第24編「赤い花のひらくとき」(初めての不安も、一緒なら優しい記憶に変わる)
「どうしよう……」
放課後の保健室、その片隅で、小野塚柚月は顔を真っ赤にしてうつむいていた。椅子に座る彼女のスカートには、ほんの少しだけ赤い染みがついている。その視線は硬直し、どうすればいいのか分からないという気持ちが全身に表れていた。
「柚月、大丈夫だよ。」
隣で声をかけたのは、同じクラスの桐生沙耶。沙耶は、どこか落ち着いた雰囲気を持つ頼れる存在で、柚月が真っ先に頼ったのも彼女だった。
「これ、きっと初めての“アレ”だよね。」沙耶は少し笑いながら言った。「驚くよね、初めてだと。」
柚月は小さく頷く。その仕草には不安が滲んでいた。
「……どうしたらいいの?」
その一言に、沙耶は微笑みながら柚月の手をそっと握った。温かい手の感触に、柚月は少しだけ安心したような表情を浮かべる。
「大丈夫。私が教えてあげるから、怖がらなくてもいいよ。」沙耶の声は優しく穏やかで、それだけで柚月の不安を少しずつ溶かしていくようだった。
沙耶はカバンからポーチを取り出し、その中から生理用品を取り出した。それは薄いピンクのパッケージに包まれたナプキンだった。
「まずはね、このパッケージを開けるんだ。」
沙耶は柚月の目の前で丁寧にナプキンのパッケージを開く。それを見ていた柚月は、小さく「へえ……」と驚きの声を上げる。中から出てきたのは、白くて柔らかな生地のナプキン。
「これがナプキンっていうの。これをショーツに貼って使うんだけど、まずは……ほら、ここを剥がすんだよ。」
沙耶はナプキンの裏側についているテープを指差しながら説明する。その指先は慣れた動きでテープを剥がし、粘着部分を露出させた。
「そしたらね、ショーツの内側にこうやって貼るの。」
沙耶は実際に貼り付ける動作を見せるようにして説明を続ける。その動きはあくまで丁寧で、柚月が少しでも安心できるようにという気遣いが込められていた。
「でも……上手くできるかな……」柚月は不安そうに呟く。
「大丈夫。失敗してもいいんだよ。」沙耶はそう言って微笑む。「最初は誰でも不器用だし、慣れるまで時間がかかるものだから。」
柚月は沙耶のその言葉に少しだけ勇気をもらったようで、小さく頷いた。
「でもね、貼るだけじゃなくて、一つだけ大事なことがあるの。」
沙耶は優しく柚月の手を握りながら、視線を合わせて言葉を続ける。
「それは、自分の体をちゃんと気遣うこと。もし違和感があったら無理しないで取り替えること。痛かったり、気になることがあったらちゃんと相談すること。それだけでいいんだよ。」
その言葉に、柚月の表情が少しだけ和らいだ。
「じゃあ、やってみようか。」沙耶はナプキンを柚月に手渡し、そっと立ち上がった。「トイレでゆっくり試してみて。それで分からなかったら、また呼んでね。」
柚月は少し緊張しながらも、ナプキンを持って保健室のトイレへと向かった。その背中を見送りながら、沙耶はそっと胸を撫で下ろした。
数分後、トイレから出てきた柚月は少しだけ頬を赤らめていたが、その顔には安堵の表情が浮かんでいた。
「できた?」沙耶が尋ねると、柚月は小さく「うん」と頷いた。
「よかった。これで、もう大丈夫だね。」沙耶は安心したように笑顔を見せた。そして、ふと柚月の髪をそっと撫でた。
「本当にありがとう……沙耶ちゃんがいてくれてよかった。」柚月は恥ずかしそうに言いながら、沙耶に顔を向けた。
「いいんだよ。これからだって、何でも相談してね。」沙耶は優しくそう言いながら、柚月の肩に軽く手を置いた。その温かさに、柚月はほんのり微笑む。
こうして、二人の間にはこれまで以上の信頼と絆が芽生えた。




