第65編「さざなみのメロディ」(キャッチコピー:波のさざめきに紡がれる、ふたりだけの冒険と約束の物語)
それは、大きな帆を掲げた船が見えなくなるくらい遠くへ進んだ後の話だった。どこまでも続く青い海、その上にぽっかりと浮かぶまるでひょうたんのような形をした奇妙な島。この島では、海賊も学者も、機械の天才も、みんなが何となくで生きていた。そして、その中には二人の少女がいた。
島の北側にある、ひっそりとした入り江――そこは誰も来ない秘密の場所だった。今日も、潮風の中で波の音が静かに響いている。その入り江の砂浜に座っているのは、ミナモとカレンの二人だ。
「ねえ、カレン。あの大きな船、どこまで行ったと思う?」
ミナモが貝殻をいじりながら尋ねる。彼女の髪は陽射しを受けて、まるで金色に輝く波のようだった。
「さあね。あの船に乗ってた人たちのこと、もう覚えてる人なんていないかも。」
カレンは遠くを見つめたまま答える。短く切り揃えられた黒髪が風に揺れている。その表情はどこか影が差していた。
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二人は、島の中でも少し変わった存在だった。ミナモはいつも明るく元気で、まるで陽の光そのもののような少女。一方のカレンは、いつも冷静で少しとっつきにくいけれど、芯の強さを感じさせる少女だった。
彼女たちが出会ったのは、一年前。島の南側でミナモが落とした宝物のペンダントを、カレンが拾って届けたのがきっかけだった。それ以来、二人はよく一緒にいるようになり、いつの間にか島で「コンビ」と呼ばれるようになった。
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ある日、島に奇妙なものが流れ着いた。それは、大きなガラスの球の中に小さな音符の形をした彫刻が閉じ込められているものだった。
「これは……何だろうね。」
ミナモは、砂浜でそれを拾い上げると、光にかざして見た。
「きっと、どこか遠い場所から来たものよ。」
カレンは冷静に答える。
「遠い場所か……ねえ、カレン。この島から出たら、どんなところが見えるんだろう。」
その言葉に、カレンは少し驚いた顔をした。
「この島から出たいの?」
「うん……ちょっとだけ思うことがあるの。だって、島の外には知らないことがいっぱいあるんでしょ?」
ミナモの言葉に、カレンは答えなかった。ただ、少しだけ眉をひそめて海の向こうを見つめていた。
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その夜、島の空には満天の星が広がっていた。二人は島の中央にある丘の上で、星を見上げていた。
「ミナモ、もしもこの島を出るとしたら……私も一緒に行ける?」
カレンがぽつりと呟いた。その声には、いつもの冷静さが少しだけ崩れた響きがあった。
「何言ってるの?カレンがいなかったら、私、一人じゃ何にもできないよ。」
ミナモの言葉に、カレンは少しだけ微笑んだ。
「……それならいい。」
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翌朝、二人は秘密の入り江で、小さな舟を作り始めた。それは島を出るためのものではなく、ただ二人だけの「逃避行」の道具だった。
「カレン、ここに舵をつければ完成だよ!」
ミナモが笑顔で言うと、カレンは頷きながら舟の舵を固定した。
「これで、どこまでも行けるわね。」
その言葉に、ミナモは小さく笑いながら言った。
「でも、行けるのはせいぜいこの入り江までだよ。」
二人は目を合わせて笑った。その笑いの中には、どこか寂しさが混じっているように見えた。
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舟が完成してから数日後、二人はその舟に乗り込んだ。入り江の奥まで進んでいくと、周囲は静けさに包まれた。
「ミナモ、私はきっと、この島から出ることなんてできないと思う。」
カレンが言った。
「そんなことないよ。だって、私たちならどこへだって行けるんだから。」
ミナモは微笑みながら言ったが、その笑顔の奥に少しだけ不安が見えた。
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その日、舟を岸に戻した後、カレンはふと振り返った。
「ミナモ、ありがとう。あなたがいてくれて、本当に良かった。」
その言葉に、ミナモは少し驚いた顔をしたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「なにそれ、変なこと言わないでよ。」
夜の入り江に、二人の笑い声が静かに響いた。




