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10. 美しいお方

 ――美しいお方だ。


 シューベルト学院女子寮の一室にて、二人の人物がいた。

 フローラと彼女の従者だ。


 学院の生徒は従者を一人だけ連れてこられる。

 フローラの従者はエマという女性が務めていた。

 明るい茶色の髪をお団子のようにを一つにまとめた、純朴そうな少女だ。

 目の下に小さな黒子があり、可愛い顔をしている。


 エマは窓の外を眺める主人、フローラ・メイ・フォーブズを見て感嘆する。

 月明かりに照らされるフローラの端正な横顔は、息を呑むほど魅力的であった。


 エマは平民の出であり、本来侯爵令嬢の付き人になれる立場ではない。

 さらに言えば、エマは平民の中でも最下層の出自、スラム出身だった。

 偶然、スラムを訪れていたフローラに拾われ、なんやかんやあって仕えることになったのだ。

 エマからすれば奇跡のような出来事である。


 エマがフローラに出会ったのが、フローラが10歳の頃。

 まだフローラが少しだけふくよか……いわゆるぽっちゃり体型だったときだ。


 多少太っていてもフローラの美しさは不滅である、とエマは考えている。

 なぜなら、エマはフローラの美しさを内面に感じていたからだ。

 貴族でなければ人にあらず、と言う貴族が多くいる中で、スラム出身のエマに偏見なく接してくれるフローラ。

 10代とは思えないほどの魅力溢れる知性。

 そして何よりも、民を想う優しい心。


 エマはフォーブズ家で働き始めたときに、使用人たちから聞いた話だが。

 フローラがスラムを訪れていたのは、なんとエマのような人を救うためであったという。


 その後もフローラの貧困をなくそうとする努力を近くで見てきたエマは、


 ――私は生涯この方に尽くします。


 と、忠誠心を厚くしたのだ。

 苦しんでいた人たちを救ってくれたフローラを、神がお遣わしになった天使だと本気で信じているほどだった。


 比較的歳が近いということで、エマがフローラの従者として学院についていくことになり。

 エマは女子寮の一室にてフローラの側に控えていた。


「フローラ様、本日の入学式はいかがでしたか?」


 入学式に出られなかったエマだが、フローラはさぞ美しかったのだろう、と想像していた。


「問題なくてよ。ただ少し窮屈に感じましたわ」


 窮屈と聞いてエマはすぐにピンと来た。

 この学院の古い習わしを、フローラは「窮屈」と言っているのだろう。

 貴族と平民の対立はフローラの望むところではない。

 と、エマは考えていた。


 スラム街をなくために奔走したフローラが学院の現状に嘆くのは当たり前のことだ、とエマは思った。


「そうですか。ですが、フローラ様ならきっと変えられますよ」


 エマにあるのはフローラに対する絶対の信頼だった。

 そんな信頼されたところで、フローラにはそれに応えるだけの器は持ち合わせていない。

 なぜならフローラは、


 ――変えられるって何を? 窮屈なのはお腹周りなんだけど……。


 入学式ということで、コルセットを締めすぎたフローラ。

 さらにその状態でお肉をいっぱい食べたのだ。

 フローラのお腹はパンパンだった。

 そういう意味の窮屈なのだが。

 はたして、フローラは何を変えればいいのやら……。

 フローラは首をひねっていた。


 ――お肉の脂肪を筋肉に変えろってことか?


 フォーブズ家で働くものは脳筋が多い。

 フローラはエマをみて、


 ――そうか……。とうとう、エマも脳筋に毒されてしまったか。


 と悲しい目でエマを見たのだ。

 しかし、エマはフローラの表情から、


 ――この方はきっと私にはわからない苦労を背負われている。


 と思い、さらには、


 ――私にできることはフローラ様の身の回りの世話をすることしかありませんが……。それでも全力で、フローラ様のお過ごしになる環境を整えましょう。


 エマはフローラへの忠誠を高めた。


「私もできることならお手伝いしますので、なんなりとお申し付けください」

「え……あ、はい?」


 フローラは自分のダイエットのために、真剣になってくるエマを見て驚いた。

 そして彼女はエマにはお風呂に入る際にお腹周りを見られていたことを思い出す。


 ――お昼に食べすぎて、太ったのがバレたんだ。


 フローラはお腹をさすりながら、かなりショックを受けていた。

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