従属
無閑様のものになれと言われて数日が経った。
あれから何度か顔を見せるが他愛無い話ばかりでなんら強制はない。
あの言葉は思い違いじゃ無いかと思うが、ねっとりとした無閑様の視線がそれを否定する。
視線を避けられない、肌にまとわりつくような圧迫感。
僕は耐えた。
誰かがこの状況をなんとかしてくれないかとただ待つだけだった。
だけど、そんなことは無理だと分かっている。
無閑様に進言出来る方なんて限られている。
そしてその方々は僕のことなんて知らないだろう。
一人の時は恐怖と孤独で震えて布団の上でじっと足を抱えていた。
今が何日かもわからない。
母は、同僚はどうしているだろう。
疑問は尽きないが、無閑様に反する人などいないだろう。
障子の向こうに、虫の音が消えた静けさだけが満ちていた。
その日の夜も無閑様は訪れた。
椅子に座る無閑様の食事の共をする。
ただ過ぎる日々にこちらから問い掛けてしまおうかと顔を上げたところで無閑様と目が合った。
そして、無閑様が仰った。
「この生活には飽いたか?」
どう返答するか悩んでいると、無閑様が近付いてきた。
「助ける代わりに、お前は私のものになる」
助けるも何も、この状況は無閑様が作ったものだ。
僕の声が震える。
「どういう、ことですか?」
「そのままの意味だ。お前は私のものになる」
今だってそうじゃないか!
叫び出しそうになる言葉を飲み込んで項垂れる。
従うしかないんだろうか。
「子安」
無閑様から手が伸ばされる。
「お前の自由は既に私の手の中にある。お前が望まぬなら望ませてやろう」
僕は、その手を眺めてこの方のものになることを了承する意味でその手を取り口付けた。