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呪いの祠、壊しちゃった!

 最悪だ。最悪すぎる。じゃんけんで負けただけなのに、こんなに泣きたくなるのは初めてだ。


 ここは別に田舎というほど田舎ではない。

 でも、都会と言えるほど都会でもない。

 そう例えば、中学の裏に山がある程度には。


 2時間くらいかければ、都会にもーーいやもう少しかかるかもしれないけど、都会にも出られる程度の立地。駅からも自転車で23分、そんな場所に建っている僕の中学校は、そんなそこそこの場所に建っているにもかかわらずどこか垢抜けない。



 その理由のひとつが、この山にあると思う。



 ついこの前、やっと体育館にエアコンが入って、近代化したと喜んでいたのが嘘のようなーーそんなことを思わせるものがこの山にある。別に森深くも標高が高くもないけど、名水100選とかいうのに選ばれる沢水がわいている。うーん、絶妙に田舎っぽい。


 まぁでも、そのくらいはいいんだ。

 問題はそこじゃない。

 もっとやばいものが、ここにはある。




 それが『呪いの祠』。




 いつからあるのかもわからず、だれが作ったかも知らない……そういう祠がある。道ばたにあるお地蔵さんや畑にあるお墓なんかは見慣れた僕らでも、古びた鳥居と大きい石に囲まれてたたずむその祠はひるまざるをえない。



 だってその中には、びっしりお札が貼ってあるんだ。



 だれもその祠のことは知らないけれど、でもみんなやばいと思っている。だからその祠の供養のために、毎年そこから近い僕らの中学では鎮魂のお祭りがあるってくらいだ。そして祠自体をそのままにしておくのもなんなのはわかるけど、大人たちはずるいから、中学生の僕らに『郊外活動の一環』とかいって祠の掃除も押しつけている。


 この掃除が、すごい不評。

 というか、心霊的な噂がたえない。

 うーん、やっぱ田舎っぽい。でも、本当だ。



 行ったやつらが口をそろえて言うんだ。



「あの祠から声がするんだ……」

「なんかずっと呼んでくるんだよ」

「私、あの祠がゆれてるの見た!」

「あのあたりだけぜってー寒いんだって!」



 そんな風にいいこと聞かない祠だけれど、きれいにしてるせいなのか、いまの所実害はない。ただ、よそ者が入るときはひとりじゃダメっていまだに言われてる。帰ってこれなくなるからって。……それはさすがに嘘だと思うけど。



 この掃除当番が月に1度クラスに回ってくる。

 そして決まって、校庭掃除班が行くことになる。

 それが今日、僕らの班の予定……だったんだけど。



 竹ぼうきを手のひらに乗せてどこまで走れるか……で盛り上がってたら、祠に行ったら間に合わない時間になってしまった。さすがに授業に遅れるわけにはいかない。僕は1回くらい、バレなきゃいいかと思ったんだけど……。


 同じ班の女子が「だから何回も言ったのに!」と、こわがって泣きだしてしまった。


 まぁ僕らが悪いのは悪い。

 それにこのままじゃ先生にもバレる。

 結局男子3人が怒られて、放課後掃除を言い渡された。



「肝試ししようぜ! じゃんけんで負けたやつが掃除な!」



 そう、クラスでも発言力のあるケンちゃんが言った。小学校から仲のいい友達だ。


 僕は絶対いやだった。

 しかも竹ぼうき勝負は1番だったし。

 だからそれを理由に断った。


 それなのに、ケンちゃんに押し切られた。しかも野球部だから、放課後抜け出せないんだよとか言う。許すまじ運動部の策略、陰キャをなめている。でも、陰キャとも仲良くしてくれるいいやつなんだケンちゃんは。運動部のくせに……!



 だから仕方なく、僕とユウくんとケンちゃんでじゃんけんしたら、あっけなく僕が負けた。



 あんなに言い訳ばっか言ってたケンちゃんも、ちゃんと勝負で勝っていった。スポーツマンシップに則った正々堂々勝負だった。悔しい。ユウくんは普通に僕に勝った。


 とはいえ、僕にだって部活がある。

 僕は美術部に入ってる。

 その実態はほぼ漫画研究部なんだけど。


 運動神経がなさすぎるので、運動部はナシ。文化系なら吹奏楽が幅を利かせているけど、僕の音楽の成績は2だ。文芸部とかオカルト愛好会とかあったら入ったけど、中学にそんなものはない。そのくせ、絶対入部制だ。


 でも偉大な先輩たちが美術部に残してくれたひみつの禁書本マンガがあるから、それ目当てか幽霊部員になりたい男子が意外とうちの美術部に入る——僕もその1人ってわけだ。


 やる気のないうちの顧問も、一応は様子を見にくる。だから出席だけのつもりで部活に行ったら、ちょっと出るのが遅くなった。(行きたくなかったともいう)ついでに友だちも誘ってみたけど、もののみごとにイヤがられた。



 そのせいで、もう夕方だった。



 でも、いかなくちゃならない。

 ここは男の意地ってやつだ。約束は守る。

 僕は一応、クールキャラで通ってるんだ。


 クールキャラといえばそのかっこよさは一言では語れないけど、間違っても逃げるやつはクールキャラじゃないと思ってる。そして、クールキャラはモテる。


 僕は女の子にモテるクールキャラでいたい。

 そう、すごく大事なことだ。


 とりあえず祠のはき掃除だけだから、学校の用具入れから小さいちりとりぼうきを拝借してきた。明日返そう。今日はすぐ行ってすぐ帰る——それだけを心に決めて、中途半端に手入れされた雑木林をすすむ。


 ところどころ入ってくる夕日が、あたりを燃やすように赤く染める。夜に変わる前の一瞬の美しさは、この山ではこわさしか感じない。こういう時間を逢魔時、なんていうらしいと何かで見た……思い出さなきゃよかった。



 まるで魔王を倒す勇者の気分だ。

 僕はそういう話が好きだ。

 でも残念ながら僕のパーティーは僕だけ。



 そんな泣きたい気持ちでも、歩いていれば目的地にはつく。そうして僕は、噂の『呪いの祠』の前で仁王立ちしていた。……枯葉の積もった祠は、もうそれだけでなんとなくこわい。



 ガラスがカーカー鳴いている。

 ばさばさ飛び立った音が不吉だ。

 でも、今のところ声はしない。



「……南無さんっ!」



 特に信心はないけど、とりあえず手を合わせて知ってる呪文っぽいお経 (ではないかもしれないけど)を唱えてから、鳥居をくぐる。かさかさ鳴る足下の枯葉にさえビビりながら、祠の隙間から中に入りこんでいる枯葉をとるために膝をついた……途端。



 ——けて。



「え?」



 何か聞こえた気がしてふりかえる。何もない。たぬきもいない……カラスの声を聞き間違えたのかもしれない。そう思って、前を向いたら。



 ——あ……て。


            あけ……。



      あ……けて。



 聞こえる。

 ひとつじゃない。

 間違えじゃない。




 この、声は——。









『  あ   け   ろ  』









「うわあぁぁぁ!!!!」



 歪んだような声から逃げようとしたら、枯葉にすべって尻もちをついた。その時振り上げたちりとりが祠の木の扉に当たる——と同時に、扉が傾いていく。




 壊れた——こわれたぁ!???




「えっ! やばい!!!!」




 急いで扉を閉めようと手で押さえるけど、あせりすぎて今度は内側に押し込みすぎてしまう。べキャッという最悪な音が聞こえてしまう。その途端、黙々と白い煙が祠からあがる。





「ふははは!!!! やっと出れたのじゃ‼︎」





 不気味な白い煙は一周僕のまわりを回って、形になった——白いフードみたいな布を被った、長い白髪で白い着物の、女の人に。




「感謝するぞ、(わらべ)

「ひぃぃぃなんか出てきたーーーー!!??」




 いくら僕がクールでも、限度がある。

 そう、目の前に幽霊が出てきたらね!

 だってこんなの、だれだって驚くだろ‼︎



「うむ、童、いい叫び声じゃ。おまけに美味しそうな魂をしておるなぁ? どれ、幸先がいい。お主を喰うて外に出る足がかりに……」

「ひぃぃぃぃイヤだイヤだ‼︎ なんでもするから! なんでもあげるから許してください!!!!」



 舌なめずりをする真っ白い幽霊は、目を細めて今にも僕に牙をむきそうだ。でも絶対いやだ。こんなとこで死ぬなんてかっこ悪すぎる! 女子にもケンちゃんにも笑われる‼︎


 それになにより、こわかった。

 だから僕は、カバンを放り投げた。



「お? ……なんじゃ、これは?」

「え……あえっと、それは……」



 開いていた僕のカバン。

 それを投げたもんだから、全部外に出て。

 幽霊の足下に落ちたのは——。




 僕の大好きなライトノベル(ラノベ)だ‼︎




「うむ……悪くない匂いじゃ」

「に、におい……?」

「童はこれが好きなのじゃな。思念が移っておる」

「しねん……?」

「興味深いのう……おぉ! これは今の書物か‼︎」



 拾った僕のラノベをつまんで、幽霊はじっと見つめた。そしてぱらぱらめくると、びっくりするくらいいい笑顔になった——口が裂けそうなほど。




「どれひと口……いただこうかのう」

「へっ?」




 べりっと破る音がして、僕が目を見開いた瞬間——その紙切れは大きな口を開けた幽霊に食べられた。



「ええええ!!!???」

「もぐもぐ……ふむ。軽い口当たりじゃが、悪くはないぞ。童の味ものっておるしの。ただ、童向けなだけあってやたら甘いのぉ」

「た、たべた⁉︎ 僕のラノベ、食べちゃったの!???」



 驚いてるすきから、まるでスナック菓子でも食べるように、幽霊はぺりぺりとページを破っては口に放りこんでいく。僕の今月のお小遣いの半分が……!



「感謝せい童。わらわは腹が減っておるのじゃ、ずっとここに閉じ込められていたせいでの。お主が食べられるより、よほどよいじゃろ?」

「そ……それは」

「なんじゃあ? ……喰うてほしいか?」

「ひぃぃぃ‼︎ 全部あげます全部あげます!!!!」



 僕の言葉に満足したのか、白髪の幽霊は祠の上に座ってぺりぺりと破いては、ラノベを食べている。ついでに隣の教科書もちょっと破いて食べたけど、「……雑味が多い」と苦い顔して捨てて、ラノベに戻ってしまった。

次回投稿は7時20分ごろを予定しています。

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