第57編「「心の静寂に咲く花」」(言葉を超えた静寂の中に、愛は芽吹く)
その村は、乾いた風と広がる砂地に囲まれていた。鳥のさえずりすら静まり返るような午後、陽光が白く眩しい中で、サナータとアマヤは一本の大樹の下に座っていた。村の唯一の水場から離れた場所に佇むこの大樹は、彼女たちにとって特別な場所だった。
サナータは、村でも評判の勤勉な少女だ。瞳の奥には強い意志が宿り、その言葉はいつも穏やかで、誰もが彼女の中に揺るぎない芯を感じていた。一方で、アマヤは、明るさと奔放さを持ちながらも、どこか影を引きずるような雰囲気をまとっていた。
「サナータ、今日はやけに静かね。」
アマヤがふっと笑いながら問いかける。その笑顔は、サナータにとって太陽よりも輝いているように見えた。
「アマヤ、静けさは大切なことよ。言葉がなくても、感じることができることがあるわ。」
「また難しいことを言うのね。でも、そういうところが好きよ、サナータ。」
アマヤは冗談めかして言いながら、そっとサナータの肩に寄りかかった。その仕草は軽やかで自然で、それでいて確かな温もりがあった。サナータは一瞬だけ驚いたが、すぐに優しく微笑んだ。
「アマヤ、あなたはいつも言葉で気持ちを伝えるわね。でも、言葉だけが真実を伝える手段ではないの。」
「どういうこと?」
「例えば、この風。私たちが言葉にしなくても、ここに流れる風が私たちを包み込んでいるのを感じるでしょう。それと同じよ。」
アマヤは少し黙り込んだ。その目がじっとサナータを見つめる。そのまっすぐな視線にサナータは少しだけ照れながらも、目を逸らさなかった。
「ねえ、サナータ。私があなたを好きだっていう気持ちも、言葉にしなくても伝わってる?」
アマヤの問いかけに、サナータの心は一瞬だけ揺れた。彼女は深呼吸をして、答えた。
「ええ、あなたの行動や仕草、すべてが私にその気持ちを教えてくれるわ。」
「でも、私は伝えたいの。ちゃんと、あなたに。」
そう言いながら、アマヤはサナータの手をそっと握った。その手は少しだけ震えていて、それがアマヤの真剣さを物語っていた。サナータはその震えを感じながら、穏やかな声で言った。
「アマヤ、私はあなたのその誠実な心が好きよ。それが言葉にせよ、行動にせよ、私にとって大切なのは、あなたがここにいるということ。」
アマヤの瞳に小さな涙が浮かぶ。それを隠すように、彼女は少しふざけた声を出した。
「また難しいこと言うのね。でも…ありがとう、サナータ。」
サナータはそっとアマヤの髪に触れた。その仕草はまるで、風に触れるような優しさで、アマヤはその温もりに目を閉じた。
砂の上で二人の影がゆっくりと重なっていく。言葉にできない思いが、確かな絆となってその場を包んでいた。大樹の葉が揺れ、風が二人の間を静かに吹き抜けていく。
その静寂の中で、二人はただそこにいるだけでよかった。言葉を超えた愛が、確かに彼女たちの心を繋いでいたからだ。




