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前世が魔女だった伯爵令嬢、婚約破棄されて家を追い出されたので薬局を開きました~常連客は第一王子様です~

 



「フラン、フラーリン。……薬を、薬をくれ」


 げっそりとした様子で腹を押さえながら店にやってきたのはアモール王国の第1王子殿下。

 名をミルニーク・ラムダン。


 わたし――フランは薬草の間から顔をのぞかせて彼を見た。


 とうてい王子とは思えないほどのやつれ具合だ。


「あら殿下。今日も胃のお薬ですか? あと今はただの『フラン』ですよ」


 わたしはちょうど調合(ちょうごう)の終わった薬を袋に入れ殿下に渡す。


「毎度悪いな」

「いえ。こちらも商売ですので! それに殿下は良いカm……コホン。お客さんですからね」

「おい。今カモって言いかけなかったか?」


 わたしのつぶやきを目ざとく聞き取った殿下はジトっとした目線を送ってくる。


 危ない。本音が出るとこだったわ。


 わたしと殿下は同学年で貴族学校を卒業した友人とも呼べる関係だった。

 だから家を追い出された今でも前と同じような口調になってしまうのだ。


「……さあ。どうだったかしら? それよりも今日も少し休んでいかれますか?」

「ごまかそうとしてないか?」

「いいえ?」


 わたしと殿下はたっぷりと10秒見つめ合う。

 やがて殿下が溜息をはき眼をそらした。


「わたしの勝ちですね!」

「なんの勝負だ」


 ふらふらと傍にあったテーブルにつっぷす殿下。


「君たちのせいで忙しいなんてものじゃないぞ」

「ええ~? わたしのせいだけじゃないでしょう。というかわたしも被害者なんですけど?」

「仕方がないだろう? 君くらいにしかグチをこぼせる相手などいないのだから」

「まあいいですけど」

「いいんかい」


 わたしはけらけらと笑い声を上げつつ精神安定作用のあるカラムという葉でお茶を2つ分淹れた。

 テーブルに運び殿下に差し出す。


「まあまあ。これでも飲んで落ち着かれてくださいよ~」

「ありがとう。いただくよ」


 殿下はげっそりとした顔を起こした。


「しかし、本当に笑い事ではないぞ」


 殿下はお茶をすすりつつぶつぶつと言っている。


「今どんな感じなんです?」

「君達がしでかしたことの後始末が全部オレに回ってきたよ」

「うわっ最悪じゃないですかやだー」

「オレだってやだー」


 わたしは眉をしかめ、露骨(ろこつ)にいやそうな顔をしていることだろう。

 なにせ目の前にいる殿下も同じような顔をしているのだから。


「殿下も大変ですね~」

「まあ卒業パーティーを取り仕切っていたオレに責が回ってくるのはわかるのだが、それにしても数がなぁ」


 殿下の言う責とは、彼が主催する貴族学校の卒業パーティーで起こった事件の責のことだ。

 そしてわたしが家を追い出される羽目になったきっかけでもある。


 実はわたしはこう見えて半年前までは伯爵令嬢だったので、件の貴族学校にも通っていた。

 そして仲はよくなかったが一応婚約者もいた。


「ああ~。結局何組婚約破棄が起こったんでしたっけ?」

「8組だ。そんなところで末広がらなくてもいいのにな」

「8組ってことは16人? 流行(はや)ってるんですかね? 婚約破棄」

「流行ってたまるか!」


 のんびりとお茶をすするわたしに対して殿下はガバっと顔を上げた。


「君なぁ! 仮にも自分も婚約破棄されたんだからそう悠長(ゆうちょう)に構えている場合ではないだろう!? それに君の場合は伯爵家を追い出されてもいる。一大事だろう!」


 殿下のいう通り、私は卒業パーティー(というかもはや婚約破棄パーティーと言った方がいいかもしれない)で婚約者の侯爵家のご子息、ミュラー様に婚約破棄をされている。


 とはいえ、婚約者に恋愛感情を持っていたわけではないので何とも思っていないのだが。


「まあそうカリカリしなくてもいいじゃありませんか。それにわたし今の方が楽しいですよ?」

「いいわけあるかっ! オレの友人をこんな目に……」


 そういう訳でわたしはあまり根に持ってはいないもだが、殿下は自分のことのように怒っている。

 友人思いの良い方なのだ。


「まあ思うところがないと言えば嘘になりますけど、あの時は他の人たちのインパクトが強すぎて……」


 わたしは半年前の卒業……婚約破棄パーティーを思い出す。


 ◇


「フラーリン・イーグラン! 僕は真実の愛を見つけた! だからお前との婚約を破棄させてもらう!」


 卒業パーティーの(きら)びやかな会場で突如わたしの婚約者、ミュラー様が声を荒げた。

 その傍らにはフルフルと震えミュラー様の服を掴む可愛らしいご令嬢がいる。


 確か新興貴族の男爵令嬢だったはず。

 挨拶すらしたことがないので名前は知らないが。


 会場中の視線がわたし達に注がれる。


 わたしはすうっと大きく息を吸った。

 仁王立(におうだ)ちスタイルだ。


「そういうことはわたしのフルネームを言えるようになってから言ってください! さあ、どうぞ!!」


 言い返されたミュラー様はたじろぐ。

 わたしはなおも言いつのる。


「ほら、早く!」

「う、ぐぐ。いいだろう。……フラーリン・エリク・アリシア・ウレイ・サマク・オロロン……えーっと……ホロンホロン・エイジィ……だー!! もう分からん!!」


 途中でミュラー様は根を上げた。

 赤くなって怒っている。


「とにかく! そんな長い名前の奴など覚えられるか!! だからお前とは婚約を破棄する!!」


 まったくもって意味不明な理由の婚約破棄宣言だ。

 さっきの真実の愛とやらは一体どこにいったのだ。






 と思ったら別のところでも婚約破棄を告げる言葉が聞こえてきた。


「そんな理由でいいのなら俺も!」

「いやぼくだって!」


 そうして始まったのは婚約破棄合戦(狂ったパーティー)。そして婚約者の指名祭り(とち狂ったパーティー)


「ボクは――との婚約を破棄する! そしてこちらのご令嬢と婚約を結ぶ」

「ちょうど良かったですわ! 私もこちらの――様と婚約を結びます!」

「なら私も!!」


 婚約破棄した同士の男女が新たにくっつき、離れてはくっつきを繰り返す。


 なんだここは。地獄の一丁目?

 と思ってしまったのは無理もなかろう。


 正気な人間たちは皆ぽかんと口を開けたまま(ほう)けていた。


 もちろんわたしもその中の一人だったが、悲しいことにわたしには新たな婚約者を名乗る人は現れなかった。


 ほかの婚約破棄グループの令嬢令息のようにその場で新たな婚約者に名乗りを上げる予定などなかったわたしは、ちらりとミュラー様を見た。


 彼も全く予想していなかったようで、わたしを指さした状態で止まっている。


 もうすでに別の騒ぎになっているのだから、取りつくろう必要もない。

 それに今は婚約成立式に皆がくぎ付けだ。こっちのことなど誰も見ていないだろう。



 それなら今がチャンスでは?


 そう思ったわたしはそそくさと実行に移す。


「ミュラー様。婚約破棄承知いたしました。今回のことは貴方様の浮気が原因ということで、後日慰謝料(いしゃりょう)を要求しますのでよろしくお願いします」

「え?」


 何が言われたのか理解できていないミュラー様。


「あ、言い逃れできるとか思わないでくださいね? 浮気の現場や証拠はすでに揃っておりますし」

「あ?」


 ミュラー様にだけ聞こえる様に口を耳元に寄せる。


「慰謝料を拒否したり、わたしの邪魔をしようとしたら貴方様の……を大っぴらにしますので」

「な、ななななんでそれを!?」


 くすりと微笑んで見せる。


「わたしが知らないとでも? ともかくそう言うことなので、どうぞよろしくお願いしますね?」


 それだけ言い残すと私は会場を抜け出し家へと向かった。




 まあ結果として父親からは「慰謝料取ったのはいいが新たな婚約者を見つけてこんかー!!」って怒られて家を放り出されてしまったのだが。


 新たな婚約者を見つけてくるまで家には入れてもらえないらしい。


 イーグラン伯爵家は体育会系なのだ。



 ――回想終了。



 わたしの家「イーグラン伯爵家」では幼いころから一人で生きていける様に生活のあらゆるスキルを身に付けさせられる。


 その過程で何度も家から追い出されるという経験をしているから今更追い出されたところで「ああまたか」くらいにしか思わないのだ。


 そのスキルは生活スキルはもちろん、剣や魔法のスキル、芸術に至るまで様々で、家系からはそれぞれの分野のエキスパートが揃っているのだ。


 ちなみにお父様は王国でも1,2を争う剣士だし、お母様はあらゆる猛獣を従えらせる魔法を扱える。お兄様は音楽界で頭角(とうかく)を表して今や芸能のトップにいる。


 かくいうわたしは薬学特化。

 ありとあらゆる薬に精通した生粋(きっすい)の薬草オタクである。



 まあそういう訳で、侯爵家から勝ち取った慰謝料を元手にしてたくましく薬局を経営している。


「ちょっとは家に戻りたいとか思わないのか? 不便なこととか」


 殿下はすごく不思議そうに首を傾げている。


「今の生活が最高過ぎるので、別に。当分婚約者はいいかなと思っています」

「それはそれでどうなんだ?」


 殿下はあきれ顔になった。

 本当によく表情が変わる王子様である。


 それは王族として大丈夫なのだろうか?


 少し心配になった。


「だってわたし、調合が大好きですので。家では採れない薬草とか育てられるここから離れたくありません! ここはもはやわたしにとってのエデンなのです!」

「そ、そんなに」

「はい! それにお店の評判も上々ですしね」


 わたしは鼻息荒く体を乗り出す。

 殿下は体を引きながら苦笑いをしていた。


「家では栽培できなかったのか?」


「イーグランでは多少は栽培していましたけどここよりは土も育ってなかったですし、何よりお母様の猛獣たちが嫌がりますしね。それに侯爵家の皆様は土いじりもとい薬草栽培にいい顔をなさらなくて。だからどちらかと言えば婚約破棄できてよかったと申しますか。慰謝料もたんまりいただきましたし」


「……そうか」


 殿下は理解するのを途中で諦めたような曖昧な顔になった。

 なんとなく気を使われたような気がする。



 そもそもなぜ薬局を営んでいるのかと言うと、それがわたしの趣味だからだ。


 わたしには生まれた時から薬草や調合に関する知識があった。

 そう。わたしには前世の記憶が残っているのだ。


 数百年ほど前の記憶が。

 その前世で私は「魔女」だった。



「魔女」とは薬のプロ。


 腕利きの魔女は「惚れ薬」や「魔力増幅薬」なども作れるし、もっと腕利きになれば「不老不死の薬」なんかも作れる。


 かくいうわたしの前世は世界でもトップレベルの魔女だったのでもちろん「不老不死の薬」も作った。


 作ったのに死んだの? ってお思いかもしれないが、うん。死んじゃった。

 長い年月をかけて作り上げたというのに、飲もうとした時に見つかって火あぶりにされたのでした。


 不老不死の調合が楽しすぎて、認知妨害魔法とかをかけ忘れてしまったのが運のつきであった。

 おっちょこちょいの魔女っ娘だったのだ。



 まあわたしの前世についてはもういいだろう。



「君の腕は買っているよ。いつもよく効くからね」

「ありがとうございます。でも殿下は胃を傷めすぎだと思いますよ」

「それは仕方がない」


 殿下はわたしが薬局を開いた当時から週1ペースで通ってくる。

 胃を痛めたり、不眠になったり、頭痛がすごかったり。


 もう立派な常連客。

 頻繁(ひんぱん)に来ているし、1,2を争う太客だったりする。


 近所のおじいちゃんとどっちが来ているのかしら?


 正直本当に彼の体が心配だ。

 いっそ哀れ。


 今日も腹を押さえながら店に現れた所をみるに、また胃に穴でも開いたのだろう。


「どうします? 薬膳スープでも飲んで行けそうですか?」

「そうだな……。お願いできるだろうか」

「わかりました。ちょっと待っていてくださいね」


 わたしはキッチンに向かうと、昨日多めに作っておいた消化促進(しょうかそくしん)血行促進(けっこうそくしん)・疲労回復の効果があるスープを取り出す。


 殿下が頻繁に来るのでいつも多めに作っているのだ。


「食べてくれるのは嬉しいけれど、王族が毒見なしで食べ物を口にするって改めて考えると大丈夫なのかしら?」


 まあそれはわたしが考えるべきことではないな。


 そんなことを考えつつスープを温め器に入れて殿下の下に戻る。


「お待たせしました」

「ああ。ありがとう」


 部屋に戻ると殿下は窓の外をぼんやりと眺めていた。


「何か気になることでもあるのですか?」

「この家危なくないのかなって。令嬢が一人で暮らしているのだろう?」

「ああ、それなら問題ありませんよ。何度か夜盗さんがいらしたけれど返り討ちにしましたし」

「はっ!? なんだそれ! 聞いていないぞ!!」


 殿下は何故か慌てた様子でわたしを凝視している。


「ええ、だって言ってないですもの。殿下にこれ以上心労をおかけしたらまずいですし……って言っちゃいましたわ!」


 いやあ、うっかりしていた。

 うっかりうっかり。


「ちょっと待て。もしかしてオレに言ってないことが他にもないか?」

「ええ……? な、なんのことでしょうか」


 目が泳ぐ。

 もちろん殿下に伝えてないことは1個や2個ではない。


 そのどれもが彼の心労に成り得るものなので黙っていたのだが、つい口を滑らせてしまった。


「わたしのことはいいんですよ。ほら、それよりも今の貴族社会がどうなっているのかが聞きたいな~!」


「ごまかしてないか?」

「いいえ全然?」


 殿下はなおも疑いの眼を向けてきたがわたしは明後日の方向をむいてごまかした。


「はあ……。オレは君が心配だよ。いろんな意味で」

「心外ですわ!」


 大きな溜息をついた殿下は浮かせていた腰を落ち着けてうなだれてしまった。


「君は家から離れて街の隅にいて、友人に会えなくて寂しくないのか?」

「友人……? 殿下と会えてますから、特には」


 わたしは首を傾げた。


 たくましすぎるイーグラン伯爵家は他の貴族とあまり交流を持たない。

 それ故わたしには友人と呼べる人が殿下以外にはいないのだ。


 殿下と友人になったのも割と特殊な例だったし。


「だから寂しくはないですよ?」

「フラーリン……」


 それを伝えると殿下はそっぽを向いた。

 心なしか耳が赤い気がする。


 もしかしなくても照れているのだろう。


「それにわたしにとっては交友関係よりも調合関係の方が大事ですし!!」

「それは言わなくてもよかっただろうが!」


 付け加えたら怒られてしまった。

 不機嫌そうな表情で睨まれる。


「え~? 殿下が一番大事だって言ってほしかったんですか?」


 わたしはにやにやとしながら笑う。

 意地の悪い質問だというのは分かっていたが、殿下の反応が面白いのでやめられないのだ。


 こういうやり取りは、殿下が薬局に来るようになってからよくするようになった。


 どう考えても不敬ではあるが、殿下も止めようとしない。

 殿下も殿下で楽しんでいる証拠だろう。




 だが、今日はいつもと違った。


 殿下は少し迷ったように視線をさまよわせていたが、決心したように私を見すえた。


「……ああ、そうだよ」

「え?」


 小さな声でぼそりとつぶやく殿下。

 最初は何を言われたのか理解できなかった。


 でも真っ直ぐに見つめてくる殿下の顔が赤くなっているのを見ると、つられて熱くなってくる。


「な、何言ってるんですか~!」

「いや、オレは本気だ。君が婚約破棄を言い渡されたとき、確かに激怒した。君を唯一無二の友人だと思っていたからな。だが君が近くにいなくなって分かった」


 殿下が椅子から立ち上がる。

 それにびくっと震えてしまった。


「君は(さと)い。だからもう分かっているだろう? オレがなぜ忙しいにも関わらず王宮から遠く離れた君のところまで通ってくるのか」

「それ、は」


 深く考えないようにしていたことだ。

 だって王宮にも優秀な薬師はいるはずだから。


 それにも関わらずに、わざわざわたしのもとに頻繁に通う理由。

 それが友人として会いに来ているわけでないとしたら……。


 殿下はわたしの傍までくるとわたしの左手を取った。

 そして薬指にキスを落とす。


「オレは正直、君の婚約が白紙に戻ったことに安堵したよ。すぐに婚約者をとらなかったことにも」

「殿下、な、何して」


 わたしは内心大パニックだった。


「なあフラーリン。君は薬の調合ができれば良いと言っていたね。ならそこが王宮であってもいいはずだよな?」

「でででで殿下!! 今までそんなそぶりを見せなかったはずなのに、一体どうされたんです!?」


 半ば叫ぶようになってしまった。

 自分でいうのもなんだが、わたしは色恋沙汰には疎い。


 だが、ここまでされてしまうと意識しないわけがない。


「ああ、今までは外堀を埋めていたんだ。気が付かなかったか? 言ってなかったが、オレと君はもう婚約関係にあるんだ」

「ええっっ!??」


 何ですかそれ。初耳なんですけど。


「何か月も通い続けてようやく伯爵の了承も得られた。後は君の気持ち次第……いや。君が嫌だと言っても王宮に連れていくつもりではあるが……。どうかオレの言葉を聞いてほしい」

「ちょ、ちょちょちょ! ちょっと待ってください!!」


 強引に話を進めようとする殿下にあわあわとするしかできない。

 握られたままの手が熱い。


 そのことが余計に恥ずかしさを際立たせた。


「そそそそうだ名前!! わたしの名前を全部言えたらいいですよ!!」


 パニックになったわたしは絶対に覚えている人がいないであろう自分の名前を引き出した。


 家族でもたまに間違える程長い名前だ。

 婚約者でも言えなかった名前。


 殿下が把握しているとは思えない。


 イーグラン伯爵家は代を追うごとに先代たちの名前を付け加えていく伝統がある。


 女性は女主人の、男性は伯爵を継いだ者の名を入れていく。

 それ故の長名なのだ。



「フラーリン・エリク・アリシア・ウレイ・サマク・オロロン・ホロンホロン・エイジィ・スノウヴィ・メラン・コニー・ネイチェル・ミルキー・ウェルナー・イーグラン伯爵令嬢」


「いや、長いな!?」


 自分の名前ながら長すぎてびっくりした。


「……って、なんで言えるんですか!?」

「当たり前だろう。好きな相手の名前は覚えない方がおかしい」

「っ! す、好きって」


 言われ慣れていない言葉を言われたせいで忘れかけていた状況を思い出す。


「ああ、ずっと好いていた。風変わりなところも、調合にのめりこむ様子も、意外と腹黒いところも」

「ちょっと待って。それ、褒めてます?」


 遠回しに(けな)されている気がしてならない。


「褒めているさ。そんなところも好きなんだ。もちろん周りをよく見ているところも、面倒見がいいところも、意外と見た目に気を使うところも好ましいと思っている」

「……殿下って、変わってますよね。普通だったら欠点だと言われるところもす、好き……とか」


 途中で自分の口から出る単語が恥ずかしくなりうつむく。

 上から殿下の笑った気配がした。


 ちらりと目線を上げればやはり笑われている。


「それほど惚れ込んでいるということさ」

「~~!!」


 耳元でささやかれて空いていた方の手で押さえる。

 涙目になりながらも睨めば殿下はころころと声を上げた。


「だから……な? オレのもとに来てくれないか」


 ふと真剣な表情になる。

 その切実な思いに心臓が音を立てた。


 わたしとて殿下を嫌っているわけではない。

 むしろ友人としては唯一無二ともいえる仲である。


 それに、実はわたしも彼のことを好ましく思っていたのだ。


 正直今すぐにでも飛び上がりたいほど嬉しい。



 だがそれを面と向かって伝える勇気は、まだない。


「……っ、王宮のお庭を薬草畑にしてしまうかもしれないんですよ? いいんですかそんな女で!?」


 だから薬草を盾にしてお道化(どけ)てしまう。

 でも殿下はそんなわたしですら受け入れるというのだろう。


 今も真剣な表情で手を握っているのがその証拠。


「ああ、君のために専用の庭を作ろう。調合も好きなだけやれるようにするさ。君がオレの傍にいてくれるのならば、な」


 そう言って赤い顔で微笑む殿下に胸が高鳴る。

 ああきっとこの先、わたしは彼から逃げられないのだろう。


「……わかった、わ。不束者(ふつつかもの)ですが、どうぞよろしくお願いしますね?」


 でもきっとそれは幸せなことだろう。

 不老不死でなくても好きな相手と共にいられて好きなことを許されることの方がわたしにとっては嬉しいことなのだから。


 わたしは彼の手を握り返して微笑んだ。




 それから数年後、アモール王国の王宮には世界で見ても貴重な薬草が多数育てられていると有名になったのだった。


ここまでお読みいただきありがとうございました!


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