第31編「電脳花園でキスを」 (現実と虚構の狭間で、ふたりの愛がすべてを越える)
時は2047年。世界は「電脳メガネ」という技術によって急激に変貌を遂げていた。電脳メガネは、人々の視界に仮想現実を重ね、情報や感覚を自由に拡張する革命的な装置だ。街は仮想広告であふれ、学校の授業はバーチャル空間で行われ、仕事も買い物もすべてがデジタルと融合した世界。しかし、この便利な世界の裏側には、膨大なデータと権力をめぐる暗闘が隠されていた。
紫藤アイリは電脳メガネの開発会社「アルテミス社」の元研究者だった。ある事件をきっかけに会社を辞め、今は平凡な高校生活を送っている。しかし、彼女の目には、他の人には見えない「欠陥」が映っていた。電脳メガネのシステムに潜む「バグ」と呼ばれる歪み。それは、仮想現実と現実の境界が曖昧になる恐怖そのものだった。
一方、天草レイナは学校でも有名な電脳ゲームのチャンピオンで、圧倒的な技術力を誇る少女だ。レイナは仮想空間の戦闘大会で数々の伝説を残し、友人たちからも「仮想女王」と呼ばれていた。しかし、その明るい姿の裏には、失った姉との記憶が埋もれていた。姉は、電脳メガネの使用中に起きた事故で命を落としたのだ。レイナにとって、仮想空間は姉の面影を探す場所であり、同時に真実を突き止めるための戦場だった。
二人が初めて出会ったのは、学校の図書室。
「それ、見えてるの?」
アイリが声をかけた時、レイナは電脳メガネを外し、虚空をじっと見つめていた。
「……ええ。あんたも?」
言葉の意味が通じた瞬間、二人の間に奇妙な連帯感が生まれた。
それから数日後、アイリは学校の裏庭でレイナと再会した。仮想空間に咲き乱れる花々をレイナが操作しているのを目撃したのだ。彼女は姉が好きだった「デジタルガーデン」のデータを再現していた。
「きれい……でも、どこか不安になる」
「仮想現実はそういうものよ。本物みたいに見えて、本物じゃない。でも、だからこそ私はこれに依存してるのかも」
レイナの言葉に、アイリは一瞬息をのんだ。
二人は徐々に友情を深めていくが、ある日、アイリのメガネに映る歪みが激化し、レイナにもそれが見えるようになる。バグの正体は、「アルテミス社」が隠していた違法なデータ操作だった。アイリが辞職する原因となった事件も関わっており、バグは放置すれば電脳メガネを使用する全人類に影響を与える可能性があった。
二人は協力してバグの核心を探る決意を固める。仮想空間にダイブし、巨大なデータバンクを突破する冒険が始まった。戦闘ゲームの経験を活かすレイナと、プログラムの深部を解析するアイリ。二人の息はぴったりだった。
「すごい、アイリ! こんな複雑なコード、どうやって解いてるの?」
「あなたが敵を引きつけてくれるおかげよ。……それに、レイナがそばにいてくれると不思議と集中できる」
顔を赤らめながらも、アイリは微笑んだ。
しかし、仮想空間の最奥で待ち受けていたのは、アルテミス社が密かに開発していた「電脳AI兵器」だった。現実世界に影響を与えるその存在に、二人は全力で立ち向かう。アイリの冷静な判断と、レイナの大胆な行動が交錯し、ついに電脳AIの中枢を破壊することに成功する。
現実世界に戻った二人は、互いを見つめ合った。
「……ありがとう、アイリ。一人だったら、絶対に無理だった」
「私も。レイナがいてくれたから、ここまで来られた」
仮想花園の中で、二人はそっと手を取り合い、約束を交わす。「これからも、一緒にどんな世界でも歩んでいこう」と。




