第64編「天裂きの双星」(世界の裂け目を越えた先で、二人だけの真実を掴む)
空が割れた。その裂け目から覗くのは、燃え上がるような赤い光と、世界そのものを飲み込もうとする暗黒の影だった。高天原市の上空に広がる異常現象に、人々はただ立ち尽くしている。
「やっぱり、始まったんだね……」
宮坂真奈は、校舎の屋上でその光景を見つめていた。制服のスカートが風に揺れ、彼女の短く切り揃えられた髪が頬に張り付く。
「真奈、ここにいたのね。」
静かに声をかけたのは、同じクラスの友人、天草綾音だった。綾音の長い黒髪が月光を受けてきらりと輝く。その手には、奇妙な模様が刻まれた古びた短剣が握られている。
「綾音、来るなって言ったのに。」
真奈は振り返り、苦笑するように言った。その瞳には、どこか遠くを見ているような寂しさが宿っていた。
「放っておけるわけないでしょ。あなたが選ばれたことも、戦う運命にあることも、全部知ってるんだから。」
綾音の声には迷いがなかった。だが、真奈は視線を逸らし、空に広がる裂け目を再び見上げる。
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それは、数ヶ月前のことだった。
高天原市の郊外にある神社で、真奈と綾音は偶然、一緒に祠を調べていた。古びた木彫りの扉を開けた瞬間、突如として地響きが起こり、眩い光が二人を包み込んだ。その光の中で真奈が見たのは、自分の体に焼き付けられるように刻まれる奇妙な紋章。そして、「力を受け継ぐ者」としての使命だった。
「その力、私は受け入れたくない。」
真奈はそう言い続けていた。
一方で、綾音の心には別の思いがあった。祠で手にした短剣には、かつてその地を守った神官の力が宿っているとされ、綾音自身もまた、真奈を守るための戦士として選ばれたのだ。
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再び空に広がる裂け目に目を向けた真奈は、拳を握りしめた。その手の甲に浮かぶ紋章が淡い光を放つ。
「この力、私には重すぎるよ。」
呟く真奈に、綾音は一歩近づくと、その手をそっと取った。
「真奈、一人で背負わなくていいのよ。私がいる。」
「でも、あの力に触れるたび、私は自分が壊れていく気がする。自分が、自分じゃなくなってしまう……」
真奈の声は震えていた。その心の奥底にある恐れを、綾音は誰よりも理解していた。
「大丈夫。たとえあなたが変わってしまっても、私はあなたのすべてを受け入れるから。」
その言葉に、真奈は驚いたように顔を上げた。そして、綾音の瞳をじっと見つめる。その瞳には、不思議と静かな炎が灯っていた。
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その夜、裂け目から現れた「影」が市街地を襲った。異形の存在が街を破壊し、人々を恐怖に陥れる中、真奈と綾音は廃工場の中で対峙していた。
「これが終わったら、私たち、どうなるんだろうね。」
真奈が呟く。
「未来のことなんて、今は考えなくていいわ。大事なのは、今、私たちがここにいるってことだけ。」
綾音の声は静かで、それでいて強かった。
「あなたがいなければ、私はこの力を使いこなせなかったかもしれない。」
真奈はそう言って、紋章から放たれる光を見つめる。その光が二人を包み込み、影の群れを切り裂いていく。
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戦いの後、朝日が昇る中、二人は静かに並んで立っていた。
「結局、私たちは何のために戦っているんだろうね。」
真奈の問いに、綾音は少しだけ微笑んだ。
「それを見つけるために、きっと私たちは生きてるのよ。」
その言葉に、真奈もまた微笑みを返した。




