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青年のメカ

明日なんていらない。ここにいても生きている心地がしない。蒸気が出るその背中は泣いていた。自分が何者でもないと思うと無性に死にたくなる。風呂桶を持ち自分の顔を覆うように被ると、水の中の目は口のような形になる。


「恵まれてるなぁ」


これは溜め息でもある。

やるせない日々を憂いている。

風呂で寝ると気持ちいいが明日のために

生きることにした。


今日はワクワクしていた。

昨日賞味期限切れのパンを頬張り、真夏なのに1日放っておいた緑茶を飲んだからじゃない。


今日は美術館に行くのだ。トリックアートは好きだ。昔の偉大だという画家の作品を出来る過程を想像して楽しむ。まあ日頃の検査と薬ばっかりの生活よりはいい。そう思っていた。


親は僕が起きたのを確認すると代わりに昼食を受け取り、筆記用具、GPSを渡してくれる。身支度を済ませ玄関から新しい一日の扉

が自動で開く。


家の外に一歩出た瞬間に、僕の担当さんが丁寧に挨拶してくれる。


「本日は、9時に美術館見学。1時に昼食。2時から検査でございます。」


担当さんは目を見て体を触ると

垂れ目を絞りニコッと笑った。

次に目的地まで届けるためのBOXカーに乗せてくれるはずだ。

僕は毎日担当さんにこう言う。


「本日も私の送迎をしてくださり、アリガトウゴザイマス。」

「いえいえ私の仕事ですので、当然のことでゴザイマス。」


我心護身。

ポット出素人の一発芸。えい。


僕は昨日届いた緑茶を担当さんのズボンにぶかけた。

相方も素人のようだった。

担当さんはマニュアル通り落ち着いて、手に持っているスイッチを操作し体を乾かしている。


「何てことをするんですか」


おそらくしっかりと水を拭きとったハンカチを手にしながら、一階まで響くように叫んだ。


いったい誰と会話しているんだろうか。


BOXカーと真逆の方向に走り出す。近くの交差点を右に曲がり、僕が昨日用意したレジャーシートで端に隠れる。


よし、上手くいった。


せめて10分、檻を実感したかった。

周りにはニュース番組と体操が大好きな児童たちの待ちに待った朝のラジオが聞こえる。


心臓の音がようやく聞こえなくなると、

児童の健康は保たれる。


「H15-03660無事確認いたしました。現在10秒程遅れているためBOXカーの速度を80km/hから81km/hに変更いたします。」


そう担当さんは誰かに報告をすると、

ユリのような笑顔で見つめる。


「ではこちらのBOXカーにお乗りください。それと何か言うことがありませんか。」

まるでアナウンサーのように滑舌がいい。

綺麗な人だ。

綺麗な人を見ると自分も綺麗でありたいと思う。

美しく健康で優しい、今を包み込むような偶像に答える。


「水をかけて担当さんを困らせてごめんなさい。」


こんな年になっても謝る時感じるのは、

反省具合は変わっていないことだった。

拙くうわべの言葉にも、

満面の笑みでわたしを抱きしめてくれた。


「ではこちらのBOXカーにお乗りください。」


撫で肩になった背中をゆっくりと起こし、

箱の中に入る。


「到着は8時30分ごろになるでしょう」


今の顔は今日見る絵画よりもシワが深いだろうな。

青年のメカは電源を抜かれる。


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