第14編「双星のミネルヴァ」 (光と闇が織りなす世界の調和――それは二人の愛から生まれる)
世界がまだ若く、太陽と月がそれぞれの役割を定めたばかりの頃、天空には二人の女神がいた。一人は「黎明のアリサ」。夜明けの光を司り、新しい命を宿す希望の神。そしてもう一人は「薄暮のセリーヌ」。夕闇を紡ぎ出し、静寂と安らぎをもたらす休息の神。
アリサとセリーヌは、昼と夜が交わるわずかな時間、空の狭間で出会う。黎明と薄暮、二つの境界を守る役割を持つ彼女たちは、光と闇という対照的な力を司りながらも、互いを認め合い、その存在を愛していた。
彼女たちが初めて交わした言葉は、夕焼けが黄金に染まる美しい日だった。
「あなたが、薄暮を司るセリーヌ?」
アリサは雲の端から覗き込み、静かに微笑むセリーヌに話しかけた。
「ええ。そしてあなたは黎明のアリサ……初めて見るけれど、噂通りの輝きね。」
セリーヌは穏やかな声で答えた。
それ以来、二人は夜明けと夕暮れが交わる刹那、空の境界で顔を合わせるようになった。その時間は一瞬で過ぎ去るものだったが、それでも彼女たちはその短いひとときを心待ちにしていた。
ある日、空の片隅に小さな異変が起こった。昼と夜の移り変わりがわずかに乱れ、曙の空が濁り始めたのだ。それはこの世界にとって危機的な兆候だったが、誰よりもその変化を敏感に感じ取ったのは、アリサとセリーヌだった。
「何かが歪んでいる……この空の調和が崩れ始めているわ。」
夕暮れの空で、アリサが眉をひそめると、セリーヌがそっと彼女の手を取った。
「私たちが力を合わせれば、きっと乗り越えられる。あなたは昼の輝きを守り、私は夜の安らぎを守る――それが私たちの役目でしょう?」
互いの手を握りしめたその瞬間、二人の力が交じり合い、かつてないほど強い輝きが空に広がった。金と銀の光が夜明けと夕暮れの狭間を染め上げ、その調和の中で歪みはゆっくりと解消されていった。
それからというもの、二人の絆はさらに深まった。短い邂逅の時間だけでは物足りなくなった彼女たちは、満天の星が降り注ぐ夜に会うことを決めた。夜の湖のほとりで並んで座り、空に瞬く星を見上げながら、彼女たちは語り合った。
「ねえ、セリーヌ。私はずっと、光を与えることばかり考えてきたけれど、あなたに出会ってから気づいたの。闇があってこそ、光は意味を持つのね。」
セリーヌはその言葉に微笑み、そっとアリサの頬に手を添えた。
「それは私も同じよ。闇だけではただの虚無。でも、あなたが隣にいることで、この世界の美しさが広がる。」
二人はそっと額を寄せ合い、静かにその夜を共有した。光と闇の女神としてではなく、一人の存在として、互いを愛し、受け入れる瞬間だった。
やがて、彼女たちの絆は空の調和そのものとなり、世界に穏やかな昼と夜の移ろいをもたらし続けた。黎明と薄暮の時間が黄金色の輝きに包まれるのは、二人が交わす愛の証だった。




