希望と絶望
無閑様が遠征に行かれている間、容澤様が代わりのように連夜訪れた。
なんて事の無い他愛無い話をしてお茶を飲む。
安寧の日々だった。
容澤は太陽のようと評されるように、明るく快活で、話も面白く僕はこの独房に来てから久々に笑って話を聞き入る事が出来た。
「容澤様とお話しすると楽しいです」
本心だった。
「そうかい?私も素直に聞き入ってくれる君がいると楽しいな。無閑はほら、ああいうやつだろう?取り巻きも持ち上げるだけで子安みたいな反応は新鮮だよ」
ふふふと軽く笑う様も美しい。
無閑様とは違う美しさと品位がある。
この兄弟は何故、僕なんかに構うのだろうか。
「あの、容澤様」
「なんだい?」
「容澤様から無閑様に私をこの独房から出していただけるように申し上げていただけませんか?私の言葉では聞いていただけず…。兄君であらせられる容澤様のお言葉なら聞いていただけると思うのです」
必死の懇願だった。
容澤様は少し考える素振りをして首を横に振った。
「あの父上の言うことすら素直に聞いてまで君を手元に置こうとしているのだもの。私が言ったところで聞かないだろう」
「そんな……」
確かに、無閑様は僕のことを王に苦言を呈されて黙らせるために戦で戦果を上げるために向かったらしい。なんで僕なんだろう。
それに、容澤様も仰っていた。幼少期から僕に執着していたらしい。
そんなの知らない。僕は馬係になって初めて無閑様とは顔を合わせたはずだ。
「あの、容澤様は仰いましたよね?無閑様は幼少期から私に執着していると仰っておりましたよね?ですが私には幼き頃に無閑様にお会いした記憶がないのです」
その問いに容澤様は笑みを深くした。
「教えない」
遊ばれている。
咄嗟にそう思った。
容澤は僕をここから出さないと仰ったけれど、本当にそうなのかすら怪しくなってきた。
どちらにしてもこの方は僕の味方にはなってくれないらしい。
「そうですか…」
諦め、失意にいる僕を容澤様がどんな顔をして見ていたかなんて知らなかった。
「それより、無閑なんかの話よりもっと面白い話があるんだ。ここよりずっと西の話でね」
容澤様は何かを隠すように話を続けた。
僕はまた心を閉ざした。容澤様のお話にも、もう笑えなかった。