第22編「君を包むリボン」(初めてのリボンを結ぶとき、二人の心も結ばれる)
更衣室に響く足音と、微かに揺れる窓のカーテン。夕焼けの色が差し込むその空間で、花隈紬は少し緊張した面持ちで立ち尽くしていた。手には真新しい白いブラジャー。タグはまだ外されていない。
「そんなに緊張しなくてもいいのに。」
声をかけたのは、紬の親友であり、同じクラスの鈴守結だった。結は床に座り込んだまま、紬を見上げて優しく笑っている。
「だって……」紬は顔を赤らめ、視線を彷徨わせた。「これ……どう着けたらいいか、全然分からなくて。」
ブラジャーという存在が紬にとっていかに未知のものか、その表情を見ればすぐに分かった。ふわりとした小柄な体に、紬特有のあどけなさが残る顔。そんな彼女にはまだ早いのではないかと誰もが思うかもしれない。でも、身体の成長は本人の気持ちとは関係なく進むものだ。
結は立ち上がると、紬にそっと手を差し伸べた。「じゃあ、私が教えてあげる。ここで一緒にやってみよう?」
「……結ちゃんが?」
紬は少し戸惑ったように目を瞬かせた。だが、彼女の差し伸べた手には安心感があった。信じても大丈夫だ、という確信。紬は小さく頷いてその手を取った。
「まずはね……これ、タグを外そうか。」結は柔らかい声で言いながら、ブラジャーのタグを器用に外す。次に、それを紬の手に渡した。
「後ろのホック、ここを見て。こうやって留めるの。」結は自分の手でブラのホックを示しながら、簡単な動きを見せた。紬はじっとその動作を見つめている。
「ちょっとやってみて?」結がそう促すと、紬はぎこちない手つきでホックを動かし始めた。
「ん……これ、うまく留まらない。」
紬が困ったように眉を下げる。その様子を見て、結は笑いながら彼女の背後に回り込んだ。
「大丈夫、私が手伝ってあげる。」
結は紬の小さな肩に手を置き、その指先でゆっくりとホックを留める。背中越しに伝わる温かさに、紬はなんだか落ち着かない気持ちになった。
「ほんとはちょっと前かがみになって、カップの中でおっぱいを整えるんだけど……紬ちゃんにはまだ必要ないかな?」
「もう! 結ちゃん!!」
「あはは、ごめんごめん。次は、肩ひもね。これを、肩にかけるんだよ。」
結の指先が紬の肩に触れる。その感触は驚くほど優しく、紬は少しだけ体を強張らせた。でも、結の手は決して急かしたり、押し付けたりしない。ただ彼女が自然に身を任せられるよう、穏やかに動いていた。
「ほら、紬ちゃん。こっちも。」結は紬の目の前に立ち、肩ひもを軽く引き上げてもう片方の肩にかけた。「これで完成……かな。」
紬は恐る恐る、自分の胸元を見下ろした。ブラジャーはきちんと体にフィットしていて、違和感はあったけれども、どこか安心感もあった。
「どう? 苦しくない?」結が顔を覗き込むようにして尋ねた。
「……ちょっと変な感じだけど、大丈夫かも。」紬は恥ずかしそうに笑った。
「よかった。似合ってるよ。」結が笑顔でそう言うと、紬の頬はさらに赤く染まった。
その瞬間、結は手を伸ばし、紬の髪をそっと撫でた。その仕草に紬は驚いたが、不思議と嫌な感じはしなかった。それどころか、胸の奥に暖かいものが広がっていく。
「紬ちゃん、これで一歩大人に近づいたね。」結は少しからかうように言った。
「も、もう! からかわないで!」紬は慌てて結に向かって手を振り上げたが、その顔には笑みが浮かんでいた。
こうして、二人の距離はさらに近づいていった。結が紬の初めての「特別な時間」を優しく支えたその日、彼女たちの間に新たな絆が生まれたことは間違いなかった。




