第2編「夜明け前、君と唄った」(すこし不良っぽい彼女に惹かれてわたしは……)
校舎裏の煙草の匂いは、少し湿った夜風に乗ってどこかへ消えていった。
私はその匂いを吸い込むたび、何度も名前を呼ばれるような気がして、振り返った。でも、そこには誰もいない。誰もいないのに、世界だけが私を置いて、くるくると回っていく気がした。
「春菜、またここにいるの?」
声がした。間違いようのない声。私の耳に焼き付いている、月島怜の声だった。
振り向くと、彼女が制服の袖を少しまくり、校舎裏の薄暗い影から現れるのが見えた。怜は私を見つけると、小さく笑ってから、すぐに真顔に戻った。
「何か隠してるでしょ?」
彼女が鋭く問いかけてくる。私は何も答えられなかった。手に持っていた煙草を背中の後ろに隠す。それを見透かすように、怜は私に一歩近づいてきた。
「煙草なんて吸わなくても、生きられるよ。」
その言葉が、私の胸を抉るように響いた。怜の目はいつだって正しくて、どこか冷たくて、私の全てを暴こうとしてくる。それが好きだった。それが、嫌いだった。
「怜には分からないよ。」
やっと出てきた言葉は、薄っぺらで、どこか遠く感じられた。私は自分の声にさえ怯えていた。怜は小さくため息をつき、私の隣に腰を下ろす。
「分からないことなんてないよ。」
そう言いながら、彼女は私の手を引っ張り、隠していた煙草を取り上げた。そして、それを無造作に地面に落とし、踏みつけた。
「……馬鹿みたい。」
怜はそう呟いて、夜空を見上げた。星なんてほとんど見えないのに、彼女はじっと見つめている。私はそれを黙って見ているしかなかった。
「春菜、さ、歌おう。」
不意に、怜が言った。
「歌?」
驚いて聞き返すと、彼女は笑った。その笑顔は、いつも以上に柔らかくて、少しだけ幼く見えた。
「うん、何か歌いたい気分なんだ。夜のこの感じが、私を突き動かしてる。」
意味が分からなかった。けど、怜がそう言うと、何でも正しい気がした。怜が私の世界に指を触れると、私の中のすべてが溶けていくみたいだった。
「でも、何を歌うの?」
怜は目を細めた。そして、少しだけ考えるふりをしてから、そっと口ずさんだ。
「例えば、自由の歌とか。」
自由、そんなものはここにはない。けれど、怜といると、それが少しだけ掴めるような気がする。彼女は歌い始めた。まだ声が掠れていて、不安定だけど、まっすぐな声。
私は黙って聞いていた。いや、聞いていたというより、その声にしがみついていたと言う方が正しいかもしれない。
「春菜も歌って。」
怜が言う。私は一瞬戸惑ったけれど、彼女の瞳を見た瞬間、何もかもどうでもよくなった。だから、歌った。声が震えた。でも怜は笑った。その笑顔を見て、私も笑っていた。
この瞬間だけが本当だった。
何もかもが曖昧なこの世界で、怜の声と私の声が混じり合う。その音だけが、私たちの自由だった。
夜の風が冷たく吹き抜ける。その風の中で、私たちはただ歌い続けた。誰もいない校舎裏で、誰にも届かない歌を、夜明けが来るまで。
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**Would you like to continue the output?**
1. Yes
2. No了解しました!尾崎豊のような詩的で、反抗心や切なさ、若者特有の痛みと渇望を感じさせる作風を意識して百合物語を書きます。以下に物語の冒頭をお届けします。
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**Novel Output**:
**Title:「夜明け前、君と唄った」**
校舎裏の煙草の匂いは、少し湿った夜風に乗ってどこかへ消えていった。
私はその匂いを吸い込むたび、何度も名前を呼ばれるような気がして、振り返った。でも、そこには誰もいない。誰もいないのに、世界だけが私を置いて、くるくると回っていく気がした。
「春菜、またここにいるの?」
声がした。間違いようのない声。私の耳に焼き付いている、月島怜の声だった。
振り向くと、彼女が制服の袖を少しまくり、校舎裏の薄暗い影から現れるのが見えた。怜は私を見つけると、小さく笑ってから、すぐに真顔に戻った。
「何か隠してるでしょ?」
彼女が鋭く問いかけてくる。私は何も答えられなかった。手に持っていた煙草を背中の後ろに隠す。それを見透かすように、怜は私に一歩近づいてきた。
「煙草なんて吸わなくても、生きられるよ。」
その言葉が、私の胸を抉るように響いた。怜の目はいつだって正しくて、どこか冷たくて、私の全てを暴こうとしてくる。それが好きだった。それが、嫌いだった。
「怜には分からないよ。」
やっと出てきた言葉は、薄っぺらで、どこか遠く感じられた。私は自分の声にさえ怯えていた。怜は小さくため息をつき、私の隣に腰を下ろす。
「分からないことなんてないよ。」
そう言いながら、彼女は私の手を引っ張り、隠していた煙草を取り上げた。そして、それを無造作に地面に落とし、踏みつけた。
「……馬鹿みたい。」
怜はそう呟いて、夜空を見上げた。星なんてほとんど見えないのに、彼女はじっと見つめている。私はそれを黙って見ているしかなかった。
「春菜、さ、歌おう。」
不意に、怜が言った。
「歌?」
驚いて聞き返すと、彼女は笑った。その笑顔は、いつも以上に柔らかくて、少しだけ幼く見えた。
「うん、何か歌いたい気分なんだ。夜のこの感じが、私を突き動かしてる。」
意味が分からなかった。けど、怜がそう言うと、何でも正しい気がした。怜が私の世界に指を触れると、私の中のすべてが溶けていくみたいだった。
「でも、何を歌うの?」
怜は目を細めた。そして、少しだけ考えるふりをしてから、そっと口ずさんだ。
「例えば、自由の歌とか。」
自由、そんなものはここにはない。けれど、怜といると、それが少しだけ掴めるような気がする。彼女は歌い始めた。まだ声が掠れていて、不安定だけど、まっすぐな声。
私は黙って聞いていた。いや、聞いていたというより、その声にしがみついていたと言う方が正しいかもしれない。
「春菜も歌って。」
怜が言う。私は一瞬戸惑ったけれど、彼女の瞳を見た瞬間、何もかもどうでもよくなった。だから、歌った。声が震えた。でも怜は笑った。その笑顔を見て、私も笑っていた。
この瞬間だけが本当だった。
何もかもが曖昧なこの世界で、怜の声と私の声が混じり合う。その音だけが、私たちの自由だった。
夜の風が冷たく吹き抜ける。その風の中で、私たちはただ歌い続けた。誰もいない校舎裏で、誰にも届かない歌を、夜明けが来るまで。