第53編「相対性の恋」(光速を超えられなくても、私たちの愛は永遠を超える)
光はどこからやってくるのだろうか。そして、それはどのようにして私たちの目に届くのだろうか。少女・イサベルは、窓際の木製の机に腰掛けながら、そんなことをぼんやりと考えていた。彼女の手元には一冊の分厚いノートが広げられている。そのページには数式がびっしりと書き込まれ、ところどころに挟まれたスケッチには星や惑星のようなものが描かれている。
イサベルの隣には、もう一人の少女、マリナが座っていた。彼女は金髪をゆるやかに結い上げた華奢な少女で、好奇心の塊のような瞳を輝かせている。
「イサベル、まだ考えているの?」
「考えるという行為に終わりはないわ。特に、相対性の問題に関してはね。」
「でも、イサベルが考えてること、私には少しもわからない。光の速さが変わらないとか、時空が曲がるとか…。」
マリナの言葉に、イサベルは微笑む。彼女はペンを置き、ノートから目を離してマリナに視線を向けた。マリナの横顔は、光を透かした薄い絹のように柔らかく輝いていた。
「マリナ、たとえば…あなたが遠くの星に旅をするとするでしょう。そのとき、あなたにとっての時間は、ここにいる私の時間とは違う速度で流れるのよ。」
「どういうこと?」
「あなたが光の速さに近づけば近づくほど、あなたの時間は遅くなる。そして、もし光の速さに達するなら――まあ、それは理論上の話だけれど――あなたの時間は完全に止まるの。」
マリナは目を瞬かせた。何か理解したような、していないような、曖昧な表情を浮かべている。それがあまりに可愛らしくて、イサベルは思わず口元を緩めた。
「つまり、マリナが光になれば、ずっとここにいられるってこと?」
「ええ、そうとも言えるわ。でも、光になるなんて非現実的なことよ。」
「でもさ。」
マリナはイサベルの手をそっと握った。その手は暖かく、小さく震えているように思えた。
「私は、イサベルとずっと一緒にいたい。時間がどんな風に流れたとしても。」
イサベルの胸がきゅっと痛んだ。相対性理論も、光速も、宇宙の法則も、マリナのその言葉の前では何の意味も持たなかった。ただ一つ確かなのは、彼女自身も同じように願っているということだった。
「マリナ…。」
イサベルはそっとマリナの頬に手を伸ばした。その肌は柔らかく、触れた瞬間、すべての理論が音を立てて崩れるような感覚に襲われた。
「私たちの時間がどんな風に歪んでも、どんなに引き伸ばされても…私はあなたと一緒にいたい。」
「だったら、光にならなくてもいいね。」
マリナはくすりと笑い、イサベルの手に自分の手を重ねた。その温もりが確かで、今ここにある現実が何よりも美しいとイサベルは思った。
外では夕暮れの光が、静かに空を赤く染めていた。その光景は、二人のいる世界を静かに包み込み、どこまでも続く時間と空間を示唆しているようだった。




