよねぇ!』
「うるさい!!!!」
物凄い怒声にビクリと体が震えた
「…………怖がらせたな…」
低い声でそう言うお姉さんから笑顔が消えた…
「………いいよ♪ ほらっ」
お姉さんがガチャンを剣を横に放り捨てた
『えっ!?』
「捨てたよ。」
お姉さんは『やってみろ』と言わんばかりにニヤリと笑い
手を開いて両腕を広げた
「なっ!!!! バッ…バカにしやがってー!!!」
男の人は私を横に放り出し、お姉さんに突き刺しに行った。
すっ転びながら私が見たのは
ゴッ!!!
凄い音を立てて、左腕で短刀を受け止めたお姉さんの姿だった
『えっ?!刺さらない???』
「なっ?!なんで!!!?」男の人がそう言った瞬間
お姉さんに殴り飛ばされた!
呆然と見つめてしまった…
突き刺さると思ったのに…服が少し切れただけ…
お姉さんは剣を拾い
すっ転んで座り込んだままの私に
「もーちょっと、ここで待っててね」と言ってから
気絶してる男の人をズルズルと引きずって、馬車から出て行く。
お姉さんが出て行ってすぐ揉める様な会話が聞こえて来た。
「イグニスさん! イグニスさーん!ちょっと待ってー!!殺さないでー!!!」
「あぁ?!なにっ!………ハァ…もぉ来ちゃったんですか…」
「仕事早すぎますって!しかも殆ど殺しちゃってるじゃないですか!!!」
「当たり前じゃないですか。こんなゴミ虫共…皆殺しですよ。」
「調書取りたいんですー!情報引き出したいんですー!」
「どーせ調べは付いてるんでしょ?判ってる事しか聞き出せませんよ。」
「だとしてもー!ちょっとは生かしておかないと!」
「あーーーーっっもぉ!分かりました!コイツ一番ムカついたんで!確実に酷い目に合わせて下さい!!!」
「はいはい♪ 死んだ方がマシって目にね♪ 」
『凄い揉めてる…』
会話が終わったみたいで、お姉さんが戻ってきた…
檻のそばにあった黒いマントを取ってきて、座り込んだままの私に近づく…
「血が付かないようにマントで包むね…」
そう言って優しくマントを被せて私を抱き上げた
『あぁ…助かったんだ………』
「うっ………うわあぁあぁぁああぁぁぁ〜〜ん」
マント越しにお姉さんにしがみ付いて、大声を上げて泣いてしまった…
捕まってからずっと泣いていたけど、大きな声を上げて泣いたのはこれが初めてだった…
***************
マントを置いて馬車を出て、直ぐに魔道具で連絡を入れた。
「討伐を始めます…」
《《えっ!ちょっ!!もっ!!! もぉですか?》》
通信は繋げたまま魔道具を地面に置き
腰の剣を引き抜いた…
《《イグニスさん?! ヤバい!急がないと終わっちゃう!!! おい!ーーーぐ皆んーを集めーーそれー副ーにもー》》
目の前にちょうどテントから出て来た男がいた……背後から近づき剣を振り上げ、右肩からバッサリと切り付ける。
『あぁ…どいつもこいつも…欲に塗れやがって…』
「てっ!!敵襲だーーーーー!!」
少し離れた前方にいた男が、叫んでから逃げて行く…
始末しようと追いかけたら、周りのテントから、わらわらとゴミ虫共が湧いて出てきた。
片っ端から斬っていく…
『ゴミ虫が生意気に人間みたいな悲鳴をあげてる』
斬って斬って…動く物を全て斬る
(憎い…許さない…お前たちさえ居なければ…)
幼い自分が見える…
そーして気付けば、肉塊と血溜まりがアチコチに…
『ゴミ虫のくせに…普通の血が流れてるなんて…贅沢だ…』
天を仰いで、長く息を吐く…
頭に登った熱を吐き出す様に長く長く…
『檻の鍵を探さないと…』
テントを一つ一つ見て回るか…と歩き出した時
視界の端に短刀を持って走る男が、少女の居る馬車に向かっている。
『まだゴミ虫が…』
追いついた先…開けっぱなしのドアの向こうで
男がガチャガチャと鍵で檻を開けていた
『こいつが持ってたのか…』
「出ろ!!! とにかくお前がいれば金には困らない!」
『あぁ…やっぱりゴミ虫は全部潰さなければ…』
*******************
マントの中に沢山の真珠と
泣き疲れて寝てしまった少女が居る。
「あぁ…保護した少女ですね」
さっき話していたレコルド(殺す殺さないと揉めた相手)を後ろに引き連れて、やって来たのは
ギルドの副長ブラン
私より頭一つ分背が高い、長身で焦茶の髪に黒目の童顔イケメン。
同い年に見えるほど童顔だが、実はもぉ35歳…
普段から誰にでも敬語なので、余計に年上に見えない‥詐欺だ!
『副長が来るなんて…』
「水色の髪♪ この子に間違いないですね♪」
「商団の調査だなんて…最初っからこの子の奪還が依頼だったんですよね?…最初からそう言えば良いのに!」
依頼内容を隠された事に苛立つ……
「いやいや……この手の依頼は、イグニスさん キレちゃうじゃないですか。話聞いた段階で。」
ブランが眉を下げて笑顔で言う
「そんな事は…」『無いと言いたい…』
思わず口を尖らせてしまった
「それに情報も不確定要素が多くて…見切り発車なとこがありまして……居ないかもしれないのに最初っから嫌な気持ちにさせたくありませんし。」
「……………………」
『確かに…依頼内容が分かってたら、商団が町から出る前に突っ走ってたかも…だから副長が来たのか…』
「保全チームに副長が入ってるのは私を抑えるためですか?」
「まぁね♪ 間に合わなかったけどね♪」
ブランが肩をすくめて苦笑いする。
「…すみません…」
本来、こーゆー事案はなるべく生け捕りにするべきなのだ。
「大丈夫♪ 無傷が二人。治癒が間に合ったのが一人いるから♪尋問するには十分です♪」
「………本当にすみません………」
改めて…ヤり過ぎた事を実感する。
「上級で他の人が空いてたら良かったんですが…イグニスさんしか居なくて…辛かったでしょう?」
申し訳ないという表情のブランを見て、こっちが申し訳なくなる。
「いえ!大丈夫です!…私こそ……加減が出来ずに…すみません…」
項垂れる私の頭にポンッと手が置かれた。
暖かい手にホッとする…
「じゃぁ、僕はまだ後始末があるので。先にその子を連れて本部に戻って下さい。今後の事でギルド長からお話があると思います」
ブランはそう言って手を振って行ってしまった
『………今後の事?』
******************
魔道具の移動魔法でギルド本部に帰って来た…
本来なら、まずシャワーを浴びて…着替えるけど。一刻も早くギルド長に少女の無事を報告をしたかった。
なので真っ直ぐ本部長室へ向かう
『夜中で、人が少なくて良かった…』
廊下の床を血で汚しながら歩く
その後を掃除用スライムが綺麗にして行く。
本部長室前に着くと勝手にドアが開いた…
中には白髪の混じった深緑の髪に金色の瞳のイケオジ。
ギルド長のザハブが開けてくれたのだ
「やぁ〜お疲れ様。」
ニッコリ笑顔のザハブが入室を促す。
私は少女を抱えたまま部屋に入った
「ただ今戻りました。」
ザハブはブランよりも更に大きい…190センチは超えてそうだ…
大きな体を折り曲げてマントの中を覗き込み
「おぉ…この子が海の民の子かぁ…よく寝てるねぇ。
せっかく寝てるんだから、そのままソファに座るか?…大丈夫かい?腕が辛いなら降ろすかい?」
「このままで大丈夫です。」
『また運ぶ時に抱き上げたら起こしてしまいそうだし…』
このまま寝かせておきたかった…
ソファに促されて少女を抱えたまま座る
ザハブもテーブルを挟んだ向かいのソファに座った
「[ 海の民 ]の事は知ってるかい?」
「噂程度には……流す涙は真珠に変わり、高い結界・防御魔法を使うと…」
「概ね合ってるよ。ただ、魔法を使えるのは大人になってからなんだ。」
『……つまり…子供は真珠を生み出してしまうのに、一切身を守る術がないって事か…』
腕の中の少女をジッと見つめる
「魔法力が高い者は王都の魔法省や魔術団に、大人になると身体能力と攻撃力が格段に上がるので、王宮の騎士になる者も多いんだよ。」
『へぇ…強いんだ…』
「海の民の一族の故郷は東の海の側にあり、子供がその街を出る事は殆どないんだが……その子は王都に居る一族の者に会いに来ていたんだ。」
「えっ?! この子は王都で攫われたんですか?」
「そうだ。一族から騎士団に入団した青年と、その姉が魔法省に勤めていて、姉の方が結婚したんだ。相手が王都の人間だから、式は王都で開催する事になり。親戚一同王都にやってきた。」
「親戚の…」
「いや、その子は親戚じゃないそうだ」
「?」
「そもそも[海の民]は結婚式とは言え、滅多に子供は街から出さないものだがな……どんな訳か知らないが、その子は特別に連れて来たんだと………勿論、厳重に護衛も付けて注意を払っていたそうだが。どーやら誰かが故意に情報を流したみたいでね…事前に[海の民の子]が来ることが知られていた様だ。」
[海の民の子]魔法が使えなければ、まさに金のなる木だ…
しかしその一族は鉄壁の防御力と結界で、街で子供を守っている。
そんな所から子供を攫うのは不可能だ。
金の亡者が喉から手が出るほど欲しい子供…
その[金のなる木]が街から出て来る!
王都も王族が住まう場所だけに、都全体で防犯が厳しい。国が保護対象にしている一族の子供なら攫うなんて尚更、無謀だと言える。
『一族の街から比べたら攫える確率はあがるか……結婚式という浮かれた状況での油断も期待したかな?』
「一体どうやって?」
「攫われたのは結婚式当日、披露宴の終わり頃…休憩に戻った花嫁の控室でだ。その子と花嫁、花嫁の母親、花嫁の友人達、侍女数名。…中々戻らないので、新郎が侍女に見に行かせたら。部屋の中で全員ソファや床に倒れていた。眠らされたんだ。そしてその子は消えていた…五日前の事だ。」
『…五日間……あんな薄暗い馬車で…痛みを与えて涙を流させてたのか…』
奥歯がギリリッと鳴る、、、
大人になるまで、絶えず泣かせて…真珠を作らせて……魔法を使える様になった瞬間、放り捨てるのだろう。
まだ、上手く魔法が使えないうちに…
『殺されていた可能性もある…』
思考が闇に落ちそうになるのを、ザハブの続ける話が引き戻した。
「その子が攫われたと思われる時間より後に使われた移動魔法の痕跡を調べた。いくつかあったが、使用者・目的・移動先…その全てを調べ・追跡した結果、今回の商団が一番怪しかった訳だ。明確な証拠は掴めなかったが……他の使用者はの正当性を立証出来たからね。」
ザハブはパチリとウインクして笑った。
「しかし証拠がないのは事実だから、見切り発車的に[調査]と言う名目で依頼を進めたんだよ……国の方もかなり焦っていたからねぇ」
ギルド長はやれやれと言ったそぶりで両手をあげる
「とにかく急ぎなのに、こんな時に限ってS級はおろか他のA級も出払っててね…お前を行かせたくは無かったんだが…済まなかったな…」
ブランと同じ様に申し訳なさそうな顔をするザハブ。
「いえ…お気遣いありがとうございます…」
『本当に…ここのギルドはみんな優しい…』
軽く頭を下げて感謝を伝える。
「さて!」
ザハブはワントーン声音を上げて話し出した。
****************
本部長室を後にしたイグニスは少女を抱えたまま
ギルド本部の休憩部屋の一室に入る。
三人掛け位のソファとテーブルに大きめのベットが一つ。
登録冒険者が長旅から帰った際、数日休める様に風呂場もあり。簡素な着替えも数サイズ常備してある部屋だ。
マントに包まれた少女をベットに寝かせて
少女から、そっとマントを剥がす
コトンコトン コトン
「おっと…」
ベットから転がり落ちる真珠。
拾い集めて、テーブルに置いてある水差しの横のコップに入れた。
コップの淵まで入った真珠を眺める
「………綺麗な涙………」
コップをテーブルに置いて、少女に毛布を掛ける。
『起きたらお風呂に入れてあげよう』
おそらく結婚式の時の格好のままだろう。薄桃色のワンピースドレスは少し汚れている。
攫われてからずっと閉じ込められてたのか、泥まみれや埃まみれにはなっていないが。
五日も身を清められないのは気持ち悪いはずだ。
『濡れタオルなんて気の利いた物、用意したりしないだろうし…髪も油分で重くなってる…』
緩いウェーブの髪の頭を撫でてから、腕のみみず腫れを確認した
『良かった…切れてる所はない……しばらくしたら綺麗に治るわ…』
こんなに可愛い子の腕に、酷い傷跡が出来なくて良かったと安堵した。
少女からそっと離れて、風呂場に向かう
飛び散った血で汚れた服を脱ぐ…左袖の切り口を見て
ため息を一つ…
『この服はもぉ捨てるか……ん?…』
よく見たら袖の切り口が少し赤い…
『少し切れたのか…あのゴミ虫…思ったより力があったんだ…魔力もあったのかな?』
鼻で笑い、傷一つない左腕を一撫でしてから
服をゴミ箱に放り込む。
シャアアアアアアアアアアァァァァ………
シャワーを浴びるながらイグニスはザハブの話を思い出す
『さて!』
『イグニスには引き続き任務についてもらいたい。』
『続けてですか?…構いませんが…』
大きな任務の後には二〜三日休暇を取るものだが
今回は規模が大きくても期間が一日程しか無かったから、別に構わないと思った。
『その子を王都まで送ってきてくれ』
『あぁ…結婚式の…[海の民]の方々は、この子が戻るのを王都で待っているんですね』
ザハブが頷き、
『発見・保護した事は、王都の警備隊に既に通信で知らせてある。 信頼できる者を警護に付けて王都まで送り届けるともね♪』
[信頼]って言葉に顔が赤くなった。
『この後、君がその子の身体検査などしてくれるのだろう? その報告は昼を過ぎてからでも構わない。あと二時間もしたら夜明けだからね……君も少し寝ないと。』
私はコクリと頷く。
『その子の体調も加味して、準備出来次第 出発してくれ。』
『了解です』
シャアアアアアアアアアアァァァァ………
もぉすぐ夜明け…仮眠ぐらいは取ろうか…
『また暫く悪夢を見るんだろうな…』
****************
目を覚ますと、知らない部屋のベットの上だった…窓の外は暗い…
『ここはどこだろう……』
ベットの上で体を起こして考える…
『綺麗なお姉さんに助けてもらって…泣いちゃって…それから………?』
ガチャッ
ベットの左右にあるドアの一つが開いた!
私を助けてくれたお姉さんが、裸にバスタオル一枚巻いて
濡れた髪を拭きながら出てきた!
「あっ!!起きたんだ♪ 」
「!」
びっくりして毛布で顔を半分隠す。
自分の街では見ないタイプの半裸の美人をつい、凝視してしまった。
『私、きっと耳まで真っ赤だ!』
「ごめんねこんな格好で…」
お姉さんは苦笑いでポリポリと頬を掻いている。
「そー言えば、自己紹介がまだだったネ。
私はイグニス。ギルドのランクAの冒険者だよ。」
そう言い、バスタオルのまま近づいて来るお姉さん。
顔を上げてお姉さんを見る。
「お名前は?」
馬車の中で聞いたのと同じ、優しい声。
「……パルル」
お姉さんはニッコリ笑って
「パルル…素敵な名前だね♪」
『…嬉しい…』
正直、自分の名前は気に入ってない…
可愛すぎるから…
いつもいつも「可愛い名前」って言われてうんざりする
だから「素敵」って言われたのが新鮮で凄く嬉しかった。
「早速だけどパルル…色々聞きたいことがあるんだ…」
お姉さんは喋りながらクローゼットに向かい、中から下着とシャツとスラックスを取り出して、私がいることも気にせず着替え出した。
『……冒険者って裸とか気にしないのかな?…それとも私が子供だから?』
チラチラと観察してしまう
『私、絶対顔、真っ赤だー!』
「先ずは…捕まってる間。ご飯はちゃんと食べれてたかな?…あんまり食べさせてもらって無かったなら、胃に優しい物から食べないと…」
「あっ 食事はちゃんとくれました。空腹だった事は無かったです。」
私の返事にお姉さんがビックリしている。
「……大人みたいな話し方をするんだね!しっかりしてるんだぁ」
感心したって表情で私を見るお姉さんに心が弾む!嬉しくて得意げな顔をしてしまった。
クスクスと笑いながらお姉さんは話しを続ける。
「んじゃ、食事は通常ので大丈夫だね。後で一緒に食べに行こう。そーすると…お風呂に入ろうか♪ 私もシャワー浴びただけだから、一緒に入って洗ってあげる♪」
「…えっ………えぇっ?? だっ!…大丈夫です!!! 一人で洗えます!!!」
顔の前で両手をブンブン振って断る。
「そぉ?……そっか…でも身体検査はさせてね…」
申し訳なさそうに眉を下げて、お姉さんは言う…
「君が捕まってる間…どんな目にあったのか…どんな事をされたのか…記録を取らなきゃいけないんだ…」
「あっ………はい…」
お姉さんの眼差しから、私を気遣っているのが伝わる…
『優しい…それに強いし!…カッコいい…』
私はお姉さんに色々話した。
結婚式の日、花嫁の控え室で急に眠くなった事……気づいたら檻の中にいた事……食事は貰えてた事……一日数回、大人が真珠を回収しに来た事……状況に慣れて、涙が出なくなり出来る真珠の量が減ってきたら、ムチで叩かれた事……叩かれたのは腕だけだった事……
叩かれた時の事を思い出したら、急に体が震え出して…涙が溢れ出した…
「うっ…うっく……うぅぅ……」
そんな私をお姉さんが抱きしめる。
「大丈夫…大丈夫だよ…もぉ怖い事も、痛い事も絶対させない!…私が守るから大丈夫だよ…」
お姉さんの心臓の音が聴こえる………
『お姉さんが守ってくれる…お姉さんがいれば大丈夫……』
震えと涙が止まってしばらくしたら
「後は体の様子を視させてもらうね‥」
拾い集めた真珠をコップに入れながらお姉さんが言った
頷いた私の手を引いて、さっきお姉さんが出てきた扉の方へ……お風呂場だ…すぐ横に洗面所がある。
お姉さんがお風呂にお湯を張り始めて
「ドレス…後ろボタンだね。今から脱がすよ…良い?」
私が着てる服は結婚式に出た時のままで、手伝いがないと脱ぎ着出来ないタイプ
下着一枚になった私を、優しく気遣いながら確認する。
「ごめんね!お尻見るね!ちょっとだけだから!下着ちょっと引っ張るね!……」
「下着も脱ぎましょうか?」
「え?…良いの?…お年頃だし…お風呂一緒に入りたがらなかったから、裸見られるのが嫌なのかと…」
「いえ……お姉さんと一緒に入るのが恥ずかしかったんです…」
と、モジモジする。多分、顔は赤い!
「あぁ!…なぁんだぁ〜…そっかそっか♪ 。今はどぉ?まだ恥ずかしい? 一緒に入る? 洗ったげるよ?♪」
「……………」
コクリと頷いた…
「よし♪ 」
お姉さんはニシシッと笑った。
下着を脱いでくるりと回る。
「うん…たしかに。叩かれたのは腕だけだね……このくらいなら後も残らずに治るから、安心して良いよ。体力も問題無さそう。」
そう言いながら、お姉さんが服を脱ぎ始めた!
私は恥ずかしくなって、それを誤魔化そうと慌ててお風呂に入ろうとする。
「あっ!こら!!洗ってからでしょ〜!」
呆気なく捕まって、イスに座らされた。
「頭からシャワーかけるからねぇ〜目ぇ瞑ってねぇ〜」
シャンプーで頭をゴシゴシ洗ってくれる…
『……気持ち良い……』
「あぁ、それと。敬語なんか使わないでいいからね♪」
そう言いながら
次にたっぷりの泡で体を洗ってくれた。
洗い終わったらそのまま抱っこされて
一緒に湯船に入り
お姉さんが話し始めた…
「さっき、私が守るって言ったでしょ? 」
私はコクリと頷く
「つまり、しばらく一緒に過ごすってことなの。パルルの一族の人が王都で待ってるから。私がパルルを連れて行く。パルルは私が護衛で良い?大丈夫?」
私はコクコクと頷いた!
「良かった♪ これからよろしくね♪」
お姉さんが私の頭を撫でた
「……水色の綺麗な髪」
振り返ってお姉さんを見る…
『お姉さんの髪の方が綺麗だと思う……』
湯船から出たら、バスタオルを渡された。
「よく拭いてね。後で髪、乾かしてあげるから。」
お姉さんが自身の身体を拭きながらそう言う
『お姉さんの裸にも慣れてきたわ…』と思いながらバスタオルを広げたら、端がゴミ箱に当たって倒れた
カツンッ コロコロコロ…
『……石?』
「わあ!キレイ!…お姉さん……この赤い石、なぁに?」
「あっ………」
「?」
バスタオルを巻いて髪を拭いているお姉さんの動きが、ピタリと止まった…
チラリと倒れたゴミ箱を見ると、袖の切れた服が見えた
『あれは、お姉さんが着てた服? ……そー言えば、あの時…お姉さんの腕はどーして大丈夫だったんだろう?』
お姉さんは私の掌から石を摘んで
「これはルビーだよ。」
「……ルビー?」
「…………特別に私の秘密を教えてあげる♪」
お姉さんは少し考えてから、イタズラっぽく笑った…
****************
カツンッ コロコロコロ…
「わあ!キレイ!…お姉さん……この赤い石、なぁに?」
「あっ………」
『もぉ、結晶化しちゃったか…』
「?」
パルルの小さな手に乗った、赤い石を摘み上げる
「これはルビーだよ。」
「……ルビー?」
パルルは小首を傾げて聞き返してきた
「…………特別に私の秘密を教えてあげる♪」
『特に秘密でも無いんだけどねぇ』
パルルのビックリする顔が見たくなった。
「私もパルルと同じなんだよ♪ パルルは涙が真珠に変わるでしょう?」
パルルがコクリと頷く……
「私の血液はルビーに変わるんだよ。」
パルルが目を大きく大きく見開いて、口をポカンと開けた。
「プハッ!」
『あぁ…予想通りの顔だ♪』
思わず笑ってしまった。
パルルの手にルビーをもどして
「私、馬車で悪い奴の短刀を受けたでしょ?」
パルルはコクコクと頷く
「あの時、少し切れたみたいでね?その時の血をシャツが吸っちゃってたんだ。」
倒れたゴミ箱からシャツを引っ張り出して、袖の切り口をパルルにみせる。
さっきまで付いていた血は消えている…
「パルルの涙はすぐに真珠に変わるけど、私の血はしばらく経ってから結晶化するの……そのルビーは、さっきまで此処に付いてた私の血が結晶化したものよ。」
そー言って袖の切り口を指差した。
「知ってる?…ルビーって、とても硬いのよ。ダイヤモンドの次に硬い石なの。衝撃や圧力にはダイヤモンドより強い。」
「???」
パルルが首を傾げる…
「つまりね…」と言って
両手で握り拳を作ってパルルの目の前に出す。握り拳を擦り合わせて…
「ガリガリガリッて削られる力には、ダイヤモンドの方が強い。」
今度は両拳をコンッと叩き合わせる。
「でも、ゴーンッてぶつかる衝撃はルビーの方が強い。ダイヤモンドは角度によっては割れやすいけど、ルビーはとても割れにくいの。」
パルルは感心したような顔をして聞いている
「ルビーに変わる血が流れてるからか、私の体はとても強いの。自己治癒力も高いから傷もすぐ塞がる。」
「無敵って事だ!!!」
被せる様に叫んだパルルは、目をキラキラさせている。
(「お姉ちゃんは無敵だね♪」)
懐かしい子が重なって見えた……
「アハハハハ!
そーゆー事♪ だから安心してね。絶対守ってあげるから♪」
「うん!」
****************
頭を乾かしてもらって
風呂場から出たら、窓の外が明るくなり始めてた。
「あぁ…パルルの着られる服がなかったね…
取り敢えず、このシャツを着といて。」
と大人用のシャツを着せてくれた。
お姉さんは自分の服を着てから
「パルルが着れるサイズの服を探してくるね。」
と言って部屋を出て行った。
ポフンッとベットに横になる、テーブルを見ると真珠が満帆に入ったコップが…
「………大人になりたい」ポツリと呟く
大人になって魔法が使えれば…きっと悪者も自分でやっつけられた…
力のない子供な自分がもどかしくなった。
コンコンコンッ……ガチャリ
お姉さんが帰ってきた。
「こんなのしか無かったから、後で買いに行こう。旅支度もしなきゃだしね。」
茶色い短パンと緑のシャツを渡された
「旅支度?」
私は渡された服に着替えながら、聞き返す
「王都まで最短でも三〜四日は掛かるからね。さぁ!先ずは朝ごはんを食べに行こう♪」
****************
パルルを連れて
ギルド本部一階にある食堂に行く。
ギルドの任務は昼夜問わず様々なので、食堂もいつでも使えるように、二四時間やっている。
早朝には珍しく、ガヤガヤと人が多い…と、よく見たら副長ブランと保全チームの面々だった。
ブランがこちらに気付いた。
「イグニスさん♪ 。と、パルルちゃんだね♪ こっちへ座りませんか?」
ブランとレコルド、他にも数名の保全チームのメンバーが座るテーブルには、色んな料理が沢山並べられている。
「どうぞ。好きな物を食べて下さい♪ パルルちゃんは僕が取ってあげましょう♪」
ブランはギルド運営の孤児院の管理もしているからか、子供の面倒を見るのに慣れている。
パルルは席について
クロワッサンと、ミートボールの入ったクリームスープを器に取ってもらってる
「皆さんお疲れ様でした。」
と言ってパルルの隣の席に腰を下ろす…と、レコルドと目が合った。
「レコルドさん……さっきは我儘言ってすいません…」
頭に血が昇ってたとは言え、アレは良く無かったと反省…
(ゴミ虫を殺す殺さないの事)
「良いんです。私の見積もりが悪かったんです。」
ビシッ!!っと掌をこちらに向けて制された。
「こーゆー案件はイグニスさんがバーサーカー化しちゃうって解ってるんです。だから、連絡来たら直ぐ出られるようにって準備を進めていたんです。……ただ想定より早かっただけです!」
めちゃめちゃ悔しそうに言うレコルド。
私は苦笑しながらも感謝の気持ちが胸に溢れる。
此処はとても良いギルドだ。
色んな人が集まれば、それだけの数の人生が存在する…
職業柄、悲しい・辛い経験をした人の方が多いだろう…
過去に腐って、やさぐれでもおかしくないのに……過去を受け入れて前を向く。向く努力をする。
此処はそう言う人間が多い…自分を受け入れられるから、相手を受け入れる懐が広い…相手の事情を知ってても、知らなくても、受け入れる。そして踏み込まない…それがとても有難い。
目頭が熱くなった…
パルルが、クロワッサンをモグモグ食べながら私を見ている事には、気付かなかった。
****************
朝ごはんを食べ終わって、お姉さんが…
「ブランさん。まだ、こちらに居ますか?
私、ザハブさんの所に報告に行こうと思ってて…パルルを見ててもらいたいんですが…」
「あぁ、良いよ。……でも、パルルちゃん、眠そうだねぇ…」
満腹になった私は、瞼が重くて開けてられなくなった…
「えっ? あれ! パルル?眠たい?…あ〜…そーだよねぇ…ちょっとしか寝てないもんねぇ…」
お姉さんの声も遠くに聞こえる。
「アハハッ じゃぁ、パルルちゃんは僕が部屋に運んで、寝かせてあげよう。君が戻るまで見ててあげるよ♪」
「すいません! 直ぐに戻りますから! よろしくお願いします。」
って感じの会話が聞こえたような…ないような?
もぉ目が開かない…
フワリと浮かんだ感覚がした…
眠い頭で思い出していたのは、さっきのお姉さんの表情だった。
『お姉さんは無敵じゃないかもしれない……」
****************
私は急足で本部長室に向かう。
『パルルが起きたら買い物に行って……あぁ、でも。次の街に移動してから買い物をしてもいいか…』
この世界には[ 世界樹の門 ]と呼ばれる、移動ゲートがある。
世界の中心に立つ[ 世界樹 ]。天を支えるかのような巨大樹…魔力を有するその樹は、半年に一度、世界に転々とある[ 世界樹の子木 ]と繋がる。そうして丸一日(二四時間)大きな移動が可能になる。
[ 世界樹の子木 ]は、遥か昔に多く居た、エルフの一族が、広い世界を行き来する為に、世界樹の挿し木から植樹したとされている。
今回、パルルの拉致には[ 世界樹の門 ]も使われた。丁度、半年に一度のゲートが繋がるタイミングだったのだ。
何故なら結婚式に参列した[ 海の民 ]の方々も、翌日にゲートを使って帰る予定だったから。
そのゲートの繋がるタイミングをまんまと利用された…披露宴から魔道具で[ 世界樹の子木]近くに移動して、商団の馬車に押し込み。
[ 子木 ]→[ 世界樹 ]→[ 子木 ]と大きく移動した。
[ 世界樹の門 ]はしばらく使えないから…
今回は、馬車移動と[ 接木の門 ]を使い王都を目指す。
[ 接木の門 ]とは、魔法省の魔術師が、世界樹の枝を元に研究・開発した魔道具で。
普通の樹に世界樹の枝を接木した物だ。
普通の樹と言っても、[ 門 ]にするのだから。それなりに大木で、生命力の強い樹でなければならない。それを切り倒し、切り株の中央に世界樹の枝を挿し、魔力を注いで育てる。かなりの魔力を注いで、完成に二〜三年は掛かると聞いた。
そんな[ 接木の門 ]はアチコチにあるが、町が近いとは限らない。
作るのに大木である事が条件なので。既に出来上がっている大きな街や町中に作るのは難しい。
門が出来てから、その周りが開拓されて栄えるケースもあるが、大抵は街から離れた所にある。
その為[ 接木の門 ]の側には大抵ギルド運営の宿屋があり、辻馬車なども出している。
魔道具である[ 接木の門 ]は、いつでも使えるが、かなりの魔力が必要で、魔力の足りない者は、魔力を注ぐ事を仕事にする[鍵人]を雇う。その斡旋もギルドの仕事だ。
[ 接木の門 ]は魔法陣でペアになっているので、幾つかの門を経由して王都に向かう。
ここはギルド本部なので、東西南北の方向に行けるよう。4つの[ 接木の門 ]がある。
『王都に行くなら…先ずは、[ ドチャルヘ ]だな。』
と考えてたら、本部長室の扉に着いた。
コンコンコンッ…
早朝に申し訳ないなと思いつ扉を叩いた
「どうぞー」
ザハブの返事があったので扉をあけて中に入る。
「失礼します。イグニスです。報告にきました。」
書類机に向かい座るザハブは眼鏡をかけていた。
眼鏡を外しながら
「おやぁ…報告は午後で良かったのに…さては寝てないなぁ?」
「うっ!いえ…タイミングが合わなくて……それに、まだ気が昂ってて…多分眠れません…」
そう言った私を、ザハブは心配そうに見る。
その眼差しから逃れるように「大丈夫です。」と言った。
それから、パルルの身体検査結果・体調・精神状態などを報告。
朝食を食べた後、眠ってしまったパルルを部屋で副長に見てもらっている事。
最後に、パルルを王都に連れて行く旅程の説明。
「パルルが起きたら、先ず[ ドチャルヘ ]に移動して、そこで必要な物を揃えます。」
「良いだろう。急いではいるが、無理のないように。小さい子を連れての旅程だ、先方も理解してくれてる。よろしく頼むと言っていたよ。」
コクリと頷いて立ち上がる
「では、失礼します。」
ザハブは扉まで見送ってくれる。
「ちゃんと休息を取れよ。」と言った
「はい。ちゃんと寝ます。」と笑顔で答える。
ザハブの優しさが心に染みる…
****************
ブランは抱きかかえて連れてきた少女を
ベットの上に寝かせた。
スースーと寝息を立てる少女を見ながら
『イグニスに初めて会ったのは、この子くらいの年の頃だったなぁ』
イグニスもパルルのように攫われた子だった。
イグニスと、もぉ一人…イグニスの弟、セリージャ。両親は殺されて、二人は攫われた。
血液が宝石に変わる…何十年も前に滅んだ国の一族。その血を受け継ぐ者に稀に現れる特徴だ。
宝石の採取は単純…血を出させる。
血液が空気に晒されて徐々に結晶化する…
イグニスは、ルビーに変わる血液が流れているからか、その皮膚はとても硬い。触感は普通の人間の体と変わらず柔らかいのに、一定以上の力が加わる瞬間、硬化するように固くなる。
本人の意思と関係なく身を守る。簡単には傷が付かないのだ。しかも自己治癒力が高く、傷は直ぐに塞がる。傷跡を残す事なく…
イグニスに血を流させる事は容易ではない…
閉じ込められていたと思われる部屋には、幾つもの鉄の杭と金槌が置かれていた…
最悪なのは、弟のセリージャはイグニス程の強度じゃなかった。
セリージャの血液が変わるのはガーネットだったのだ。その為か、皮膚もイグニスより容易に傷付けられる。イグニス程の自己治癒力も無いので、長く血を流す事が出来る。
ルビーより価値の低いガーネット…奴らは量を求めた。そうして全ての血を抜くように殺されてしまった…イグニスの目の前で…
ギルドが救出に駆けつけたのは、イグニスが誘拐犯達を惨殺した現場だった。
血溜まりと肉塊と、大量の赤い宝石…
その中で蹲る血塗れのイグニス…
それからは大変だった…
救出されたイグニスは、まともに食事も取れない状態で…会話をする事も出来なかった。
浅い眠りしか取れないのに、それも悪夢に邪魔される……起きていても悪夢を見てる。
部屋の隅で蹲って震えている事もあれば……手が付けられない程、暴れる事も……それこそA級クラスのギルド職員や冒険者が駆けつける程。
ギルドに併設された救護院で、一年が過ぎた頃……徐々に体力も回復、暴れる事も無くなった。
逆に何もしなくなった…
虚な目をしたまま……変わらず会話をする事はない。
劇的な回復をみせたのは、ブランが管理を任されている、ギルド運営の孤児院に移ってからだ。
イグニスと同年代、そしてセリージャと同年代の小さい子達の存在を感じたからか…目の光が戻ってきた。食事量と睡眠時間も少しずつ…本当に少しずつ増えていった。
そこで半年が過ぎた頃
「今日もいい天気だね。」
「…………うん…」
返事が無くても、いつも何か話しかけていた。孤児院の職員も、子供達も…
自分の中に閉じこもってしまった少女に気づいて貰いたくて話しかけた。出てきて欲しかった。
会話とは言えない程の一瞬を、僕は一生忘れない。
そうして二年程…
イグニスが初めて笑顔を見せた時は、隠れて泣いた。
イグニスと出会ってから三年程
孤児院で、イグニスがギルド入りするキッカケになる事件が起きる。
何処から手に入れたのか…魔獣の卵を隠し持っていた子が居て、それが孵化し暴れ回ったのだ。かなり危険度の高い魔獣で、孵化した途端に大きく成長するやつだった。
何人もの子供に怪我を負わせて暴れる魔獣を、イグニスが倒した……
魔獣とは言え、生き物の命を奪う行為が引き金で、三年前を思い起こし再び気を病むのでは無いかと不安に駆られたが……逆だった。
イグニスは自身の強さで子供達を守った事を誇った。
誰も命を落とす事なく、今度こそ守れた事を。
そうしてイグニスはギルドの冒険者に登録した。
『あれから五年か……本当に強くなった……』
****************
コンコンコンッと
パルルが寝ていると思い、控えめな強さで扉を叩く。
それから、そーっとドアを開けて、中に居るブランと目が合う。
ブランは人差し指を口に当て、ベットを指差した。
パルルは静かな寝息を立てて寝ている。
小声で
「ブランさん、ありがとうございます。」
「いや、良いんだよ♪ 可愛い寝顔に癒されてたよ♪ 」
ブランも小声でそう言い、ソファから立ち上がった。
「パルルちゃんが起きたら、買い物に行くんだろう?」
「いえ、パルルが起きたら王都に向けて出発しようと思います。[ ドチャルヘ ]に着いてから色々揃えます。」
「あぁ……確かに、その方が効率的だね。じゃぁ、僕が[ 接木の門 ]を開錠してあげよう♪」
「良いんですか?! 」
「勿論だよ♪ 僕は本部長室にいるからね。君も、少し寝なさい。」
ブランはイグニスの頭にポンと手を乗せて撫でる。
『いつまで経っても小さな子供扱いなんだから…』
そう思っても
父親のような存在のブランに、頭を撫でられるのが、自分は大好きなのだと自覚してる。
「はい。パルルが起きたら伺います。」
笑顔でそう答えた。
ブランが部屋を出た後…
流石に疲労を感じたので、パルルの隣に寝転がる。
『どうか、何の夢も見ませんように…』
無駄と分かっている祈りを心の中で唱えながら、目を閉じた。
****************
「うっ…うぅ…ぃたぃ…ャダ……イヤだ…ぅゔ…」
『んん?…何?…』
くぐもった声が聞こえてパルルは目を覚ました。
ベットの上…最初に目を覚ました部屋だ。
いつの間に戻ってきたのかと思いながら、声のする方を見ると、自分の横にお姉さんが寝ていた。
『うなされてる…』
眉間に皺を寄せ、薄ら額に汗が滲んでいる…
時計を見ると十一時を指す手前。外は明るいから昼間だ…
「うううぅ!!」
「お姉さん!」
お姉さんがより強く唸ったので、起こさなきゃ。と思った。
「お姉さん!お姉さん!…」
お姉さんの体をユサユサと揺らす。
瞬間、お姉さんの目がバチッと開いた!
ハッハッハッ…と、短く息を吐くお姉さん
開いたのに何処も見ていない様な瞳が、ゆっくり意識を取り戻して
こっちを見た。
「お姉さん…大丈夫?」
「……………あっ……あぁ…パルル…?」
「凄いうなされてたから……起こしちゃった。」
「あぁ〜…うん、心配させちゃったね…ごめん…」
お姉さんが起き上がる。
「アハハッ……………実はねぇ…」
どう、声を掛けていいか困っていた私に、お姉さんも困ったような笑顔で、話し出した。
「私も小さい頃、パルルみたいに攫われた事があるんだよ。」
私は息を呑んだ…
「だからかな…パルルみたいに子供が怖い思いをする事件を担当すると、自分の子供の頃を思い出して…夢見が悪くなるんだ。」
苦笑いして言うけど…
『「私もパルルと同じなんだよ♪」』
お姉さんが言った事を思い出す…
それは果たして同じだろうか?
何でも無い事のように言うお姉さん…
『私は涙だけど、お姉さんは血だよ?…怪我をさせられたって事だよね…………お姉さん…全然同じじゃ無いよ…』
自分も涙を出すために叩かれた…痛かった!怖かった!
お姉さんはその何十倍も痛くて怖かった筈だ!
「これから一緒に旅をする間も、うなされる事があると思うけど…夢を見てるだけだから。心配しないで、大丈夫だから♪」
お姉さんはニカッと笑って言った。
私はコクリと頷くしかなかった……
****************
パルルが起きたので、ソファに移動させて
王都への旅程をザックリ説明する。
「パルルは[ 接木の門 ]は使った事ある?」
そう聞きながら、洗面所から櫛をもってきてパルルの隣に座った。
「うん。王都に行くのに使った。何個か街を跨いで移動したよ。」
そう答えるパルルの背中を自分にむける。
「そーそー。同じ感じで、私たちも街を跨いで、何回か門を使って王都を目指す。」
それを聞いてコクリと頷くパルルの髪を梳かして二つ結びにした。
「先ずこれから、門を使って、[ ドチャルヘ ]に行く。そこで必要な物を買って、宿に一泊。明日は[ フィーツ ]に行くための門へ馬車移動する。」
パルルの涙の真珠をコップごと布で包みながら、話を続ける。
「街を三つ跨いだら王都に到着だ♪」
そう言ってパルルに包みを持たせ、ソファから下ろす。
私は腰ベルトに剣を通して、鞄を背負いながら
「これからブランさんを呼びに、本部長室に行くよ。その時パルルは本部長のザハブさんに挨拶をしよう。その時、その真珠を渡してね。」
パルルの手を引き、部屋を出る。
「パルルの涙の真珠は、商団から押収したのも含めて。全部まとめて、ギルドからパルルの一族の街に届ける事になってるからね。」
廊下を進み、本部長室の前に着く。
コンコンコンッ
ガチャリ
「やぁ、そろそろ出発かい?」
ブランが扉を開けて迎えてくれた。
「はい。ブランさん、門の開錠お願いします。あと、ザハブさんに渡しておくものが……」
と、執務机のところにいるザハブに目をやる。
「俺にかい?」
ザハブが立ち上がり近づいてくる。
「はい。さぁ、パルル、ご挨拶して。」
そっとパルルの背中を押して促す。
「あの!初めまして!パルルです……これ!私の涙の真珠です!」
ずいっ!と布で包んだ真珠を差し出す。
元気な声に驚きつつも、可愛らしいパルルに破顔するザハブ。
パルルの目線に合わせるために、跪いて背中を丸める。
「あぁ。確かに受け取った。他の真珠と一緒に、君の故郷に送るからね。」
『目一杯小さくしてる…つもりなんだろうけど…デッカいなぁ』
笑いを堪えて肩が揺れる…
「よろしくお願いします♪」
最初しゃがんでもデカい、ザハブの巨体にビックリしていたパルルだが。
ザハブの笑顔に笑顔で答えた。
ザハブは、パルルの頭を大きな手で撫でてから、立ち上がり。
イグニスに話しかける。
「丁度良かった。イグニスに渡しておくものがある…」
そう言って執務机に戻り、引き出しから魔道具を取り出してイグニスに渡した。
「緊急時の通信用に持って行け。」
小型の通信のみできる魔道具だった。
「気を付けて行ってこい。」
****************
ギルド本部の建物の近くにある森。
ギルドの所有地で、その森の中に幾つかの[
接木の門 ]がある…そのうちの一つ。
[ ドチャルヘ ]に繋がる門に、ブランが魔力を流している。
開錠にはかなりの量の魔力がいる、向こう側の門も起動させる為だ…
普通、二〜三人がかりだが、ブランは一人でも余裕なくらい魔力が多い。
イグニスもブランと同じ位、魔力はあるが……翌日にも開錠する事を考えると温存しておきたかったから
ここの開錠はギルドの職員に頼むつもりだったのだ…
とは言え、職員を魔力切れでヘロヘロにするのも正直、申し訳ないと思っていたので
ブランの申し出は非常にありがたかった。
カチャッ
門から開錠の音がした……向こうの門と繋がった音だ。
「それではイグニス、気を付けて。パルルちゃん、さようなら。また、会えるといいですね。」
跪いてパルルに目線を合わせるブラン。
頭を撫でて別れの挨拶をする。
「はい!」
はにかんだ笑顔で元気に返事をするパルル。
『この人は本当に子供の心を掴むのが上手い。』
パルルと手を繋ぎ門へ向かう、振り向いてブランに手を振り…二人で門を潜った。
****************
[ ドチャルヘ ]は割りと大きい街だ。
その近くの小高い丘に[ 接木の門 ]がある
そして門のそばには、管理棟(兼)宿屋が建っている。
ギルド運営管理なので、ここならタダで泊まれるが…買い物もしたいし、なるべく街の反対側、明日の出発に都合の良い場所に泊まりたい。
なので管理棟で馬を借りて、街に向かう。
ドチャルヘは馬の常足で三十分程の距離がある。
パルルを乗せて馬を操り、街の入り口まで行く。
検問所に馬を預ければ、ギルドの管理棟に返してくれるそうだ。そう話してる間
パルルは私に抱っこされて、馬の頭を撫でていた。
検問所を通り、街に入る。
近くに湖があり、そこには神殿もあるので、人の出入りの多い街だ。
パルルは知らない街に、キラキラした目をキョロキョロさせている。
「これから、今晩泊まる宿に行くけど、通り道にお店が幾つかあるから、服とか揃えよう。その靴もサイズが合ってないしね…」
そう言ってから歩き辛そうなパルルを抱き上げた。
「足が痛くなったら大変だから、抱っこで行こうね。」
いきなり抱き上げられて、顔を赤くするパルル。
『恥ずかしがって…可愛いなぁ♪。見た目は幼い印象なのに…中身はしっかりしたお姉さんなんだよなぁ』
「パルルは弟か妹がいるの?」
そー言えばパルルの家族構成を知らないな、と思い聞いてみた。
「いないよ…って言うか…私は…外で言うところの、孤児院みたいなところで……うーんと…」
パルルの話によると、
パルルの故郷は王都から見て東、海の側の[ オリゾンテ ]と言う街だ。
その街は[ 海の民 ]の一族が得意とする、結界・防御魔法を駆使して街全体を守っている。
かと言って、外との交流がない訳ではない。
もちろん、大人になって街を出る者も沢山いるし、街を出る事は禁止されていない。
街の外で一族以外の人と結婚する者も多数いるし、一族同士で結婚しても外で暮らす人もいる。それも禁止されてない。
ただ一つ絶対的なルールが…
[ 海の民 ]の特性が現れた赤子は大人になるまで、オリゾンテで暮らす。守る為に。
子供が産まれて特性があれば、家族ごとオリゾンテに移住したり、子供だけを街に託す者もいる。
家族と離れて暮らす場合は、[ クラム ]と呼ばれる家で一つの家族のように育つ。
(パルルは[ クラム ]に暮らし、両親は仕事の都合で王都に暮らしていたが、既にどちらも亡くなっているそうだ…)
勿論、捨てられた訳ではないので、家族にも会えるし。監禁ではないので、会いにも行ける。厳重に護衛を付けてになるが…
街ぐるみで子育てしている感じらしい。
家族ごと移住する者も多いので、街には普通の人も普通の子供も大勢居るそうだ。
なので、王都でも周りの人を珍しく見る事はなかったそうだ。
グウゥ〜
そこまで聞いて、パルルと私のお腹が鳴った。
「先に、お昼ご飯を食べようか♪」
二人で笑い合いながら、食事処を探す事にした。
****************
お姉さんに自分の両親の事と、一族のルールの事を話して
「私にはクラムの皆んなが家族なの♪」
って言ったら。
「私もだよ…孤児院の皆んなが家族。」
お姉さんが優しい笑顔で言った。
お昼ご飯を食べた後、服屋に行って
服とか靴を買ってもらった。
「お金はギルドから出されてるから心配しないで、好きなのを選んでいいよ♪」
私は可愛い。
皆んなが「可愛い」って言うからそーなんだと思う…そのせいか、皆んなが可愛い格好をさせたがる。
本当はシンプルで動きやすいのが着たいのに…
だから、「好きなのを選んでいいよ♪」って言われて凄く嬉しかった!
腕の叩かれた傷跡が見えないように、水色のストライプの長袖シャツと紺のキュロットスカートを選んだ。
「良いね♪ 凄く似合ってるよ♪」
靴もピッタリサイズで歩きやすい。
『これで手を繋いで一緒に歩ける。』
と嬉しくなった。
泊まる宿を決めて、靴慣らしに少し街を散策する。とても楽しかった。
夕飯を済ませて、宿に戻り。
一緒にお風呂に入って、髪を乾かしてもらって。
ギルドで貰った服を寝巻き代わりに着て、ベットに入る。
ベットは大き目のが一つの部屋だった。
「明日は早目に宿を出て、馬車で次の街[ フィーツ ]に繋がる門に行くからね。早目に寝ちゃおう♪」
その夜お姉さんの、魘される声で目が覚めた……
****************
私達家族は身の安全を求めて、転々と移り住んでいた…
私と弟の特殊な血のせいでだ…
私の血はルビーに、弟のセリージャはガーネットに結晶化する。
そのせいで悪い奴らに狙われる。
両親は普通だったが…母さんのお祖父さんがそうだったって。
私達の特性が知られる度に、街を移る。
両親は医者だったので、移り住んでも仕事はすぐに見つけられたが……
流石にいつまでも根無草な暮らしは良くない…と、王都に行き、国の保護を求める事にした矢先だった… 私と弟は攫われた。
私達は、窓の無い部屋に押し込められた。硬いベットがあり、そのベットの柵に鎖で繋がれた。
角の机の上には鉄の杭と金槌があった。
それは痛みと恐怖が形になった物だった……
押さえつけられて、背中に杭を打たれる…
ガキイィン!
「!!!!!!!!!!ッ痛!!」
「ックソ!…硬ってぇなー!…手に響くんだよ!!」
私は暴れて逃げ出そうとするが、どうにもならず…叫ぶだけ…
「痛い!!やめて!痛い!痛いぃ!!助けて!嫌だー!!」
「うるせえな!静かにさせろよ!!」
口に布を押し込まれた…
ガキイィーンッ!!
杭がより強く打ち込まれ、背中からメキッと音が聞こえたと同時に、感じたことのない激痛が走った!
「!!!!!!!!ッグッ!!」
痛みで意識が途切れる…気絶したのだろう。
ボヤける視界の片隅に、ベットの足にしがみついて、涙を流し震える弟の姿が見えた…
可哀想に…次は自分が同じ目に合うのだと…怖かっただろう…
意識を取り戻し、開けた目の先にあるのは、グッタリと倒れている弟の姿と、沢山の結晶化したガーネット
「セリージャ!」
背中に沢山の治りつつある傷跡……
私の背中は傷みの残滓はあるものの、すっかり治っている。
小さい弟の体を抱きしめて思う。
『セリージャがルビーだったら良かったのに…』
私は硬いから…弟の方が楽に血を出せると
自分よりも沢山傷つけられる…こんなに小さいのに…そもそも、こんな血じゃなければ…
父さん…母さん…早く助けに来て…
「父さん…母さん…」
「なぁに?親が助けに来ると思ってんのぉ?」
ポツリと言った私の言葉に、いつの間に入ってきたのか、食事を運んできた女が答えた。
「とっくに殺されるわよ〜あんた達を攫った時にね。ざんね〜ん♪」
女がケラケラ笑いながら言う…
『!?』
弟の体がピクリと動いた。
「セリージャ!」
「……お…ねえちゃん…」
セリージャの目から涙が溢れた。女の言葉が聞こえていたんだ…
「ちゃんと食べなさいよ!血を作らなきゃいけないんだからぁ」
女は面倒臭そうに言って、部屋から出ていった。
二人で抱き合い、泣いた。
父さんと母さんの笑顔が涙の中に滲んで見える……
もぉ会えない…
それから何日も何日も、血の採取と言う暴力は続いた…
傷みとは慣れるものなのだろう。恐怖よりも奴らへの憎しみが募る。血を流す時も気絶する事がなくなった。
しかし、幼い弟は違った。
怯えは取れず…恐怖は拭えず…泣き叫ぶ。
「本当にうるせえなぁ!血が宝石にならなかったら価値の無いゴミ虫なんだから、せめて静かにしろよ!!」
そう言って、男は弟の口に布を押し込む。
『ふざけるな!ゴミ虫はお前らだ!!』
「ウグゥ!!ウゥ!!」
口を塞がれている私は、弟を助けたくて唸りながら暴れる。そしていつも、金槌で頭を殴られて意識を失う。
目を覚ますと、悲惨な弟の姿と沢山のガーネット……私の髪の中からルビーが落ちる。
『どーしよう…』
弟の傷の治りが遅くなっている…
弱っていく弟を抱きしめる。
『誰か…誰か助けて…』
「おい、ギルドの冒険者から探りがあったらしいぞ。」
そんな会話が聞こえた。
『助けが来るかもしれない?…あぁ…早く!…早く弟を助けて…』
私は必死に祈った。
扉の向こうから話し声が聞こえる…
「移動するってよぉ」
「んじゃ、子供を縛らないとねぇ〜」
「ガーネットは弱ってるから、もぉいいってさ。」
「ルビーの方は力が強いから、何人か呼んでこい。」
バタン! 勢いよく扉が開いた。
男が大勢入ってきて
弟を抱きしめていた私は、引き剥がされる。
暴れて男に掴み掛かろうとした私は、やはり頭を金槌で殴られた。
霞む意識の中に見えたのは、泣きながら私に手を伸ばすセリージャだった。
コトン コトン コトン
『…ん……何?…なんの音…』
何かが落ちる音に、意識が戻ってくる。
上手く動けない…手足が縛られているようだ。
見えたのは………
赤い石の小山……上からコトンコトンと落ちてくるガーネット……
目線を上げるとそこには…
逆さ吊りされた頭の無い小さな体。
…息が出来ない…
見たくないのに…目が閉じれない…
…頭は……何処に………
浅い息をしながら、ズリズリと腹這いで赤い石の山に近づく…
上からはまだ赤い石が落ちてくる……
いつから吊るされているのか……
…ガラガラとガーネットを掻き分ける…
「……セリージャ……ここに居たんだね…」
頭を…頭を抱きしめたい…縄が邪魔で上手く拾えない…誰が結んだ?
ゴミ虫どもが…弟を抱きしめる事さえ邪魔をする…
「!!!!う嗚呼ああああああ!!あぁ!!!あ!!!!!」
怒りで体が硬くなるのを感じる!!!
硬化で守られた身体は、出せる力の上限を上げる。
ロープを容易く捩じ切った。
これまで、自分の意思で体を硬くする事は出来なかった……
『今更…』
最初からこれが出来れば……
子供の自分にそんな事が叶うはずもないのは分かっているが、後悔が押し寄せる……
ふらりと立ち上がり
「セリージャ…ちょっと待ってて……」
テーブルの上の金槌を持って、部屋を出た…
ゴミ虫を潰すのは簡単だった…
最初使ってた金槌も、途中でいらなくなった。
殴るだけで奴らは潰れた。
踏み潰すだけで簡単に潰れた。
動きも遅い…力も弱い…
こんなゴミ虫に私達は……………
「うわあぁあーっ!たっ!助けてくれ!!」
何か喋ってる…
「来ないで!!イヤあぁ!化け物ー!」
何言ってるの?
『化け物はお前達じゃないか……』
人間を殺している意識はない…あんな事をするのが人間な筈ない!
ここにいるのはみんなゴミ虫だ…
「……潰さなければ……」
動くものが無くなって…
セリージャの元に戻る……
「…セリージャ…待たせてごめんね…セリージャ………セリージャ…お家に帰ろう…父さんと母さんが待ってる……セリージャ…」
****************
小さな頭を抱きしめ蹲る小さな自分…
涙が止まらない……もぉ立ち上がる力がない…
いつもいつも…同じ所に戻ってくる…
「セリージャ…」
辛い…忘れたくない…でも…思い出すのは辛い……忘れたくない…忘れちゃいけない……でも悲しい…君が居ないのが悲しい……思い出したくない……君が居ないのだと思い出したくない……
私の後ろから、小さな手が伸びてきて、両目を覆った…
『小さくしよう。勝手に出て来ないように包んでおこう。決して忘れないように大切に仕舞っておこう。』
「………誰?」
『忘れないでいいよ。思い出さなくていいよ。見えるように置いておこう。見えないように仕舞っておこう。』
「……見たくないの……忘れたくないの……」
涙が止まらない…
『うん。私がちゃんと仕舞っておくよ。だから泣かないで……私がずっと側に居るから…もぉ泣かないで。』
心の中を占めていた赤が消えていく……
輝く様な白で埋まっていく……
『ずっと側に居る。』
****************
『……………朝…かな?…』
久しぶりによく寝た気がする……
目を開けたのに
『…暗い…』
どーやら、誰かの手が私の目を覆ってる様だ…
そっと手を伸ばして、自分の目元を覆っている手を外す…
『……大きな手……』
『………………………』
「………はぁ?!」
背後から抱きしめられている?!
ガバッと起き上がり背後を見る。
長い長い水色の髪の男が眠っていた………
『…だっ…誰ーーーーーーー?!』
読む専でしたが…書いてみたい願望が芽生え
初めて小説を書きます。なので、練習の為に短編から…
と思ったら。全然短く収まらない……タンペンムズカシイ…
1話が長い連載で、3〜4話で収められたらなぁって思ってます。
なろう様も使いこなせていない上に
なにぶん、初めてなので、、、至らぬ所が多いと思いますが…
暖かい目で見ていただけたら幸いです。
よろしくお願い致します:;(∩´﹏`∩);: