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二人の王子と馬係

僕が生まれる前に、王家を巡る陰謀があったらしい。

らしい、というのは十数年前のことで今は二人の王の子のどちらが王位を継ぐのかで話題が持ちきりだ。

でも、後継は決まっている。

継承権を考えれば余程のことがない限り覆ることはないだろう。

この国の正室の子であり後継である彼、慕容澤様は太陽のような方だと常々思っていた。

優しく柔らかく、陽だまりのような方。

アポロンが人間ならばこんな方ではないかという噂があるほどに。

対して弟君であり、側室で慕の性を受け継がなかった彼、楊無閑はアルテミスだった。

アポロンとは双子の月と夜の女神。

いつも静かで静寂を好むかと思いきや、争いではその弓で相手を黙々と射止める。

後継の資格はないとされているのに、彼を推す声が多いのはそのカリスマ性だろう。

だけれど、僕は彼が恐ろしかった。

彼の目も何もかも。

見透かされているようで、目が合えばただ立ち尽くすしかない。


無閑様とは彼の馬を飼育する関係で少しは知り合いだ。

だけれど、親しく話したことなんてない。

ただただ彼の愛馬の世話をしてお乗りになる際に彼に使える使者にお渡しするだけの関係だ。

だけれど、彼はその間に常にこちらを見ている。

勘違いかと思ったけれど、どうにも違うらしい。

僕はあの目が怖い。

平伏している間にも突き刺さる視線に震えることがない日はなかった。


「趙子安」

それはある日突然訪れた。

無閑様の使者が単独で訪れた。

「お前が世話をしていた無閑様の相馬が暴走し無閑様が落馬した。この罪はどう償う?」

そんなの、僕の知ったことではない!

確かに今日の馬は少し荒ぶっていたことも事実だ。

けれどそれはきちんと進言した。

平伏しながら辿々しく進言すると言い訳をするなと無理矢理立たされて独房に連れて行かれた。

突然のことでパニックになりながらも兵に両腕を掴まれて連行されれば大人しく従うしかなかった。


独房に入れられて数日が経った。

独房、というには普通の…いや、僕の自室より豪奢な部屋だ。

何部屋もあり、寝室には天蓋まで付いている。

困惑する日々に窓にはめ殺しにされた鉄枠を握る。

美しい窓枠に無粋な鉄の柵が視界を奪う。

僕はこれからどうなるんだろう。

最初は怯えて暮らしていたけれど、何をされるでもなく、見たことのない食事を三食出されて僕は段々と享受し始めた。

そんなある日のことだった。

いつものようにノックをされて、食事の時間かと思い入室を許可した。

現れたのは無閑様だった。

僕は座っていた椅子から慌てて床に膝をつき平伏した。

無閑様が近付いてくる。

下位の僕から話し掛ける事は許されない。

じっと無閑様のお言葉を待つ。

「趙子安」

「はい」

長年仕えておりながら、言葉を交わしたのは初めてだった。

「お前は罪人になったんだ」

罪人。

この豪奢な部屋で忘れかけていたがそうだ僕は無閑様の愛馬の世話を損ない落馬させたのだ。

「落馬されたとお聞きしました。お怪我はありませんでしょうか?」

「大事ない」

「そうですか」

良かった。

安堵する間もなく顎を掴まれ上を向かされる。

眼前に広がる無閑様の美しいお顔。

「このままではお前は死刑になるかもしれない。まあ、何かしらの罪はあるだろう」

「はい」

それよりもこの近さはなんだ?

困惑する僕に無閑様が変わらない表情を初めて変えた。

「どうする?助けてやれるのは私しかいない。お前が私のものになるなら助けてやる」

悪魔の囁きだった。

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